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誰が責任とってくれる?市販薬の危険から身を守るのは、最後は自分自身だ!

風邪薬

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小児用シロップを大人が一気飲みすると風邪が治る?

市販の薬の効果って大したことないんでしょ?と思って、パッケージに書かれた用法用量を守らずに使う人がいる。

たとえば、「小児用風邪シロップを大人が一本一気飲みしたら効く」という俗説を信じて、シロップを一気飲みする人がいる(※1)。

小児用シロップを一気飲みしていいのか?結論からいうと、僕はお勧めしない。まったくお勧めしない。

先日、大型店で市販薬を販売している「りちおさん」(登録販売者)が、自身のケースをツイートで紹介していた。

 この軽妙な感じ!関西の人ですね~。

ツイートに登場する「副作用救済制度」は、僕ら(消費者)は知っておかないと、万が一の時に絶対後悔することになる。

今回はこの救済制度について紹介したい。

 

 知らないと絶対困る「副作用被害救済制度」

りちおさんが言っている「副作用救済制度」というのは、正式には「医薬品副作用被害救済制度」という名前で、その名の通り、薬を飲んで副作用が出た患者(お客)を国が救済してくれる制度だ。市販薬か、病院で処方された薬を飲んで重い副作用が起きた場合に、副作用の治療費用などを国が給付してくれる。

補償を管轄している機関(PMDAといいます)によると、昨年度までの5年間で、補償の給付件数は約4700件に上る(※2)。意外と多いでしょ?

給付のほとんどは医療用医薬品の副作用だけど、市販薬の副作用もある。最近の例だと、昨年11月に風邪薬のパブロンを飲んだ30代の女性が、中毒性表皮壊死症候群(主に解熱鎮痛剤や抗生剤によって人口100万人あたり毎年0.4~1.2人が発症する原因不明の副作用)という重い副作用にかかり、治療費と医療手当(通院・入院費用)が支給されることになった(※3)。同年9月にも市販の風邪薬を飲んだ男性が、似たようなケースで救済対象になっている。

この救済制度は、35年前に、国がやむを得ない副作用被害にあった人を助ける目的で創設した。

 

”裏ワザ”で薬を飲むと補償されないかも・・・

ただし、ただし。

副作用が起きれば誰でも救済されるわけではない。

たとえば、ガンの薬のように、副作用が出て当たり前の薬は制度の対象外になる。また、対象となる薬でも、支給されない場合もある。近年では申請された件数の約15%が「不支給」と判断されている。

救済されるには、国が定める条件を満たさなくてはいけない。その一つが、正しい用量用法を守って、薬を適切に使用していたこと。自己判断で薬を乱用しても、国はめんどうを見てくれない。小児用風邪シロップを大人が一本一気飲みすることは、認められた使い方ではない”裏ワザ”。だから、もし重い副作用が出ても補償されない可能性があると僕は思う。

これが、僕がシロップ一気飲みをお勧めしない一つ目の理由だ。

 

「新リコリス」を飲めばリスクは回避されるかも

そうはいっても、シロップ一気飲みって効くなら飲みたいなぁという人もいるだろう。実は、シロップ一気飲みせずに、同じくらいの成分をとるやり方が他にある。

小児用風邪シロップの代表例は「新小児ジキニンシロップ」で、この薬は風邪の一般的な成分の他に、生薬成分の「カンゾウ」が入っているのが特徴だ。そこで、シロップを一気飲みする代わりに、カンゾウが主成分の「新リコリス」というドリンクを風邪薬と一緒に飲めばいい。

「新リコリス」は滋養強壮薬として扱われているので、「他の風邪薬と併用してはいけない」ことにはなっていない(※4)。「新リコリス」の製造元メーカーも、「風邪薬と一緒に飲んでも大丈夫」(お客様相談室)としている。僕も、通常の健康成人が風邪を引いた時に風邪薬と併用することは、安全性の問題はほぼないと思う。国のルールにも反していないだろう。

「新リコリス+普通の風邪薬」と「新小児ジキニンシロップ1本分」の成分を比較すると、前者の方がタウリンやビタミンなど体に元気を与える成分を多く摂取できる。また、咳を抑える成分も多く摂取できる。ただし、カンゾウは少しだけ(エキスで32mg)少ない。価格は店舗によるが、僕の近所の店では一日分換算すると新リコリス1000円、普通の風邪薬200円、新小児ジキニンシロップ1200円。

こうしてみると、価格も効果も、あまり大差はないといえる。

もっとも、ここで書いたことは、あくまでも僕個人の考えだ。実際に給付対象になるかどうかは、個別に判断される。実際に僕が国(PMDA)に問い合わせたところでは、「給付を決める審査には8~10か月がかかり、申請前に個別の案件は判断できない」との回答だった。新リコリスと通常の風邪薬を併用して、健康成人が摂取することは、薬学的に判断して不適正にはあたらないというのが僕の考えだけど、この考えは個別の給付を保証するものではないことは了解してほしい。

ややこしいですね。

ホントのことをいうと、小児用シロップにはジキニンよりももっと強力な製品がある。知っている人は知っていると思うけど、これについては今回ぼくのブログでは触れない。シロップ一気飲みを諦めきれない人は、せめて自己判断で購入せず、店頭の薬剤師か登録販売者に相談してほしい。最後に決めるのは自分自身だ。自分の身を守れるのも、やはり自分だ。万が一の時に後悔しないよう、リスク・ベネフィットを考えて行動することをお勧めしたい。

とにかく僕は、小児シロップの一気飲みはしないし、リスクをとるのもバカバカしいから家族にも飲ませない。

 

うっかりヘンな助言をして失敗

最後に、この副作用救済制度にちなんだ僕の失敗談を。

なんだか偉そうに副作用救済制度について長々書いてきたけど、僕は普段は薬の副作用リスクをあまり意識しない。そのせいで、うっかりお客に悪い説明をしてしまったことがある。

あるとき、市販の鎮痛薬を家庭内常備薬として購入した若い女性客がいた。会話の中で、鎮痛薬の胃への負担が話題になった。そこで、どういうわけか僕は、

「心配でしたら、家に残っているムコスタと一緒に飲んでもいいかもしれません」

と言ってしまったことがある。 ムコスタというのは、風邪や歯の治療後によく医者が鎮痛剤(「ロキソニン」など)と一緒に処方する、胃の粘膜を保護する薬だ。鎮痛薬は胃があれることがあるので、胃が弱い人にはムコスタとセットでよく処方される。

ムコスタは発売以来25年も経っていて、医療機関では超がつくほどおなじみの薬。ただし、ドラッグストアでは買うことはできない。

で、先述のお客が、家に以前医師から処方されたムコスタが余っていると言うので、僕はなんとなく軽~い気持ちで、

「残っているムコスタと一緒に飲んでもいいかもしれません」

と、相手の不安を和らげるために助言した。薬剤師としては問題のある行動なんだけど(※5)、その時は大して問題だと感じなかった。

ところが、数日後、ある情報を見て、背筋が凍った。国の機関が作成した過去の書類に、副作用給制度にちなんだ薬の「不適切」な事例として、次が挙げられていたのだ(※6)。

感冒症状を認めたため,市販の解熱鎮痛薬を服用したが,それと同時に知人に対して処方されたムコ スタ錠を服用し,アナフィラキシー(様)反応を生じた。本事例では,本人以外に処方された医薬品を 自己判断で服用した。

僕が応対したお客と似たケースだ。 もし僕が接客したお客やその家族が、家に余っているムコスタを飲んでアナフィラキシー反応(ショック状態になる)を起こした場合、救済制度の対象外になってしまうことになるではないか!

シャレにならないですね、これは。もう二度とこんな助言はしません。

 

 

※1 この小児用風邪シロップ一気飲み説は、結構有名で、厚労省が以前市民から集めた意見書(http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000065370.pdf)の中でも、「リココデ・オムニン・ジキニン等の小児風邪シロップは明らかに成人をターゲットとして作られた 1 本飲み容器であり、以前は 実際にこれらの一本飲みを勧めていた薬店も多く、現在もこれらを 購入して服用する多くが成人であり、モラルそのものが疑われます」という記述がある。

※2 http://www1.mhlw.go.jp/kinkyu/iyaku_j/iyaku_j/anzenseijyouhou/319_1.pdf

※3 http://www.pmda.go.jp/kenkouhigai/help/information/file/26/h2611kyufu.pdf

http://www.info.pmda.go.jp/juutoku/file/jfm0611006_01.pdfより

※4 「新リコリス」の説明書http://www.zenyaku.co.jp/assets/pdf/licoris.pdf また、メーカーサイトには風邪薬との併用を推奨するような記述もあるhttp://www.zenyaku.co.jp/k-1ban/file/kanzo/page03.html

※5 薬の適正使用を守ることが薬剤師の仕事であるため、飲み残しの処方薬をとっておくことを認めるような発言は、本来はしてはいけないと考えられている。ただし、これが常に成立するかは議論のあるところではある。

※6 http://www1.mhlw.go.jp/kinkyu/iyaku_j/iyaku_j/anzenseijyouhou/307-1.pdf