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「えんきん」を始めとする機能性表示食品の信頼性ってどうなんですかね?

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買ってはいけない!?機能性表示食品」セミナーに行ってきましたよ

食の安全性を科学的に評価している独立系メディア「FOOCOM.NET」の松永和紀編集長(元毎日新聞記者/京都大学大学院農学研究科修士課程出身)が、「機能性表示食品」に怒っている。というのは、以前このブログで書いたとおり。

松永さんは、よほどこの新手の食品群が許しがたいらしく、「買ってはいけない!?機能性表示食品~そのトリックを考える」という彼女らしからぬ刺激的なタイトルのセミナーを今月10日に開催した。

で、そのセミナーに先週参加してきた。どうやら、この機能性表示食品を取り巻く問題は、食品メーカー内部からも「このままでは消費者の信頼を損ねる」と危惧する声がある・・・らしい。

 

メーカー関係者も参加で興味津々

セミナーは参加者が予想よりも多かったため、前日に急きょ、会場が変更された。参加者は50~60名、食品メーカーの関係者も集まっていた。気になるんだろね。

まず、演者の松永さんが1時間ほど、機能性表示食品の問題点を説明したのち、残りの時間で会場の参加者との意見交換になった。

松永さんは、機能性表示食品という制度そのものを否定しているわけではないそうで、この新制度によって科学的な根拠が一般の人々の目に触れられるようになったと、その意義をまず説明した。その上で、いくつかの具体的な商品が取り上げて、その機能性の根拠とされる論文の問題点を指摘していった。

なかでも松永さんが力を入れて説明したのが、6月19日(金)発売予定のファンケルの機能性表示食品「えんきん」。これね↓

http://www.fancl.jp/news/pdf/2015.04.17_kinouseihyoujishokuhin2hinjuri.pdf

同名の製品はすでに市場に出回っていて、今回ファンケルはそれを機能性表示食品として仕切り直しで発売する。

松永さんは、この「えんきん」について、

「(根拠となる)論文が壊れているとしかいいようがない」

と呆れ顔で語った。論文が壊れている?どーゆーことですか?。

 

「『 えんきん』は論文が破たんしている」

「えんきん」は、ルテインやDHAなどを配合した、目のピントを調節する機能を持つカプセルだ。中高年の老眼対策に特化した商品、と販売元のファンケルはうたっている。その根拠となる科学論文は、消費者庁のウェブサイトで公開されている。

http://www.caa.go.jp/foods/pdf/A7-kinou.pdf

この論文は、「診療と新薬」という専門誌(一般にはジャーナルといいます)に掲載されたものであり、掲載に当たっては、その分野で実績のある専門家のチェックを受けているとされている(これを専門用語で「査読(サドク)」といいます)。

査読を受けている、という事実は重要だ。なぜなら、消費者庁が機能性表示食品に求める要件にはいくつかのパターンがあり、「えんきん」の場合は、その科学的根拠となる論文が査読されているという理由で、受理されているからだ。

消費者庁は、メーカーが機能性表示食品を届け出る際に、必要な書類がそろっているかを確認するが、基本的に論文の中身は検証しないらしい(※1)。行政機関が自ら検証しないので、その論文が査読付きの雑誌に載ったという事実が重要になってくる。査読付きの雑誌に載ったのだから、科学的であるというわけだ。ところが・・・。

この論文を読んだ松永さんは、

「論文そのものが破綻している」

と感じたという。破綻しているとはどういうことなのか。松永さんの意見では、えんきんの科学論文には疑惑をもたれても仕方ない不自然な部分が多々あり、またその不自然さを解消させる説明も論文中にないという。科学的には信用に値しない、普通の学術誌なら、査読を通過できず、間違いなく掲載拒否される(※2)シロモノだと、松永さんは感じてしまったそうだ。

 

グラフと説明文が一致しないという初歩的ミスも・・・

松永さんの指摘した論文の問題点は、専門的になるのでこのブログでは割愛するけど(気になる人はこちら→※3)、この論文が、いかに粗く作られているかを端的に表す、わかりやすい例を松永さんの指摘から一つだけ引く。

この論文は、「えんきん」で目のピントが改善したことを示したものだ。その効果を示す実験データのグラフが、論文中では(A)から(F)まで振り分けられて、さらにその下には各グラフの説明が添えられている(キャプションと言います)。論文の読者はグラフと説明文を照らし合わせながら、データの意味を読み解いていく。ところが、この論文、よく見ると各グラフとそれを説明する文章が対応していない。アルファベットの付け間違いをしているのだ。ありゃー!

ぼく自身、松永さんの話を聞いて、ほんとかなあ?とあとで論文を確認したら、たしかにグラフと説明文が一致していなかった。松永さんはこの初歩的なミスを見て、「やっぱり査読していないんだなと思った」という。科学的な記載部分ではないけれど、この論文ってホントに外部のチェックを受けてるの?と首をかしげたくなる気持ちになってしまう。

 

 「企業に倫理を求めるのはムリ」

セミナーの後半では、会場の業界関係者や研究者からも意見が挙がった。

「論文の数は大切。最低2つは必要ではないか」

「企業に倫理を求めるのはムリ」

「アメリカでは何億円とかかる集団訴訟が、不正の抑止力になっている」

「企業の対する信頼性を、ランク付けしていってはどうか」

消費者庁ガイドラインが中途半端。我々メーカーもどうしていいかわからない」

などなど、とても興味深かった。

 

「消費者の信頼を失う」という業界内部の危機感

セミナー全編を通して、松永さんが特に「えんきん」にこだわる理由も少し伝わってきた。健康食品のリーディングカンパニーであるファンケルが、このような科学的におかしい(と松永さんが考えている)商品を機能性表示食品にしてしまうと、他の食品メーカーも「この程度でいいのか」と理解して、ますます科学的根拠の薄い商品が出回ってしまう可能性がある。

「(メーカーの)中にいる人から危機感の声が私のもとに来ているんです。こんなことしてたら、(消費者から)信頼なくしちゃうよと」と松永さん。

たしかに、機能性表示食品制度は色々改善すべきところがありそう。いっぽうで、じゃあ、どこの商品なら信用できるのか、という情報もほしいところだが、現在消費者庁で公表されている機能性表示食品は37つもあり、これを一つ一つ吟味するのは、1人ですぐできる作業ではなさそうだ。

「ちゃんとしている企業ってどこかあると思いますか?」という松永さんの質問については、会場から「(キリンなど)トクホを過去にやった企業は、今回もきっちりされているという印象を受けた」という意見が会場からあった。有名な大企業は、それなりにちゃんとした論文を用意しているということのようだった。

もちろん、その信頼性は個々の製品で評価されるべきだとは思うが、日本ではその会社の社会的地位が、企業の倫理観の崩壊の抑止力になっていることは、一理ある見方だなと思った。(なお、独立系ニュースメディアの「マイニュースジャパン」で、ジャーナリストの植田武智さんが各製品の信頼性の一覧表を出しているが、ぼくにはその妥当性がわからなかったのでここでは触れない。ご興味ある方はググって有料記事を見てください)。

 

 

※1複数のところでそのように語られている(例http://apital.asahi.com/article/kiku/2015043000027.html)。私は消費者庁の公式発表を確認していないが、探せばたぶんあるだろう。

※2松永さんが以前そのようにネットで語っている→機能性表示食品「えんきん」の根拠は、お粗末すぎる | FOOCOM.NET

※松永さんが指摘する論文の問題点は、調節近点距離の両目平均の数字に整合性がないこと、評価項目が15項目の主観的な症状であり「多重検定の問題」を否定できないこと、各評価項目でサンプルサイズが異なるのに除外理由が論文にまったく記載されていないこと、など。