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お客様は、「神様」ではありません

ドラッグストア情報

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お客様は神様です、の曲解

いくつかのドラッグストアで薬剤師として働いてきた経験から、お客がドラッグストアをうまく活用する方法として、「自分を神様だと思わないこと」を挙げたい。

お客様は神様じゃありません。「お客様は神様です」を広めた演歌歌手の三波春夫さんの公式HPにも曲解されていると書かれている。三波さんが草葉の陰で泣いている。

www.minamiharuo.jp

 

「全てのお客に丁寧かつ平等に接する」という幻想

 「売り手は、全てのお客に対して丁寧に、そして平等に接するべきである」

ぼくはある時期まで、こんな風にわりと本気で思ってきた。ぼく自身が利用者としてドラッグストアを利用した際に、店員のぞんざいな対応に不快な思いをした経験が何度もあるからだ。みなさんも、一度や二度はあるだろう。

けれども、ドラッグストアで働き始めてしばらくすると、「全てのお客に平等に接する」というのは、どうやら幻想かもしれないと思い始めた。

 

平等にしようとすると、不平等が起きる

たとえば、ドラッグストアには、特定の従業員のファンがいる。ファンといえば聞こえはいいものの、彼らの何人かは非常に話好きで、いつも同じ内容の話を繰り返し、しかも30分、長ければ1時間近くも話し続ける。散々話した末に、何も購入せずに店を出ていくこともある。

店員はできるかぎり、笑顔で、丁寧に、辛抱強く耳を傾けようとするが、その裏では、他の店員が、その人の仕事を肩代わりして店内を走り回ることになる。レジは長蛇の列を作り、他のお客がイライラしはじめる。

そういうお客が悪いとは思わないし、彼らを責めるのは筋違いってわかっている。でも、はたしてこれは、平等なのだろうか?一人のお客に丁寧に接することで、他のお客にとっての不平等が起きるというような気がしてならない。

 

全国一位が語る「モノを売る秘訣」

こんなことは、たぶん小売業界では当たり前の話なんだろう。ぼくが一番おどろいたのは、あるとき、知人の紹介で知り合った大手ドラッグストアの敏腕女性店員に、

「販売実績を伸ばす秘訣はなんですか?」

と訊ねたときのことだ。彼女は自社の化粧品部門で売り上げ全国一位になったことがある。なぜ一位になれたのか。接客方法に長けていたのか、商品知識が豊富だったのか。 女性の答えは、ぼくにとって予想外のものだった。

「お客を選ぶこと。これが私の持論です」

たくさん品物を購入するお客もいれば、そうでないお客もいる。前者のお客に狙いをつけて、接客をすることが重要である。すべてのお客を平等に扱うことはしない。購入点数が少ないお客には、それ相応の接客しかしない。彼女はキッパリと答えた。

その後、彼女の仕事の様子を見学させてもらったが、ぼくから見るとお客に対して冷たいと感じる対応が多くあった。しかし、特定のお客に対しては非常に丁寧な接客で、また知識も豊富なこともあり、とても厚い信頼を得ていた。結果として、彼女はお客にとって頼りになる店員として、会社にとってはデキる社員として売り場に君臨していた。

 

実は店員はお客を選んでいる?

この女性のようなタイプの店員は、珍しくないだろう。多かれ少なかれ、店員はお客を見ている。店に利益をもたらすお客は、丁寧に対応されるし、そうでないお客は、失礼のない範囲でそれなりの対応になるのだ。ぼくはできるだけ平等に接しようと心掛けているし、店のみんなにもそうしてほしいと願っているけれど、「小売業」という業界全体でみると、ひょっとしたら主流ではないのかもしれないし、ぼくはぼく自身のやり方が正しいと思っているわけでもない。

業界全体でみると、たぶん、お客が「自分は神様だ」と思っていたとしても、そう思っているのは本人だけである。お客は残念ながら、神様ではない。誤解を恐れず言うのなら、お客が店や店員を選ぶように、店や店員もお客をこっそり選んでいる。

商品を買って店員に気に入られよう、なんてことじゃない。もし、ドラッグストアをうまく利用したいと思うのなら、「お客は神様だ」という考えは捨てて、店員には社会通念上ごく普通の態度で、常識的な買い物をすることだ。それだけで、店員は丁寧に対応してくれる。

 

 台湾ではお客が店員に「ありがとう」

「売り手市場」「書いて市場」という言葉があるように、市場環境によって「お客」と「店員」のパワーバランスは決まる。 たとえば、日本ではレジ会計後に店員がお客に「ありがとうございました」というのが普通だが、「爆買いの正体」の著者・鄭世彬氏によれば、台湾ではお客が店員に「ありがとう」という。

近年、お客が店員に土下座させて謝罪させる事件が報じられている。いまの日本では、お客が店員よりも圧倒的に偉い雰囲気がある。 これを「そういう市場だから」と済ませるのは、やや諦めが早すぎると思う。

 

 売り手と買い手に緊張を生む「ランサーズ」の工夫

「ランサーズ」という、国内最大級のクラウドソーシングサービスをご存じだろうか。仕事を依頼したい人と、仕事を探している人のマッチングサイトだ。利用者はサイト上で仕事を募り、ランサーズに登録したエンジニアやデザイナー、ライターがそれを見つけて仕事を受ける。

ランサーズが面白いのは、仕事の依頼が終わると、双方が相手を評価する仕組みになっていることだ。

ぼくが利用した時は、依頼した仕事が終了したのちにランサーズ事務局から、受注者(このときはエンジニアだった)を評価するように案内がきた。項目は、

・品質(クオリティ)

・納期(スケジュール感)

・対応(コミュニケーション)

・予算(コスト)

・能力(スキル)

で、★5段階で評価した。

その一方で、受注者からも、ぼくに対する評価が来た。評価項目は、

・依頼内容のわかりやすさ

・スケジュール感

・対応(コミュニケーション)

・予算(コスト)

・知識(リテラシー)

だった。これらの★評価は、ランサーズサイト内におけるその後の受注・発注に大きく影響するので、★を付けるには責任が伴う。だからこそ、お互いの仕事への姿勢に緊張が生まれる。この仕組みは、すごくいいなと思った。

www.lancers.jp

ランサーズと似たクラウドソーシングサービスをおこなっている「ココナラ」というサイトも、最近、注文者と受注者の双方向の評価システムを作った。

お客がサービス提供者を評価するように、サービス提供者もお客を評価する――。こうした流れが、クラウドソーシングサービスだけの現象なのか、社会全体に波及していくものなのか、注目に値する。

coconala.com

 

お互いが優しく、丁寧になりそうな予感 

小売業では、しばしば、各店が「お客様の声」というアンケートはがきを用意している。利用者が店や店員を評価するシステムである。

では、店員がお客を評価するシステムがあったらどうだろうか。たとえばレジ会計後に、そのお客を評価する★スタンプをつけて渡し、スタンプが10個集まったら、ささやかなサービスを提供するみたいな。お互いが優しく、丁寧になれると思う。

「お客様は神様だ!土下座しろ!」なんて言いだすDQNが減ることは確かだ。