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ジャーナリズムがやがて「アプリ」中心になる3つの理由〜ジャーナリズム・イノベーション・アワードに参加して〜

メディア

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ジャーナリズムを考える日

「今日は負けませんよ〜っ」

ハフィントンポスト日本版の三代目編集長に就く竹下隆一郎(現朝日新聞メディアラボ)さんに久しぶりにお会いしたので、挨拶すると、

「勝ちますよ」

と答えが返ってきた。先日都内で開催された「ジャーナリズム・イノベーション・アワード」の開場数時間前のこと。ぼくは今大会は入賞(6位以内)するつもりで燃えていた。相手が朝日新聞みたいな大手メディアだろうが関係ない、絶対勝つと意気込んでいた。

出品したのは、このブログ「ドラッグストアとジャーナリズム」。結果は25位/50作品(得票数4)で、ボロ負けだった。当日はガックリしすぎて、首が胴体から落ちそうだったが、数日経ったいま冷静に振り返ると、そう悲観することではないと思えるようになった。個人参加のわりには、大手メディア相手に健闘したから?そうじゃありません。

ぼくは今回、自作のアプリを作ってそのデモ版をブースでプレゼンした。プレゼンが終わるごとに「ご連絡先を教えていただければ、アプリが完成した時にご報告します」と参加者に伝えた。すると、9割もの人がメアドを教えてくれるか、勤務先の名刺をくれたのだ。ぼくのアプリに興味をもってくれた。そう手ごたえを感じた。

jcej.info

 

「次世代のジャーナリズムはアプリ」という仮説

全国紙からローカルメディア、個人メディアまで、多様なウェブジャーナリズムが集う「ジャーナリズム・イノベーション・アワード」(主催:日本ジャーナリスト教育センター)は、参加者が一人一票を持ち寄り、投票でウェブジャーナリズムの”一番”を決める祭典だ。ぼくは主催事務局からお声掛けいただき、昨年に続き2回目の出展。ちなみに前回は11位/38作品だった。

今回、順位の戦いには負けたけど、イベントを通じて、

「これからのジャーナリズムは、アプリの時代じゃないか」

と思えるようになった。これはぼくが以前から主張している仮説である。

これからはアプリの時代だぜ、みんな!え?アプリなんて何年の前から流行ってるじゃんって?それはラインとか漫画アプリとかの話でしょ?ジャーナリズムはどうよ?

ジャーナリズムにアプリの波が来るとぼくが考える、3つの理由を挙げたい。

 

ドラッグストア視点でアプリを作る

まず1つ目。アプリは生活に根差したコンテンツを届けることができる。

ぼくは今回のイベントのために、生まれて初めてアプリを自作した。アプリの名前は「ドラッグ スタンプ カメラ」。写メで撮った画像に、オリジナルのスタンプ(イラスト)をつける、いわゆるカメラアプリと呼ばれるものだ。

ヒントは薬剤師としての仕事から得た。

ぼくは現在、ドラッグストアで薬剤師として働き、毎日お客さんの薬の相談に乗っている。その中で、”誰も自分が買った市販薬を覚えていない”という問題を以前から抱えていた。

「みなさんは、いままで自分が飲んだ市販薬の名前を覚えていますか?」

イベント当日、ぼくは4時間で30人近い人たちにこう問いかけた。ほぼ全員が「覚えていない」と答えた。驚くことはない。実際、勤務先のドラッグストアでも、「以前飲んで効いた薬があるんだけど、名前はわからない」というお客がほとんどだ。

それじゃあ、誰もが手軽に、楽しく購入した市販薬を記録できるアプリを作ってみよう。これが今回、アプリ開発に至った理由だ。

イベント当日、自分のiPhoneにインストールしたデモ版を披露し、参加者たちに感想を仰いだ。そして、「ご連絡先をいただければ、完成したらご連絡します」と伝えた。

参加者からは、

「面白いですね!特許取った方がいいんじゃないですか?」

「もっといろいろな機能があったらいいのに」

「市販薬のお薬手帳みたいですね」

など、期待と批判を含めていろいろな指摘をいただいた。 そして、ありがたいことに聞き手の9割以上がメアドを教えてくれるか、所属先の名刺をくれた。これは、ぼくの予想よりもはるかに大きい数字だった。

関心を持ってくれたのは、アプリが一人一人の生活に直結するものだからこそだと感じた。

アプリの詳細な内容は省略するが、当日の会場で撮影したデモ画像を一つだけ載せておく。4月末までにはアップルストアにリリースする予定だ。初心者の作ったつたないアプリだが、少しでも社会の役に立てばと思う。

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誰でもアプリを作れる時代

ジャーナリズムの世界にアプリが増える2つめの理由は、デジタル技術の発達で、誰にでもアプリを作れるようになったことだ。

じつはぼくはアプリを開発するようなデジタルスキルは持っていない。でも、今の時代、作れちゃうのだ。しかも、持ち出しほとんどゼロで。

ぼくのブログは現在、月間約14万PVだ。アドセンスを導入しているのでささやかながら収益が入ってくる(本格的なアドセンスはやっていないので、本当に微々たるものです)。今回のアプリは、このブログの広告収入で得たお金を元に作った。

まず、今年1月にMac Book Pro(約13万円)を購入。そこから、アプリ制作の入門書を購入し、知識ゼロからの手習いでコツコツとX-code(Macのアプリ制作ツール)上でコードを書いた。結構しんどかったが、なんとか完成のメドが立ったところで、イラストレーターさんにオリジナルのスタンプを作成してもらい(4500円)、1か月半かけて「ドラッグスタンプカメラ」が出来た。

ブログで情報発信→広告収入で収益を得る→アプリに投資する、と情報発信を発展させた。もしブログで収益を得ていなかったら、10万円以上かけてアプリを作ろうとは思わなかっただろう。ブログの意外な効用を学んだ。

世の中には、コードを書かなくても作れる「アプリビルダー」という無料サービスが国内外にあるので、いくつか試してみたが、自分が納得できるものはできなかった。結果的には”急がば回れ”で、自分でコードを書いてよかったと思っている。

コードの知識ゼロでも、それなりに作れるほど、アプリという存在が身近になったことを実感した。

 

感動した米国の「モバイル・ジャーナリズム」

もちろん、これだけで、「21世紀のジャーナリズムはアプリだ!」などとは言えない。ただ、メディアを取り巻く国内外の状況を見ると、そう思えて仕方ない。これが3つめの理由だ。

ぼくがアプリに興味を持ったのは、2年ほど前に受講した米国Knight Center for Journalismのネット講座(MOOC)の「Introduction to mobile Journalism」がきっかけだ(certificate取得)。

knightcenter.utexas.edu

ここで「mobile journalism」や「AR(argument reality) journalism」という言葉を初めて知った。カメラアプリやビデオアプリを使って、より簡単な取材や豊かな表現方法を模索しているジャーナリストたちがいることに感動した。技術そのものは日本でもすでに見られていたが、ジャーナリズムの立場からモバイルツールの可能性を”真剣”に論じられることは、ほとんどなかった。この状況は今も同じだ。

参考までに関連リンクを貼る。ちなみに上記のMOOCにぼくは何度かエントリーしているが、日本人のメディア関係者はほとんど多国籍discussionに参加していない印象だ。ブログ「新聞紙学的」を運営している平和博さんを見かけたことがあるくらい。とても勉強になるプログラムだと思うのだが・・・。

www.huffingtonpost.com

www.theguardian.com

 

すでにスマホ=アプリの時代である

日本のメディア業界でアプリというと、ニュースアプリを思い浮かべる人が多い。ニュースアプリは、快適に(いわゆるサクサクと)ニュースが読める便利なツールではあるが、果たしてアプリという形態を最大限活用しているのか。

某大手ニュースアプリ会社の幹部によると、「ニュースアプリの個別化機能は、ほとんど利用者に使われていない」そうだ。だが、アプリのようなモバイルツールの最大の強みは、スマートフォンに付属されたカメラ機能やスキャン機能、GPS機能などにある。TPOに応じて個々人に最適化された情報を発信・入手するには、現時点ではアプリが最も優れている。

ニールセンの2015年のデータでは、スマホ利用の80%がアプリである(※)。スマホ=アプリになりつつある。情報・通信の中心がアプリだとしたら、そこにジャーナリズムが入っていかないでどうする?

データジャーナリズム、ヴァーチャルリアリティ、イマーシブ、インフォグラフィクス・・・海外のトレンドを追いかけるのは大切だが、足元で日本の消費者が何を使っているかにもメディア関係者は目を向けるべきではないだろうか。

 

ジャーナリズムとアプリの可能性を模索したい

ジャーナリズムにアプリをもっと活かしていきませんか?これがイベントでぼくが言いたかったことだ。そして、手応えはあった。「21世紀のジャーナリズムはアプリである」。この仮説は、今後ぼく自身が検証し、ひいては日本のジャーナリズムに貢献していきたい。

当日最後まで話を聞いてくださった方々、ありがとうございます。次はもっといいもの作るので応援いただけると幸いです。

そして、イベント主催してくださった皆様に感謝します。このイベントこそが、一番のイノベーションではないかと、今年もまた思った。

 

 

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