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効きすぎて怖いロキソニンの、もっと怖い話をしようじゃないか

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「魅惑のロキソニン

解熱鎮痛薬の「ロキソニンS」はドラッグストアの人気薬の一つだ。僕のブログの読者になってくれているwasserfallさん(日本人です、念のため)が、先日ご自身のブログに、

「魅惑のロキソニン

というおもしろい記事をアップされていた。

簡単にいうと、ある日wasserfallさんは熱が出て、ロキソニンを飲むことにした。いつもならアセトアミノフェン(ブログでは「カロナール」と表現されている)という解熱鎮痛薬を飲んで済ませるところを、仕事を休めないので、アセトアミノフェンよりも効き目が強いとされるロキソニンを飲んだ。

そしたら体のだるさが驚くほどとれて、仕事が頑張れちゃった。

ところがこの発熱は、実は持病の腎盂腎炎の症状だったことに数日後に気づく。いつもなら、効き目がおだやかなアセトアミノフェンを飲んで、それでも痛みが取れないときは上司に伝えて安静にしていたのに・・・。ロキソニンは効きすぎたばかりに、腎盂腎炎を見逃してしまった。効きすぎるのがこわくなって、もう二度と使わないようにロキソニンは捨てました、というお話。


たんぽぽの咲くまち

 なんとまあ。効きすぎて困るというのが、なんだか新鮮な響きで笑ってしまったのだけど、本当はあまり笑えない話かもしれない。

ツイッター上で「ロキソニン」を検索すると、こんなつぶやきも・・・。

こわいこわい。

 

人気のロキソニンだが、不用意に使いすぎると・・・

僕はいままでドラッグストアでたくさんロキソニンを売ってきた。そのお客のなかに、上記のような人がいたかもしれない。いなかったといえる保証はない。そう思うと、売るほうもこわい。

そこで、せっかくの機会なので、どうしてロキソニンの効果を過信するとよくないのか、少し書きたいと思う。

あえて脅かすようなことを最初にいうと、

「長い間ロキソニンを飲んでいた高齢者が、ある日突然、血を吐いて救急車で運ばれた」

なんてことは、薬剤師なら直接的にしろ間接的にしろ一度は耳にしたことがある話だと思う(※1)。僕は大学卒業したてのころに薬局薬剤師から聞いた。

健康な成人が短期間使うだけなら、心配はいらないし、いまでは僕もふつうにドラッグストアでお客にロキソニンを販売している身なのだけど、それなりに注意が必要な薬であることは間違いない。

ロキソニンを過信しないように、この薬が僕らの体内でどのような働きをしているかについて書きたい。ちょっと小難しい話になるけど、ロキソニン好きの人は知っておいて損はないと思うので、どうぞお付き合いください。薬剤師には周知の話なので、すっとばして結構です。

 

 痛みを感じるために細胞が動く3つのステップ

まず、体になんらかの異常が起きたと仮定したい。たとえば、ウイルスが体内で増殖して風邪をひいたとか、スポーツしていて打撲したとか。そうすると、ダメージを受けた部分の細胞一つ一つが、「痛いーーっ」という反応を起こすための動きを、自動的に始める。

細胞の動きは3つのステップに分けられる。

ステップその1 異常が起きたぞ、細胞の膜を切れ!

細胞はなんらかの異常を感知すると、表面の膜(細胞膜といいます)の内側の一部がブツリと切れる仕組みになっている(※2)。膜から切り離されたカケラは「アラキドン酸」という名前で呼ばれていて、カケラは細胞の内側にとどまる状態になる。

ステップその2 細胞内の酵素を使って新たな化学物質を作れ!

アラキドン酸は、細胞内にある「コックス」とよばれる酵素とくっつく。化学反応が起きて、アラキドン酸から「プロスタグランジン」という新たな化学物質が生まれる。

ステップその3 この化学物質で痛みを増強させろ!

細胞内で作られたプロスタグランジンは、体内で間接的に痛みを引き起こす。たとえば、ブラジキニンという体内の発痛物質は、プロスタグランジンによって発痛効果が増幅される。この痛み増強作用により、人は強い痛みを感じる。

 

ロキソニンは細胞の動きを邪魔するだけ

ここでキーマンになるのが、最後に登場した「プロスタグランジン」。この物質を細胞に作らさなければ、痛みを取り除くことができる。

そこで鎮痛薬のロキソニンの出番だ。ロキソニンは、「ステップ2」で挙げたコックスという酵素の機能を止める働きを持つ。

具体的にいうと、コックスにはポケットのような形の部分があって、本来ならそのポケットにアラキドン酸が入ることで、プロスタグランジンが生まれると考えられている(※3)。ところが、ロキソニンはそのポケットに先回りして入り込み、あとからアラキドン酸が入れないように邪魔して、プロスタグランジンを作れなくしてしまう。

以上が、ロキソニンが痛みを抑える仕組みだ。ここから言えるのは、ロキソニンはウイルスをやっつけるわけでもないし、細胞を元気にしてくれるわけでもないってことだ。むしろ痛みという細胞が発する警告を隠してしまうから、本当の症状が悪化してしまうこともあるのだ。

やだな~こわいな~(稲川淳二さん風に)。

 

ロキソニンの副作用 と「ムコスタ

もう少し話を続けたい。実はロキソニンの持つ作用が、体に悪影響を与える可能性がある。

困ったことに実はプロスタグランジンは、胃の粘膜を正常に保つ働きも担っている。だから、プロスタグランジンを作らせないと、胃の粘膜も減ってしまう。その結果、「胃があれる(胃障害、胃潰瘍)」という副作用が起きる(細かいことをいうと、鎮痛薬による胃障害には、この他にもプロスタグランジンが関与しない経路があるのだけど、今回は省略。※4)。冒頭で紹介した血を吐いた高齢者は、この胃障害で倒れたわけだ。

ロキソニンを病院で処方してもらった人は経験があると思うけど、一緒にピンクのシートの入った胃薬を処方されることがよくある。あれは「ムコスタ」という名前の薬で、胃粘膜を保護する働きがある。

 

ロキソニンは胃薬と一緒がいい」とはいうけれど

でも、ムコスタはドラッグストアでは購入できない。

じゃあ、どうするか。グーグル先生に聞いてみる?

ロキソニンで胃があれることは、わりとよく知られているので、検索すれば名無しの権兵衛さんが書いた「ロキソニンは胃薬と一緒に飲むべし!」という情報がたくさん出てくる。ツイッターでも情報は得られる。たとえば↓

太田胃散は、胃粘膜を保護する薬じゃなくて、胃の動きをよくしたり胃酸を中和させる薬だから、ロキソニン使用者に太田胃散を勧めるのが適当なのか、僕にはちょっとわからない。少なくとも僕は、「鎮痛薬で胃が気持ち悪くなるかもしれない」と不安そうなお客に太田胃散を勧めたことはない(※5)。胃への負担が少ない別の鎮痛薬を提案するだろう。でも、あえて胃薬の中から選ぶなら「スクラート」などの胃粘膜保護薬になるかもしれない。

現場の薬剤師はこのブログよりもはるかに多くの知識を頭に入れているから(入れてなくても薬局に関連資料・書籍を持っている)、胃への負担が気になりつつロキソニンを買いたいときは、薬剤師に「胃が弱いんですけど大丈夫ですか?」とか「食後に飲んだら、胃への負担が減りますか」とか、なんでも気軽に聞くのがいいと思う(どうせ薬剤師でなければロキソニンは販売できないので、購入する際についでに聞けばいいわけで、客側の手間は増えない)。

鎮痛薬が細胞に働きかける仕組みは突き詰めると複雑で難しいから、ロキソニン以外の胃への負担が少ない薬を勧める薬剤師もいれば、市販の胃薬の同時服用を提案する薬剤師もいるだろう。それをもとに、自分で判断すればいい。自己判断で漫然と使うことはお勧めしない。

 

国もロキソニンには要注意な姿勢

結論。魅惑のロキソニンだけど、服用は計画的に。

つい先日、厚労省から製薬メーカーの業界団体に、市販のロキソニンの箱に書かれている注意事項の一部に波線をつけてもっと強調してくださいという連絡が入った。なにか特別な問題がロキソニンに発生したわけじゃないんだけど、引き続き注意喚起しながら販売しなさいという行政からのメッセージだ。 過剰な安全対策なのか、しかるべき措置なのかは、医療者の間でも議論が分かれるところだと思うけれど、いまのところ、そういう議論のある薬なのだ、ロキソニンって。

 

※1 たとえば医師のブログにも・・ロキソニンそんなに飲んで大丈夫?|Dr.三浦の健康コラム

※2 「ボロンブールペープ 生理学」(西村書店)より

※3  http://www.med.miyazaki-u.ac.jp/yakuzai/topics/cox2inhibitor.pdfなど

※4 「薬剤性消化管障害 NSAIDs・アスピリンをめぐるエビデンスとプラクティス」(南江堂)によれば、NSAIDsの胃粘膜障害にはいくつかの経路があり、胃においてプロスタグランジンを介さない直接障害もある。これは、熊本大学動物実験によっても認められている。NSAIDs潰瘍の発症機構とHSPによる胃粘膜保護の重要性 | パリエット www.pariet.jp

 ※5 先述の書籍「薬剤性消化管障害」によると、酸性NSAIDsは、胃内の酸性下で非イオン化することで細胞膜を通過し、直接細胞死を起こす。ロキソプロフェン、イブプロフェンアスピリンなどの市販のNSAIDsはいずれも酸性である。その意味では、むしろ胃酸の分泌が促進される食後は不適切なのでは?という気がするが、胃の運動亢進によって腸に早く運ばれ、胃への負担が軽減される可能性もある。お詳しい方、ご教示いただけると幸いです。個人的には、非イオン化しないように、牛乳と一緒に飲むのが良い気がするのだけれど。ちなみに、「消化性潰瘍診療ガイドライン」(南江堂)においては、胃潰瘍の初期治療において使えると書かれた成分のうち、市販薬としてあるものはファモチジン、ピレンゼピン、スクラルファートである。NSAIDsによる胃潰瘍の場合は、まず薬剤中止、その次がPPIかプロスタグランジン製剤でエビデンスがある。