ドラッグストア店員の僕は「イブクイック」をお客に勧めないし、自分も買わない

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お願いだから、聞かないで・・・

先日、頭痛・生理痛薬「イブ」について書いたので、その続きを。

 

ドラッグストアで薬剤師としてバイト中、お客から、

「イブっていくつか種類があるけど、なにがちがうの?」

と聞かれることがある。前回記事に記したとおりの違いを説明する。ほとんどのお客は、すんなりイブシリーズのなかから一つ選んで購入していく。 そんなとき、僕は心の中でちょっとホッとする。

「『あのこと』について聞かれなくてよかった・・・」

『あのこと』とは、ほかでもない、イブクイックの特徴である「速く効く」への疑念である。

 

どうして「どれだけ速いんですか」と聞かないの?

メーカーの説明によれば、イブクイックの特徴は、胃に優しい成分が入っていること、そして効き目が早いこと。特に効き目の早さが、この商品のウリで、だから名前が「イブ『クイック』」だ。

しかし、前回のエントリに記したとおり、イブクイックは他のイブシリーズと比べて2倍も小売価格が高い。そして、イブクイックに含まれる鎮痛成分は、安価なイブA錠と実は同じなのだ。

そうなると、当然気になるのが、イブクイックの費用対効果。

「イブクイックって、どんだけ”クイック”なの?」

という疑問が、僕はいつも頭にちらつく。

幸か不幸か、実際に訊ねるお客は、ほとんどいない。

「まあ、店員が『速い』っていうんだから、きっとそれなりに速いんだろう」

と納得しているのか。あるいは単に、聞くのがめんどくさいのか。 ともかく僕は、お客にイブシリーズを案内するときに、 「イブクイックって効き目が速いっていいますけど、他よりも何分くらい速いんですか?」 と質問されやしまいかと、いつも内心ヒヤヒヤしていた。

一体、イブクイックは、どれほど”クイック”なのか・・・。ある日、メーカーに問い合わせてみることにした(※1)。

 

即効性についてメーカーに聞いてみた

メーカーに問い合わせると、学術部が丁寧に対応してくれた。

「比較試験がありますから、お店に郵送します」

後日、販促用パンフレット(一般の方は見ることができない)が手元に届いた。おーデータがちゃんとあるじゃないか、と思ってパンフレットを開いたが、ん?あれ?おかしい。どこにも僕が探していたデータは載っていない。

パンフレットには、イブクイックがいかに優れた薬かを示す、いくつかの実験結果が掲載されていた。そのうち、めぼしいデータは次の2つだった(※2)。

 

①イブクイックと対照薬(即効性を促す「酸化マグネシウム」が入っていない)を比較したところ、薬の血中濃度が最大になるまでの時間が約1時間短かった(※3)。

頭痛に対する効果発現率は、服用15分後で約40%、30分後で約80%の人が実感した。57人を対象に調査。

 

専門用語が並んでわかりづらいので、わかりやすく噛み砕いて説明したい。

まず①の「血中濃度」というのは、薬を評価する場合によく使われる言葉で、その名の通り「血中に含まれる薬の濃度」を指す。ざっくり言ってしまうと、「血中に含まれる薬の濃度の上昇が速い」=「速く薬が効きそう」と見ることができる。だから、①はたしかに、イブクイックが”クイック”な薬であることを科学的に、ちゃんと証明している。

でも、これは血液を調べただけであって、僕らが感じる効果の即効性を直接示すものではない。僕らが知りたいのは、実際に服用した後で満足できるほどの即効性を得られるかどうかだ(血中濃度が最大になるまでの時間が1時間短縮」というのは、効果の発現が1時間短縮されたということでは全くないのでご注意)。

②は、薬の効果が表れるまでの具体的な時間を記載している。でも、他の薬と比較した試験ではないから、イブクイックが他の薬よりも速いことを示したデータではない。①ではちゃんと比較試験をしているのに、なぜこちらでは比較をしなかったのだろう?ひょっとすると、実はやってみたのだけど、パンフレットに載せるには都合の悪いデータだったのだろうか?

いずれにしろ、メーカーに聞いても僕の知りたいデータは得られなかった。ネットで国内の論文を検索したけれど、僕が望む実験論文は見つからなかった(海外論文はめんどくさいから省略した)。たぶん、多くの研究者にとっては、市販薬なんてどうでもいいことなんだろう。市販薬の研究?ダサッ!みたいな。でも、現場で実際に「お客にとってベストな薬を売りたい!」と思っている者にとっては、心底知りたい情報なのだけれど。

もっとも、こんなふうに小難しいデータを見なくても、誰もがこう思うんじゃないだろうか。

「イブクイックだろうとイブA錠だろうと、服用して30分もすれば効くんでしょ。その30分のなかで、「速い」「遅い」を競ったところで、わずかな差なんじゃないの?」

と。僕もそう思う。でも、お客に話すほどの自信はない。しかたないから、自分の体で試してみることにした。

 

実際に飲んでみた。”クイック”じゃなかった

イブクイックは、どんだけ”クイック”か――。

はたして今秋、この疑問を自分の体で試す好機が訪れた。風邪を引き、頭痛とだるさ、喉と節々の痛みで、立っているのも辛い状態に襲われた。そこで、イブA錠とイブクイックを飲んだ。結果は以下の通り、ちょっと意外だった。

 

風邪1日目 喉の痛み、節々の痛みにイブA錠を服用

  • 服用後10~15分で全身の痛みの軽減が始まる。30分後に喉痛もなくなる。
  • 服用後3~4時間で効果は完全に消える。

 

風邪2日目 頭痛にイブクイックを服用

  • 服用15~20分で頭痛の軽減が始まる。
  • その後、あまり頭痛は改善されなかった。効果が消失した時間は不明。

 

服用してから効果を実感できるまでの時間は、イブクイックとイブA錠でほとんど差がなかった。イブクイックにしろ、イブA錠にしろ、わずか15分程度で明かな効果が表れた。これは僕の想像よりも速かった。

 

イブクイックを買うことは、もうないだろう

イブクイックは本当にクイックなのか。

あらためて整理すると、

 

・明確なデータはなさそう

・メーカーの資料によると、服用後15分で4割が効果を実感

・僕個人の体験では、他のイブと大差なし

 

以上の3つを考える限り、僕はお客に、

「イブクイックは値段は高いですが、痛みを速く消したいなら断然おすすめです」

なんて、とても言えない。 もっと詳しい薬剤師さんの意見や、研究者のデータがあれば、意見を変えるかもしれない。だけど、いまのところ、説得力のあるイブクイック擁護論を聞いたことがないし、メーカーからも提示されていない。だから、

「イブクイックが謳う『速く効く』に、値段の高さを正当化できる合理性はない」

というのが僕の結論だ(※4)。

僕自身がイブクイックを買うことはもうないだろう。家族にも勧めない。お客にも積極的には勧めない。むしろ最近は「一般論としては、私は経済合理性は低いと思います」と伝えている。わずかな差でも速い効果を期待したい人や、胃への負担がよほど気になる人を除けば、安価なイブA錠で充分。グッバイ!イブクイック!

 

 

※1 医療用医薬品であれば、まず審査報告書をウェブ上で閲覧するところだが、イブクイックはPMDAの検索をしても出てこない。PMDAにも問い合わせたところ、公表されていないことがわかった。これは僕にはすごい驚きだったし、その理由を含めて非常に問題であると感じたのだけど、ここでは触れない。

※2イブクイックは対照薬よりも鎮痛効果が高いというメーカー実施の薬理試験がパンフレットに記載されているが、これはマウス実験である。ヒト試験で評価するのが通例であるため、鎮痛効果の差についてはここでは触れない

※3原著(医学と薬学 57(3): 335 -342 2007)を図書館で確認したところ、イブクイックは90%吸収するのに1時間、対照薬は2時間かかった。吸収量と血漿半減期に差はなかった。

 ※4イブプロフェンを溶けやすくするための製造コストに興味がある方は、特許庁の「特許電子図書館」(http://www.ipdl.inpit.go.jp/homepg.ipdl)で「可溶化イブプロフェン」を検索してはどうか。イブプロフェンの溶解性について、専門的な解説がわかりやすく書かれている。