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胃薬「ガストール」にまつわる気になるデータ

胃腸薬

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市販の胃薬を調べてみたら・・・

年末年始、あちこち飲み会が開かれ、胃薬の需要が増えている。

今年発表されたある論文に、気になる記述を見つけた。市販の胃薬を調べたら、同じ成分の製品なのに、胃酸を中和する力(制酸力)にバラつきがあったというものだ。論文の内容は専門的だけど、僕たち(消費者)にも関係する話なので触れておきたい。

論文の執筆者は摂南大学薬学部の岩崎綾乃助教。『薬学雑誌』の2014年6月号に載せた「一般用医薬品の胃腸薬における制酸力の比較検討」(※1)という研究で、市販の胃薬の制酸力を試験管内で調べた(※2)。その結果、これは実験の当初の目的から外れてたまたま分かったことだと思うのだけど、錠剤と顆粒で制酸力が異なる製品が見つかった。

その薬の名は「ガストール」。たいていのドラッグストアに置いてある、とても有名な胃薬だ。

ちょっと待て!それ、僕がいつもお客に勧めている薬じゃないか!

 

同じ製品なのに制酸力が違った

論文によると、「新センロック」の錠剤と散剤、「弘真胃腸薬」の錠剤と顆粒、そして「ガストール」の錠剤と細粒を調査した。

これらはすべて、剤型(錠・顆粒・細粒)は異なっても、含まれる薬効成分の種類と量は変わらない。たとえばガストールであれば錠剤でも細粒でも、成分表記上は制酸力は同じハズということだ。

ところが、岩崎助教の試験結果では、「ガストール」の制酸力(本論文でいう制酸力とは炭酸水素ナトリウムなどによるもの。ピレンゼピンは含まない)は、細粒のほうが錠剤よりも高かった(学問的に表現すると、統計学的に有意に髙かった)。なんですと?さらに、細粒についてはロット間(商品間)で制酸力の差があった。ななな、なんですと!?

ちなみに「新センロック」と「弘真胃腸薬」は、剤型によって制酸力は変わらなかった。

ガストールは錠剤と散剤で制酸力が違っていて、そのうえ細粒は商品ごとの制酸力も違っていた。論文の著者は、この結果について「(原因の)詳細は不明」としたうえで、「製剤時の原因」「添加物の影響」を可能性として挙げている。

著者の言うとおり、この論文だけでは何も結論づけることはできない。試験のやり方に問題があった可能性もある。ガストールのメインとなる成分「ピレンゼピン」(酸を中和する「制酸剤」とはちがい、胃酸の出過ぎを抑える効果を持つ)は、今回の実験対象から外れているから、制酸力がロットごとに多少違っても製品全体としての薬効にはほとんど影響しないかもしれない。

ただ、僕が個人的に注目したいのは、どこまで薬の品質を信用していいのだろうか?という問題だ。

 

「医薬品はちゃんと作られている」ってホント?

「医薬品はちゃんと作られている」と漠然と考えている人は多いと思う。薬学部を出た僕でさえ、学生時代はさんざん教授から「医薬品は国の厳格な基準に基づき製造されており・・・」と教わった。けれども卒業して、実際の医薬品を見たり、国の審査機関の担当者たちと話すなかで、僕の印象はかなり変わった。

実は、薬に含まれる成分が必ずしもメーカーの説明通りでないことは、現場の薬剤師の間ではわりと知られている。たとえば、薬学的に先発品と同じというふれこみのジェネリック医薬品のなかには、販売後の調査で”同じではない”ことが判明し、自主回収に至った例が毎年ある(※3)。

製造管理基準が厳しい医療用医薬品でさえ、品質は100%保証されていないのだ。市販薬にだって、当然、品質に問題がある製品があると僕は思う。市販薬に関しては、そもそも研究している大学の研究者が少ない。製薬メーカーの協力を得ないで、利益相反せずに研究しているケースはさらに少ない。専門誌に載っている情報も、ほとんどが製薬メーカーのプレスリリースをもとに作られている。だから、僕みたいに現場の店員が本当に知りたい、「市販薬の製品ってどこまで保証されてるの?」などといった、懐疑的な視点から出発する研究は、ほとんどない。

病院にかからず自分で健康を管理する「セルフメディケーション」という言葉が、厚労省や医療業界では流行っている。近年、市販薬市場(指定医薬部外品を含む)は約8000億円で横ばい(※4)。けれど、もっとセルフメディケーションが普及して、市販薬への注目が集まれば、いずれ市販薬の品質問題にもメスが入るだろう。これは時間の問題だと思う。

 

穴場の研究ですよ!

この論文の内容を、大手の医学専門出版社で働いている知人(20代後半)に話したら、

「そういえば、市販薬って1回3錠とか、一回に飲む錠数が多いですよね。これは、錠剤ごとに成分量が違うから、それをならすためって、どこかで聞いたことがあります」

と笑って言った。もちろんこれは冗談半分だろうけれど(※5)、製品の均質性への不信感を象徴しているともいえる。火のないところに煙は立たぬという言葉もあるから、大学で「研究テーマ、何にしよっかな~~」と決めかねている人は、市販薬に着手してほしい。穴場ですよ!

 

 

※1 https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/134/6/134_14-00007/_pdf

※2 「試験管内で調べる」とは、試験管内に酸性物質と塩基性物質を混ぜ合わせて、お互いがどのくらいの量で中和するかを調べること。本論文の試験は、第16改正日本薬局方に記載された制酸力試験法を採用している。

※3 現場の薬剤師たちにはずっと「ジェネリックは先発品とデータ上は同等であるといわれているが、患者の声を聞く限りそうとは思えない」など、品質に対して疑問があった。近年、国がこうした不信を払しょくするために調査したところ、やはり一部のジェネリック医薬品の品質には問題があることが判明。一般の人々の耳に入ることはほとんどないが、実は国の調査によって毎年、不適合の烙印を押された製品が出ている(http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000016052.html)。一方で、こうしてジェネリック医薬品に対する公の調査などが行われた結果、個々の製品の品質が明らかになり、薬剤師が抱いていたジェネリック医薬品全体に対する不信感はかなり薄らいでいる。

※4 矢野経済研究所調べ http://release.nikkei.co.jp/attach_file/0371976_01.pdf

※5 一回に飲む錠数が多いのは、年齢に応じて飲む錠数を調整できるようにするためだという見方が一般的だろう。しかしこれだけでは、エスタックイブのように15歳以上しか飲めないにも関わらず一回の服用量が3錠の製品もあることは説明がつかない。