お茶で飲む風邪薬?
映画「君の名は。」にハマったついでに、劇中歌を担当したバンドRADWIMPSの歌も最近聞いてます。CMでお馴染みの「前前前世」とか。
薬の話をします。
「改源」という風邪薬がある。昔はCMもやっていたから、一定の年齢の人にはよく知られている。
改源は和洋折衷の薬だ。アセトアミノフェンなど普通の風邪薬の成分に、甘草や桂皮などの生薬成分を配合している。眠気を起こす抗ヒスタミン成分が入っていないことも特徴。類似薬の多い市販の風邪薬の中にあって、比較的個性がはっきりしている商品だ。
大正13年発売。びっくりすることに、当時は、
「お茶でのむかぜ薬」
というキャッチフレーズで販売していた。今日び、「薬はお茶で飲んではいけない」というのが、どちらかといえば常識になっているから、まったく逆だ(実際はお茶で飲んではいけない薬は多くない)。
カフェインなしの風邪薬だったけど・・・
お茶で飲むことを勧めている。その理由は、お茶に含まれるカフェインを摂取するためだったようだ。『日本の伝承薬』(鈴木 昶著)によれば、発売当時の説明書には、こう書かれていた。
「茶中には劇薬カフェインを含有す。カフェインは医界において専ら神経痛、頭痛、心臓強化、利尿剤として賞用せらる。本剤中に配剤すべきを殊更加味せず。されば服用に際して茶湯を用い下さらば、茶中含有のカフェイン現出して誠に気持ちよく、たん、せき止め、熱を冷ます」
なかなか味わい深い文章ではありませんか。カフェインは今でも「劇薬」扱い(医療用が該当。市販のものは大丈夫)なのだけど、こんなに有能な薬でしたっけ?いまの時代なら、医療従事者からの批判で炎上すること間違いなしの書きっぷりだ(案外当時もそうだったのかもしれないけど)。
さて、当時の「改源」にはカフェインが含まれていない。それで「茶と一緒に飲もう!」というキャッチコピーが生まれた。その後、改源の処方内容は変更された。今の改源にはカフェインが入っている。「お茶でのむかぜ薬」というフレーズは、使われていない。
前出の「日本の伝承薬」の著者の鈴木さんは、
「何で処方を変える必要があったのかと、返す返すも残念でならない」
と書いている。いまの市販薬はカフェインを入れているものが多い。カフェイン抜き、という個性がなくなったのは確かだ。
脳が健康になる!?「健脳丸」
もうひとつ、「健のう丸」という便秘薬がある。あまりメジャーではない薬。その不思議なネーミングの由来もまた、前出の『日本の伝承薬』で紹介されている。これがまたユニークだ。「健のう丸」は、発売当時は「健脳丸」だったというのだ。
脳が健康になる!?
さて、いまなら一発アウトな表記。どうやら、発売当時は鎮静剤と下剤を組み合わせた薬だったらしい。なんと、「臭化カリウム」という鎮静成分を含んでいたそうだ。その後、臭化カリウムは法律で規制され、いまでは市販薬では使用禁止になっている。
発売当時の、効能効果を記した文言がスゴイ。
「脳充血、逆上、神経痛、眩暈、脳膜炎、頭痛、顔面神経痛、ヒステリー、耳鳴、癇癪、不眠、中風卒中、ひきつけ、便秘、健忘、その他脳神経病一切」
いやあ、いいますなー。まあ、明治時代の話です。許しましょう。
市販薬とその時代
生まれ変わった「健のう丸」は、ダイオウ、アロエ、センナなどを含む便秘薬として販売されている。15歳以上の場合、2~3日便通がない時は1回6~9粒、4日以上便通がない時は9~12粒といった具合に、飲む量を細かく調整できるのが特徴だ。
薬は時代と共に変わる。という話。「改源」「健のう丸」が気になる人は、 薬剤師に聞いてみてほしい。