『家庭の薬学』

自分に合った市販薬を選びませんか?

風邪薬でドーピング!?うっかりドーピングにならないための方法

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アスリートのお客が来る!

以前、筋肉隆々な男性が、

「ステロイドを使ってない塗り薬ありますか?」

と聞いてきたことがあった。見るからにアスリート。ドーピングにひっかからない市販薬を探しているようだった。時々だけど、いるのだ、こういうお客が。恐い恐い。

 

ステロイドの注意点

「ステロイド」というと”筋肉増強剤”を思い浮かべる人がいる。筋肉ムキムキになる、みたいな。このステロイドという言葉は、「蛋白同化薬」という薬の俗称として使われている。市販薬では、男性向けの強壮薬の「金蛇精」などが、蛋白同化薬に当てはまるとされる(※1)。

注意したいのは、ここでいうステロイドは俗称であって、いわゆる医療現場で言われるステロイドとはまったく異なると言うこと。

医療現場で「ステロイド」とは、皮膚の塗り薬や、喘息の吸入薬に使う「糖質コルチコイド」という成分を指す(のが普通だと思う)。これは使っても筋肉ムキムキにはならない。

ステロイドは投与経路によって、ドーピング対象かどうかが変わる。たとえば、”塗り薬”は、基本的にドーピングには当たらないことが国際的なドーピング阻止機関(世界ドーピング防止機構)によって示されている。一方で、飲み薬のステロイドは、「治療使用特例(TUE)」という手続き(※2)で、事前に申請する必要があるとされる(※3)。以下に記す。

TUE申請必要 飲み薬、静脈注射、筋肉注射、座薬

TUE申請不要 塗り薬、貼り薬、目薬、点鼻薬、口の中に塗る薬(2021年に禁止となったことを追記します)

TUE申請には医師の診断が必要なので、市販薬を購入して医師にTUE申請を依頼することはできない(※4)。ご注意を。

さらにいうと、禁止されている成分には、競技中のみ禁止されているものと、競技中以外でもきんしされているものがある。ドーピングについては、詳しくはこちらの「日本学生陸上競技連合」のサイトをどうぞ。

http://www.iuau.jp/news/2017/anti2017.pdf

 

 たかが、あめ玉でドーピング!?

ドーピングと言えば、今年、こんな珍事があった。

www.j-cast.com

龍角散ののど飴には禁止成分が含まれていて、なめるとドーピングにひっかる。そんな情報がツイッターで広まった。実際は、龍角散ののど飴に禁止成分は使われていない。

発端は、今年から「ヒゲナミン」と呼ばれる成分が、世界ドーピング防止機構の定める禁止成分リストに入ったことだった。

ヒゲナミンは、気管支を広げる作用があり、「南天」などに含まれている成分だ。この情報が、どこでどう間違ったのか、「龍角散のど飴」も禁止成分であるという誤った情報が生まれ、これがツイッター上で大量に広がった。

龍角散の会社が、あわてて、「当社の「龍角散ののどすっきり飴」には「ヒゲナミン」は含まれておりません。」と題したリリースを発表する事態になった。

www.ryukakusan.co.jp

 

漢方、風邪薬でもドーピングの可能性

意外とあなどれない、市販薬のドーピング。飴くらいなら大丈夫だろうと思っても、うっかりヒゲナミンを摂取してしまう可能性がある。先述の通り、ヒゲナミンは南天に含まれる。ということは、昔からある「南天のど飴」は使わないのが無難だ。

また、世間一般で”安全”という印象の強い漢方薬も、成分の中に禁止物質が含まれていることがあり、アスリートは漢方薬は避けた方が無難とされる(ということは、先述の龍角散も避けた方が無難という意見がある)。誰もが使う風邪薬の中にも、禁止物質は含まれる。

意図せず禁止成分を摂取することを「うっかりドーピング」という名前がついている。どうすれば防げるのか。

ずばり、うっかりドーピング防止マニュアルという本がある。

うっかりドーピング防止マニュアル

うっかりドーピング防止マニュアル

 

 

スポーツファーマシストに聞いてみたら?

「スポーツファーマシスト」という薬剤師がいる。ドーピングの勉強をして、ドーピング防止のカウンセリングができることが、日本アンチドーピング機構という組織から認定された薬剤師のことだ。「うっかりドーピング防止マニュアル」の著者の遠藤さんはスポーツファーマシストである。

禁止薬物リストは、アンチドーピング機構のサイトを見れば知ることができる。でも、ぼくは正直、リストを読んでも、「アスリートにアドバイスはできないな」と思った。この感覚は正しくて、遠藤さんは、本書でこう書いている。

認定を受けたとしても、すぐに選手からの相談に対応できるかといわれると非常に難しいことも多いです。

禁止物質は、禁止表基準に表記されているだけで240種類以上、そのうえ曖昧な表記もあり、常に禁止される物質、競技会時にのみ禁止される物質、特定の競技のみに禁止される物質などがあります。ドーピング防止の市江戸は非常に複雑であり、薬の専門家である薬剤師でも、すべての把握は困難を極めます。

だから、スポーツファーマシストでないぼくのような薬剤師は、なおさらヘタに手出しはできない。ただ、ドーピングが気になる人は、とりあえずドラッグストアの薬剤師に相談してみてほしい。その薬剤師が所属する薬剤師会に照会して調べてくれることもある。

あと、スポーツファーマシストを検索できるサイトもある。近所にいたらラッキー!

スポーツファーマシスト会員検索

最後に、参考までにドーピング情報に関するリンクをいくつか紹介する。

「薬剤師のためのドーピング防止ガイドブック」

http://www.nichiyaku.or.jp/action/wp-content/uploads/2016/07/guidebook_web2016_1.pdf

東京薬科大学のアンチ・ドーピングデータベース

http://www.drc.toyaku.ac.jp/doping/

日本アンチ・ドーピング機構のGlobal DRO(検索は医療用医薬品)

Global DRO - Home

 

 ※1http://www.iuau.jp/news/2017/anti2017.pdf

 ※2TUE(治療使用特例)について|PLAY TRUE|JADA

 ※3「うっかりドーピング防止マニュアル」より、一部改編。本書によると、坐剤は申請が必要だが、肛門付近に糖質コルチコイドを塗るのは申請不要とのこと

※4医師のためのTUE申請ガイドブック

http://www.realchampion.jp/assets/uploads/2016/04/tueguidebook2016.pdf