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中国の人々が日本の漢方薬を買わない理由

海外情報 ドラッグストア情報

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「日本の漢方薬はいらない」

中国の観光客が日本のドラッグストアで大量の市販薬を購入することが、あたりまえになっているのだけれど、ぼくがいた外国のお客がたくさんくる店舗では、中国人観光客は、ほとんど誰も日本の漢方薬を買っていかなかった。観光客に人気の通称"ダイエット薬"「ナイシトール(防風通聖散)」は数少ない例外である(※1)。

あるとき、お客に漢方薬をすすめたところ、

「ああ、日本の漢方薬はいらないデス」

と、すごくそっけない反応だった。しゅん。

何度か中国人のお客に漢方薬を勧めたことがあるけれど、売れたことは一度もない。知名度の低さもあるだろうが、日本の漢方薬への評価は低いように感じる。

ところが、そんなぼくの実感とは逆の雑誌記事を先日読んだ。

「中国の人は、日本の漢方薬の品質は良くて、世界中に輸出されていると思っている」

というタイトルのコラムだ。

 

日本の漢方薬が邪魔?

薬剤師向け専門誌「月刊薬事」の2016年4月号に載った、漢方薬にとても詳しい新井一郎さんという方(日本薬科大学教授)のコラムだった。その一文に、

以前は中国産の生薬のうち、品質(伝統的品質)が優れているものは日本に輸出し、そうでないものは中国国内で消費される、といわれていました。このことも、中国のほうが日本の漢方製品の品質が高いと思っている原因なのかもしれません

とある。中国の人は、品質の高い生薬(漢方薬の原材料)は日本に輸出されているという誤解を抱いているというのだ。現在は高価な高品質の生薬が中国国内でも消費されるようになった、と新井さんは続けている。

興味深いのは、日本の漢方薬に対する中国側の気持ちだ。新井さんによれば、

「日本の漢方薬の品質はとても良いので、世界中に輸出され中国の伝統薬産業の世界進出を邪魔している」と思っている方が中国には多数おられ、このことが日中の火種になっていました。

そうなの?しらなかった。そんな摩擦があるなんて。

 

日本の漢方薬の原料はほぼ中国産

ググってみると、おもしろい言説が出てきた。中国共産党委員会系のメディア「人民網」の記事だ。

j.people.com.cn

この記事がほんのり主張するところは、中国の伝統薬を日本が活用し、それで世界中で大きな利益を上げているというものだ。日本の代表的な漢方薬メーカー「ツムラ」を挙げて、現状を嘆くような論調だ。

ツムラは中国の漢方薬から出発した企業で、中国での呼称「中薬方」を意図的に「漢方」と呼び変えた。同社が使用する「漢方」薬材の80%は中国から輸入されたものだ。<中略>中国の「六神丸」がツムラの「救心」に生まれ変わるのにはびっくりする。救心は年間1億ドルを売り上げるドル箱商品だ。

ちなみに、救心を売ってる会社はツムラじゃなくて、救心製薬ね。大丈夫か、人民網。

それはともかく、日本の漢方薬の原料である生薬のほとんどが、中国産であることは事実だ。日本漢方生薬製剤協会の調べたところでは(会員企業対象)、じつに8割が中国産。多くの漢方薬に含まれて最も消費量の多い「カンゾウ」という生薬に至っては、100%中国産というから驚きだ(※2)。

日本の漢方薬の原料は、ほとんど中国産なんですよ。医療関係者には広く知られた事実なのだけど、みなさん知ってました?

 

元ネタが中国だし、原材料も中国。そりゃブレイクしないよね 

ようするに、日本の漢方薬は、元ネタが中国の伝統薬だし、いまもって原材料は中国産ってことになる。これが、中国の人たちが日本の漢方薬を買わない、あるいは漢方薬が観光客の間でブレイクしない理由のひとつではないかとぼくは思っている。いや、わからないですけどね。でも、日本人だって中国旅行した時に「原産国日本」と書かれたウーロン茶は買いたくないでしょ。心情的に。

もっとも、中国の人々が日本で爆買いをする別な理由に、「偽物がない」「品質が保証されている」という点がある。中国の人々が「日本の漢方薬の品質は良い」と感じるようになったら、ドラッグストアで漢方薬を爆買いする光景が出てくるのだろうか。2016年5月現在、ぼくの見聞きする情報にそれはない。

 

 

※1漢方でなければ、「命の母」「糖解錠」も人気である

※2http://www.nikkankyo.org/topix/news/111001/shiyouryou-chousa.pdf