『家庭の薬学』

自分に合った市販薬を選びませんか?

ピント調整機能の目薬「アイストレッチ」。カッコいいパッケージで誤解するなかれ

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何度も言うけど、薬をパッケージで選ばないほうがいいよ

ドラッグストアでバイトを始めて以来、思い出したくない失敗は山ほど作ってきたのだけど、バイトを始めて間もないころのものは、特に思い出したくない。

まずは薬の製品の種類を覚えるだけで精いっぱいだった。バイトを始める前は、きっと会社から資料が用意されるか、研修があるのだろうと思っていたのだけど、それはまったく甘い考えだった。会社側から渡されたものはレジ打ちマニュアルだけで、薬に関してはすべて独学だった。

バイト中に店頭の商品をいくつかチェックして、帰宅してから製品ごとの違いを調べる、ということを繰り返した。まだ仕事に慣れないうちに、あまり勉強していない商品や分野についてお客から聞かれることもあった。そんな時は、苦し紛れに薬のパッケージに書かれた「つらい症状に***が効く!」などの売り文句を頼りに商品を勧めた(お客さん、ごめんなさい)。

でもすぐに、パッケージの文言はたいして参考にもならないってことがわかった。断言できるのは、“薬をパッケージで選んではいけない”ということだ。

 

効いているのは「ネオスチグミン」のおかげ?

去年のこと、女性のお客が目薬を買いに来た。疲れ目に困っていて、ロート製薬の「アイストレッチ」を使っているという。アイストレッチのパッケージは、目のイラストが全面に描かれていて、次のキャッチコピーがついている。 

コリかたまった目の筋肉に

ピント調節筋の疲れをほぐすメチル硫酸ネオスチグミン配合

おー、なんか効きそうな響き。

製品の裏面には、この「ネオスチグミン」の効能が大きく書かれアピールされている。 人間の目は、近くを見たり遠くを見たりするとき、目の筋肉でピントを調節している。この筋肉のコリをほぐしてくれるのが、ネオスチグミンという成分なのである。

「この成分(ネオスチグミン)が、よく効くみたいですね」

と女性客は言った。

 

ネオスチグミンは市販薬のデフォ。入っていて当たり前

効いているらしいから何よりだけど、誤解があるなら一応正しておきたい。薬の知識がなにもない人は、このネオスチグミンを特別な成分だと思うかもしれないから。

この認識は誤りだ。ネオスチグミンは多くの目薬に使われている。目新しくも、希少でもない。疲れ目に効く目薬に限って言えば、ネオスチグミンが入っていない目薬を探す方が大変なくらい。

疲れ目に効く目薬のなかで最安値商品の一つである「ロートビタ40α」は、大抵200円程度でドラッグストアで販売されている薬だけど、この商品にさえ、「アイストレッチ」と同じ濃度(0.005%)のネオスチグミンが入っている。ちなみに、アイストレッチはぼくの店では800円くらい。

このことを女性客に伝えると、「えー」と驚いた顔をした。やっぱり、ちょっと誤解していたらしい。

 

みんなが知ったら、怒りませんかね?

「アイストレッチ」がボッタクリ品だとは思わない。アイストレッチには、ネオスチグミン以外の成分もいろいろ入っているから。けれど、あのパッケージを見て、ネオスチグミンが特別な成分だと思ったら、それは間違いだとはいえる。

「アイストレッチ」は、ネオスチグミンを前面に強調することで、むしろ他製品と違う印象をつくりあげ、お客の心を掴んだ。800円代という、他よりもちょっと高めの価格も、この製品の“特別感”に一役買っていると想像できる。

こんな風に特別な何かを装ったパッケージは、「アイストレッチ」に限らない。他の目薬も、ありふれた成分・濃度を、特別感たっぷりに箱に記載している。それが広告だといえばそれまでだけど、みんなが事実を知ったら怒りませんかね?

 

広告としては質の高い仕事かもしれないけど・・・

薬効成分で薬の優劣を判断できない人たちに対して(それがふつうです)、パッケージデザインは絶大な効果を発揮する。いかに効きそうな印象を与えるかの勝負になっている。本当は印象じゃなくて、成分の効果で勝負をして欲しいとは思うし、心の底では「こういう“まやかし”があるから、効果に基づいた市場競争が起きないんだ」と感じる。似たような考えの薬剤師・登録販売者はけっこういるだろう。だから、目薬を買うお客は、たかが目薬とあなどらず、店員に相談したほうがいいと僕は思っている。

一方で、このパッケージデザインは「質の高い仕事だな」と感心する。きっと、ロート製薬のデキる社員さんが作ったんだろう。