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日本人ばかり使う市販薬①喉の痛みに効くペラックこと「トラネキサム酸」

メディア 海外情報 喉・声

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日本人ばかりが使っている薬

海外ではほとんど使われていないのに、日本ではやたら消費されている薬がある――。

なんて書くと、

「国内製薬メーカーの利権ですね。よくわかります」

という声が聞こえてきそうだが、利権かどうかは置いといて、そのような薬は事実ある。

ここでは、日本人ばかりが使っている薬を「ドメスティック(国内)な薬」、略して「ドメグスリ」と呼ばせてください。ぼくの知っているドメグスリを紹介したい。

 

「ペラック」 「ベンザブロックS」に含まれるトラネキサム酸は・・・

今回取り上げるのは、喉の痛みを取り除く「トラネキサム酸」。市販薬では、咽頭痛の薬「ペラック」や、総合風邪薬「ベンザブロックS」などに使われている。

【第3類医薬品】ペラックT錠 36錠

【第3類医薬品】ペラックT錠 36錠

 

 

【指定第2類医薬品】ベンザブロックS 30錠

【指定第2類医薬品】ベンザブロックS 30錠

 

 

イギリスでは喉の痛みに使わない

けっこう売れていると思う。とくにペラックは、もうのどの痛みといえば、とりあえずこれだよね、みたいな。

ところが、ペラックの有効成分である「トラネキサム酸」は、ぼくが知る限り、イギリス・アメリカでは喉の痛みに用いない。

ウソだと思うのなら、イギリスの医薬品を検索できる公的サイト「emc」(※1)でトラネキサム酸を検索してみてほしい。喉の痛みに使う薬は一つもでてこない。その代わりに、月経出血などを緩和する止血剤としてこの薬を使っていることがわかる。

イギリスのドラッグストア「ブーツ」のサイトで検索しても、やはりトラネキサム酸は月経出血を抑える市販薬として表示される(ブーツは2011年から市販薬として発売開始した※2)。

 

アメリカでも喉の痛みに使わない

アメリカの状況も似ている。公的機関FDA(日本で言う厚労省みたいなものです※3)のサイトでトラネキサム酸を検索すると、月経出血の治療薬がでてくる。

ネットドラッグストア「ドラッグストア・ドット・コム」で検索すると、該当する製品はナシ。以前、アメリカのドラッグストアの店員に「トラネキサム酸ある?」と聞いた時も「処方薬ですよ」と言われたので、たぶんアメリカでは市販していないのだろう。

世界中の論文が集まるPubmed(パブメドといいます)というサイトで検索しても、ほとんどが止血剤として用いた研究だ。たしかに日本でも、トラネキサム酸は術後の止血剤として使われることが国から認められている。ただ、のどの痛みにトラネキサム酸を使うことは、世界的には稀っぽい。

 

ペラック大量に飲むとか、やめてね

ちなみに、大事なことだから一応書いておくと、間違っても上記を読んで「私、月経の出血が辛いから、市販のペラックを飲んでみよう♪」とか、「ペラックを2倍飲めば効果も2倍になるんじゃね」とか考えないでほしい。そういうことを検証した記事じゃないから。体内の血が固まりやすくなるトラネキサム酸の副作用は有名だ。イギリスでもトラネキサム酸を月経の薬として市販化するには議論があったようだ。イギリスの医薬品規制庁によると、月経過多に市販のトラネキサム酸を使うことが認められていたのは、近年までスウェーデンだけだったという(※4)。

 

トラネキサム酸は日本発の医薬品

どうして、日本ではトラネキサム酸をのどの痛みに使っているのか。ハッキリした理由はわからないけれど、この薬の開発の経緯が、いくらか影響していると思う。

じつは、トラネキサム酸は元となる化学成分が日本人によって発見され、当時の第一製薬(現在の第一三共)によって開発された薬なのだ(※5)。日本人が作った薬だから日本でよく使われる。その可能性はあるだろう。

よく効く薬なら、広く使われて当然であるが、はたしてトラネキサム酸は喉の痛みに効くのか。

 

一応、効くという研究はあった・・・

「トラネキサム酸ってホントに効くのかな?」

去年、薬剤師の「るるーちゅ」さんとツイッター上で話したことがあった。先日、文献を調べて自身のブログに書いてくれた。ありがとうございます。

メーカーが公表している50年前の研究(古っ!)によると、医療用のトラネキサム酸を飲んだ人たちの有効率は64%、飲んでない人たちは30%(プラセボ)だったらしい。この研究だけじゃあなんともいえないけど、一応「喉の痛み(急性咽頭炎)に効く」という結果ではある(ただ、市販薬は、この研究で使ったトラネキサム酸の半分の量しかないので、そのまま当てはめることはできない)。

 

喉が痛いなら麻酔をかければいいじゃない?

ここで疑問。じゃあ、トラネキサム酸を使わない外国人は、喉が痛い時には何をつかっているの?

先述のアメリカの「ドラッグストア・ドットコム」で調べると、のど飴がいくつかでてきた。

飴の中身は、「Benzocaine」という局所麻酔成分。日本の市販薬にはない成分だ。

日本のトラネキサム酸が、喉の腫れを抑えて痛みを和らげるのに対して、アメリカでは麻酔をして痛みを和らげる方法をとっていることがわかる。

「痛いなら麻酔しとけば?」的なアメリカのやり方は一見乱暴だが、これはこれでアリかもしれない。喉の痛みはほとんどが風邪であり、ほうっておけば治る。投与量が多いと血管に血栓ができやすくなるリスクがあるトラネキサム酸をわざわざ使わずに、麻酔で痛みを抑えてもいい。

もし、日本でこののど飴が発売されたら、どうなるだろうか。ペラックの売上は、ガタ落ちするだろうか。ちょっと興味がある。

 

「当たり前」を疑ってみる

こんなふうに、ぼくらが当たり前のように使っている有名市販薬も、ちょっと紐解くと決して「当たり前」ではないことが見えてくる。

今回の記事でいいたかったのは、そういうこと。

トラネキサム酸については、石原藤樹さんというお医者さんのブログ「石原藤樹のブログ」がわかりやすく総説している。石原さんも、トラネキサム酸をのどの痛みに使うのは日本でのみ広がったやや特殊なものだとした上で、クスリそのものの価値は決して低くないことを次のように書いている。

「トラネキサム酸は安価で、 飲み薬でも注射薬としても使えます。 この使用のし易さと効果の高さが、 この薬が50年以上に渡り世界中で使用されている理由です」

rokushin.blog.so-net.ne.jp

 

 

※1 https://www.medicines.org.uk/emc/

※2 OTC tranexamic acid to launch in Boots stores | News | Pharmaceutical Journal

※3 Drugs@FDA: FDA Approved Drug Products

※4 イギリスの医薬品規制庁のレポート。過去にカテゴリーの見直しがリジェクトされたと書かれているhttp://www.mhra.gov.uk/home/groups/par/documents/websiteresources/con082059.pdf

※5 トランサミンのインタビューフォームより