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ドラッグストアとセルフメディケーションという時代

政治 ドラッグストア情報

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セルフメディケーション」で大きくなるドラッグストアの役割

年末年始と今回の連休で、暴飲暴食した人はいないだろうか。昨年から、薬局やドラッグストアで、血糖値やコレステロール値が測れるようになった。これまで禁止されていたわけではないのだけど、国が規制緩和したことで、お店側が血液検査をしやすくなった。もし興味がある人は、試されたし。


薬局・ドラッグストアの店頭で血液検査が可能に :日本経済新聞

 

なんでこういうサービスが出てきたかというと、国が「セルフメディケーション」を進めているからだ。セルフディケーションとは、普段から病気にならないように健康管理したり、軽い病気なら病院に行かずに市販薬で治したりすることだ。背景には、国の医療財政がひっ迫していて、なるべく病院(保険診療)を控えてほしいという、お財布事情がある。

ようするに、国民のみなさんは、これ以上後世に人たちに借金を残さないように、国のお金に頼らず自力で健康を守ってくださいってこと。

そこで活躍するのが、薬局やドラッグストアだといわれている。病院以外で血糖値やコレステロール値が測れるようになったことも、国が進めるセルフメディケーションの一環だ(※1)。

いま、医療界ではこのセルフメディケーションを軸に、いろいろなことが変化していっている。いいか悪いかは別として、そういう流れになっている。

さて、今日はこのセルフメディケーションに絡んで、全国にいる28万人の薬剤師さん(※2)にあやまりたい。ごめんなさい。僕は先日、薬剤師の評判を落としてしまった。ほんとは心に留めておきたいけど、このブログは僕の恥を晒して他山の石としていただくことだから書く。

ちょっと専門的な内容になるけど、どうぞ薬の知識のない人もお付き合いください。セルフメディケーションって、誰にでも関係する話だと思うから。

 

糖尿病の薬を飲んでいる高齢者が来店

先日、バイト先のドラッグストアにかなり高齢の女性が来店した。鼻水が出て、なぜか鼻血も少しでるから、鼻にシュッとさすスプレーを買いたいという。

点鼻薬のなかでスタンダードな商品は「ナザール」という鼻炎スプレーだ。これは鼻水・鼻づまりを止める薬。鼻血が鼻のかみすぎのせいだとしたら、鼻水を止めれば鼻血はおさまる。それにこの薬は血管を収縮させる成分が入っているから、鼻血を止血できる可能性もある。


【佐藤製薬】ナザールスプレー ポンプ(新) 30ml【第2類...|メディストック【ポンパレモール】

 

普通のお客さんなら、あとは他製品との違いを説明したりしてトントン拍子に進むのだけど、高齢者の場合はそうはいかない。肝臓や腎臓の機能が弱いと薬を解毒する(専門用語では「代謝」といいます)力が低くなっているから、通常の大人よりも副作用が出やすい。そして、大抵は通院してたくさん処方薬を飲んでいるから、そうした薬との相性も考えなくてはいけない。かなり慎重になる。

女性にふだん飲んでいる薬を確認すると、3種類の薬を飲んでいるという。高齢にしては少ない。ホッとした僕に、女性は次の3つを挙げた。

  • グラクティブ(糖尿病の薬)
  • アレロック(アレルギーの薬)
  • ウルソ(肝臓の薬)

どれもごく一般的な処方薬だけど、僕は「そっそれは・・・」と、息を飲んだ。 

 

「でも・・・」「もし・・・」でアタマがいっぱいに

ここで何が問題かというと、鼻炎スプレー「ナザール」の成分には、血糖値を上げる可能性のあるナファゾリンという成分と、アレルギー薬の副作用を強める可能性のあるクロルフェニラミンという成分が入っていることだ。

血糖値を上げる、副作用を強める、なんて書くと、

「そんなアブネーもの、使えるわけないじゃん!」

と思われるかもしれないけれど、点鼻薬は内服薬よりも副作用がでにくいので、単純に「危険」とはいえないのだ。ここが難しいところ。経験豊富な薬剤師なら、たぶん適切な答えをすぐに導くことができたと思う。

でも、経験の浅い僕はウーンとうなってしまった。その時考えたことはちょっと専門的になるから省略するけど(※3)、「鼻炎スプレーはたぶん使っても大丈夫」という声と、それに対する「でも」「万が一」という安全性への不安の声が、バチバチと議論をして、頭から湯気がプスプスでてきた。

薬学的に言えば、ナザールスプレーは販売してもいいように思うけど、僕には自信を持って「この薬で大丈夫ですよ」という勇気がなかった。恐かったのだ。

ここは安全策をとって、かかりつけの医師を受診してもらうことにしよう。そう思って、女性に受診先を聞いたら、遠くの有名な大学病院で、当分受診予定もないという。ガーン。

そして、女性からさらに僕の脳天を鋭く貫くような次の発言が・・・。

「(有名な)大学病院の医者っていっても、薬のことはあまり知らないんですよ。でも、薬剤師さんは幅広い薬の知識があるからねっ」

ぐはーーーー!

こんな薬剤師でこめんなさい!!

全国の薬剤師の方々、評判を落としてごめんなさい!!!

 

リスクをとらずに病院送り

結局、この女性には、なぜこの薬を自信をもってお勧めできないかを正直に説明をして、あくまで使用は自己責任になることと、不安があれば今回は近くの病院を受診することをお勧めした。

女性は近所の病院を受診することに決めた。「いろいろ相談にのってくれてありがとう」といってくれたけど、僕はめちゃくちゃヘコんだ。いやいや、おばあちゃんゴメンよ・・・。

こうして、僕は、あまり合理的でない理由でお客を病院送りにした。セルフメディケーションも医療費削減もへったくれもない。

他の薬剤師なら、どういう対応をとっただろうか?同じようなことが二度と起きないように、信頼できる薬剤師に意見を聞いておこうと思う。

僕のドラッグストアでは、薬剤師も登録販売者も、高齢者からの相談は、ほぼ自動的に病院を勧める。お客の安全第一という面もあるのだけど、なにかあったら店の責任になるし、そんなリスクをとりたいドラッグストアはどこにもないだろう。そして、リスクをとっていくような社員教育もない。つまり、個人の努力や裁量にかかっている。

だから、処方薬を飲みながら市販薬を使いたい人は、お店よりも、そこで働く「人」を見て相談してほしい。薬剤師であろうと登録販売者であろうと、勉強している人はきっと役立つアドバイスをくれる。

先日、ある薬剤師さんのこんなツイートを見つけた。

その通りだと思う。セルフメディケーションって難しい。

 

 

※1 日医総研の資料よりhttp://www.jmari.med.or.jp/download/WP328.pdf

※2 厚労省資料よりhttp://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/12/dl/gaikyo.pdf

※3 ナザールの成分は次の3つ(成分量は100mL中)。

  • ナファゾリン塩酸塩50mg(鼻づまりを抑える薬)
  • マレイン酸クロルフェニラミン500mg(アレルギーの薬)
  • ベンザルコニウム塩化物10mg(殺菌の薬)

ナファゾリンは交感神経を刺激するから血糖値を上昇させる可能性がある。しかし、飲み薬ではなく点鼻薬であり、まして短期投与であることから、全身への影響はないと考えた。でも飲んでいる糖尿病薬が新薬グラクティブであるから、この人は長い間糖尿病だったかもしれないと考えると、動脈硬化も進んでいる可能性もあり、今回は慎重になるべきかもしれないという不安もあった。なお自己申告ではHbA1cは6%強でコントロールされていた。

抗アレルギー薬のアレロックとクロルフェニラミンの併用について、一番心配する副作用は眠気だと思った。しかし、点鼻は眠気の副作用はほぼないと考えていいから、併用しても大丈夫なはずである。しかし、本当に大丈夫と100%言い切れるだろうか。抗ヒスタミン薬は点鼻といえども一部消化管から吸収されて中枢の副作用を起こす可能性がある(参考:http://www.zaditen.jp/faq/q_035.html)。高齢者の転倒は、寝たきりに繋がる可能性が高い。そんな「もし」「万が一」を考えると、僕は身動きがとれなくなった。僕はどうすべきだったのか、この場を借りてアドバイスいただけたら幸いだ。