『家庭の薬学』

自分に合った市販薬を選びませんか?

家族が常備薬に殺されないための簡単な方法

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おじいちゃん、その風邪薬飲んで大丈夫?

ドラッグストアの店員が苦手なのは、一般に「妊婦」と「高齢者」だ。どちらも、薬の副作用が、時に深刻な事態を招くから、売るのが怖い。

ぼくも、ヨボヨボしたおじいさんが、パブロンなどの風邪薬をレジに持ってきた時は、かなり慎重になる。うーん、このおじいさんに、この薬を売って大丈夫かねえ?と。

教科書的に言えば、高齢者に売るにはふさわしくない市販薬は山ほどあるのだ(※1)。

 

「脱水→腎不全→心停止」の恐怖

先日、市販薬に高い関心を持つ平憲二さんというお医者さん(@hayamichou)が、恐ろしいツイートをしていた。

「脱水はこわい。 はじめは下痢だけ。水のまずに脱水に。脱水すすむと発熱や頭痛などでてくる。それに対しNSAIDsのみ、嘔吐という流れ。昨年は数名経験し、まれなケースではない。最近、経験した高齢者のケース。服用したのはNSAIDs含有かぜ薬。脱水→急性腎不全→高カリウム→心停止。」

ぎゃーっ怖っ。

この高齢者は、市販薬が直接の原因で亡くなったわけではない。けど、下痢による脱水状態で、解熱鎮痛成分であるNSAIDSを服用するのはとても危険な行為だ。NSAIDSは腎不全を招くことがあるので、間接的に心停止に一役買った可能性は否定できない。

高齢者に市販薬を販売する際は、要注意だと改めて感じた。

 

誰が高齢者に市販薬を飲ませているの?

もっとも、ドラッグストアに来る高齢者の数は、決して多くない。地域性によるが、ぼくの店には時々来る程度。だから、日常業務で高齢者と市販薬の危険性を気にすることは、あまりない。

そこで、ぼくはこんな能天気なツイートをした。

「病院・薬局に来る人は高齢が多いから市販薬の副作用も出やすいだけど、ドラッグストアでは風邪薬を購入する高齢者はかなり少数で、メインは20代〜50代。副作用は出にくい。病院・薬局とドラッグでは、普段接しているお客・患者のプロファイルが全然違うから、副作用リスクの捉え方に微妙に差がある」

そしたら、先のツイートしたお医者さんから、こんなメッセージが・・・

「高齢者で市販薬のかぜ薬をのむ方の場合、自分では購入せず、子供さんやお嫁さんが購入しているものを、服用するパターンが少なくないです。認知症の方では服用判断を家族がすることも多いです。市販薬の購入または入手から服用までのプロセス。多様なようです。」

そう、現実社会では、高齢者が自分で市販薬を買って使うとは限らないのだ。家族から譲り受けたり、ご近所から譲り受けることもあるだろう(先日、登録販売者の方とツイッターで話していたら、その方の店には「ご近所さんの代理」で薬を購入しにくるお客がいるらしい。ナント)。

 

家族のために「高齢者が飲んでも大丈夫ですか?」と確認しておこう

高齢者が市販薬を口にするまでにどれだけのルートがあるのか、その実態はあまり知られていないように思う。

本来であれば薬剤師は、高齢者以外のお客に薬を売る際も「ご家族にご高齢の方はいらっしゃいますか?こちらのお薬を飲まれる際は、***にご注意ください」といった警告を添えて販売するべきなのだ。でも、全然できてない。先述のツイッターでのやりとり以降、ぼくは意識してお客に確認するようになった。

高齢者と同居している人は、薬を購入する際には店員に、

「これって、おじいさんに飲ませても大丈夫ですか」

と確認したほうがいいと思う。

 

市販薬の自己流治療で、症状が悪化した人たち

市販薬でどのくらいの数の高齢者に健康被害が出ているのか気になる。実数を見たことはない。ひょっとしたら、かなり少なくて、さほど心配する必要なく、杞憂なのかもしれない。

ただ、一つ確かなことは、仮にぼくが売った市販薬が原因で高齢者が病院に運ばれても、その事実をぼくが知ることはまずないということだ。そしてぼくは、「市販薬は高齢者に売っても大丈夫だろう。今まで問題起きなかったし」と思いながら、高齢者に販売し続けるのである。なんということか。

被害の実態が明らかでないうちは、市販薬を飲む高齢者は慎重になったほうがいい。

先日、新聞のネット記事(※2)で、島の診療所に勤める医師が、市販薬の自己流治療で症状が悪化したケースを報告していた。

  • せき・たんが治らないので1週間風邪薬を飲み続け、我慢できずに診療所に受診に来た時には重症の肺炎になっていた糖尿病のおばさん
  • 風邪薬を飲んでいたら徐々におしっこが出なくなった前立腺肥大症のおじいさん
  • 農作業中に足を傷つけたため市販の傷薬を塗り続け、診療所に来た時には細菌感染が骨まで広がっていた糖尿病のおじいさん

といった人たちがいたという。想像すると、ぞっとする。

 

 

※1例えば抗ヒスタミン成分による尿が出なくなる「尿閉」が有名。もちろん、高齢者でなくても起きる可能性はあるが。

https://www.pmda.go.jp/files/000143429.pdf#search='抗ヒスタミン+尿閉'

※2毎日新聞の記事http://mainichi.jp/premier/health/articles/20160108/med/00m/010/008000c