『家庭の薬学』

自分に合った市販薬を選びませんか?

アレグラを風邪に使うのはどうなの?

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風邪でアレグラを飲むとどうなるの?

どうなるんでしょう?風邪で鼻水出てたときに、「アレグラ」を使ったら。アレグラは鼻水・鼻づまりを改善する薬。通常は花粉症の薬として使われている。けど、風邪の鼻症状にも効く?

ただ、市販薬のアレグラの説明書には、こう書かれている。

花粉、ハウスダスト(室内塵)などによる 次のような鼻のアレルギー症状の緩和:くしゃみ、鼻みず、鼻づまり

アレルギーの鼻症状に対して使えるけど、風邪の鼻症状には使えない。

じゃ、使わない方がいいのかね?

風邪の鼻症状に抗ヒスタミン薬を飲んでも・・・

色んな意見があるのだけど、ぼく個人としては、風邪症状に市販のアレグラはお勧めしない。市販薬と病院の薬は用途が異なるから、というのもあるけど、別な理由は、効果が低いから。使うだけ無駄の可能性がある。

鼻水を止める薬は色々ある。その中で一番よく使われるのは、「抗ヒスタミン薬」と呼ばれるタイプの薬だ。アレグラも抗ヒスタミン薬の一つ。

風邪の鼻症状に、この「抗ヒスタミン薬」はほとんど効果がない、といわれている。

ドラッグストアの薬剤師にも聞いてみてね

コクランライブラリーという、世界中のいろんな論文を集めて評価・公表しているデータベースサイトがある。医療界では、とても信頼性の高いサイトとして扱われている。このサイトでは、風邪に抗ヒスタミン薬を飲むことについて、「飲まなくても、目立った違いはない」とある。

onlinelibrary.wiley.com

「目立った違いはない」ということは、多少は効果があるのか?とも思う人もいるだろう。それはあとに書く。

風邪の鼻症状にアレグラは使わない方がいいのか。コクランでは「意味なし」みたいに書かれている。ただ、実際に有効かどうかは、各々の薬剤師によって判断が分かれるだろう。最寄りのドラッグストアの薬剤師にも、是非質問してみてほしい。「風邪にアレグラって効くんですか?」と(ちなみに、アレグラと風邪common coldでパブメド検索したが参考になるものは見つからなかった)。

病院でアレグラが処方される理由

さて、ここで疑問。世界的に有名なデータベースサイトで、効果が期待できないと書かれているアレグラ(抗ヒスタミン薬)だが、実は病院では風邪症状に処方されることがある(※)。なにゆえ?じつはこれはぼく自身、ずっとモヤモヤしていた。

ちょっと専門的になるのだけど、たとえば、医師向けの「ジェネラリストのための内科外来マニュアル」という結構人気の高い本がある(アマゾンのレビュー欄の評価が高い)。

ジェネラリストのための内科外来マニュアル

ジェネラリストのための内科外来マニュアル

 

本書でも、風邪の鼻症状に対する処方例として、クラリチン(ロラタジン)という抗ヒスタミン薬が紹介されている(正確には、クラリチンもしくは漢方薬の小青龍湯)。

病院では医者が風邪の鼻症状に抗ヒスタミン薬を処方することは珍しくない。一方で、風邪の鼻症状に抗ヒスタミン薬がほとんど効かないことは、医療界では割と”常識”だ。

なんというか、”常識”すぎて、正直いまさら恥ずかしくて聞けない案件になってしまっていた。ぶっちゃけ、この記事自体、他の医療関係者に読まれると、かなり恥ずかしい。

ロラタジンなら効く・・・かもしれない?

ところが、最近、その理由をけっこう明確に書いた本を見つけた。それによると、アレルギー性鼻炎のある人の風邪の鼻症状には、ロラタジン(クラリチン)という抗ヒスタミン薬が多少効くという研究があるらしいのだ。これ↓

onlinelibrary.wiley.com

この研究では、アレルギー持ちの患者(皮膚テスト、RASTと呼ばれる血液検査、病歴から判断)で風邪の鼻症状にロラタジンを与えたら、くしゃみと鼻づまりが改善されたらしい。ロラタジンとアレグラは似た薬だ。だから、ロラタジンのかわりにアレグラが処方されてもおかしくない。実際、ぼくはアレルギー持ちだ(花粉症)。風邪の時でもアレグラが処方された理由はこれかもしれない。

風邪にアレグラは必要だろうか?

ただ、アレグラを処方することが、果たして医療現場で今後も続くだろうか?という疑問が個人的にはある。

ぼくのお気に入りの本に「かぜ診療マニュアル」という本がある。今年、改訂版(第2版)が発売されて購入したところ、まさにこの件について改訂がされていた。鼻症状に対する処方例に、アレグラが無くなっていた。

ちょっと長いけど、第1版と第2版で変わった部分を引用する。重要な変更部分はぼくが太字にした。

 

 「かぜ診療マニュアル 第1版」

鼻汁、鼻閉に対して

フェキソフェナジン(アレグラ)1回60mgを1日2回内服

または

ロラタジン(クラリチン)1回10mgを1日1回内服

鼻汁に対して多少有効だというエビデンスがあるのは第一世代の抗ヒスタミン薬(眠気の副作用が強い薬:ポララミンなど)のみです。これは抗ヒスタミン作用というより抗コリン作用が効いているのだと言われています。若い人では使用してもよいかもしれませんが、特に高齢者では尿閉、眠気、不整脈の心配があり、避けるべきです。

フェキソフェナジンやロラタジンのような第二世代の抗ヒスタミン薬は感冒時の鼻汁に対しては正直あまり効果がありませんが、上記のような副作用は少ないため、患者の希望に応じて処方することがあります。患者に漢方薬の抵抗がなければ漢方薬を使用することが多いです

 

「かぜ診療マニュアル 第2版」

d-クロルフェニラミンマレイン酸(ネオマレルミンTR) 1回6mgを1日2回内服、2日間(ただし、高齢者では避ける)

 ロラタジン(クラリチン)1回10mgを1日1回内服(もともとアレルギー性鼻炎がある場合)

鼻汁に対して多少有効だというエビデンスがあるのは第一世代の抗ヒスタミン薬(眠気の副作用が強い薬:ポララミンなど)のみです。これは抗ヒスタミン作用というより抗コリン作用が効いているのだと言われています。短期的(初期2日間)な症状軽減には役立つようですが、中長期的(3日目以降)にはプラセボと変わらなくなってしまうので、処方するとしても2日間にとどめるのがよさそうです。高齢者では尿閉、眠気、不整脈の心配があり、避けるべきです。

フェキソフェナジンやロラタジンのような第二世代の抗ヒスタミン薬は感冒時の鼻汁に対しては正直あまり効果がありませんが、もともとアレルギー性鼻炎のある人の急性副鼻腔炎ではロラタジンが多少有効な可能性があります。患者に漢方薬の抵抗がなければ漢方薬を使用することが多いです

 

ここで出てくる「第一世代の抗ヒスタミン薬」とは、古いタイプの抗ヒスタミン薬を指している。抗ヒスタミン薬には古い「第一世代」と、新しい「第二世代」がある。アレグラは新しい第二世代にあたる。第二世代は効果がないが、第一世代なら短期的に鼻症状に効くといわれている。だから、先述のコクランでも、「顕著な違いはない」と多少含みを持たせた記述になっているのだとぼくは推測する。ほんとのところは知らんけど。

ちなみに、「パブロン」「ルル」などの市販の総合風邪薬に含まれている抗ヒスタミン成分は、すべて第一世代だ。

かぜ診療マニュアル

かぜ診療マニュアル

 

医療従事者向けの情報だから、自己流の読み解きはしないでね

本書の第2版では、抗ヒスタミン薬の、第一世代と第二世代の使い分けがはっきり書かれている。これはけっこう、合理的な使い分け方法だと感じる。本書の冒頭に、第2版の改訂箇所の説明があるので引く(以下、カッコ書きはぼくがつけました)。

普通感冒(かぜのことです)、急性鼻・副鼻腔炎の鼻汁、鼻閉に対して、前版では有効性を示したエビデンスが乏しいものの副作用が少ないフェキソフェナジン(アレグラのことです)を記載していましたが、有効性がしめされている第一世代の抗ヒスタミン薬に修正しました(ただし高齢者には使わない方がよいです)。アレルギー性鼻炎のある患者の感冒については、ロラタジンが有効性を示したRCTがあり、これを優先しました。

注意しておきたいのだけど、これはあくまで医療従事者向けに書かれた書籍だ。一般の人がこれを読んで自分流に解釈するための本ではない。医療従事者に質問する際の参考適度に知っておくにとどめてほしい。「そういえば、ネットで読んだんですけど~どうなんですかね~?」くらいに。

さて、えらく長くなったけど、最後に細かいことを2つ。1つ目は、ネタばらしとして、ぼくがロラタジンのRCTを知ったきっかけは「かぜ診療マニュアル」だった。 

2つ目。ロラタジンは、「クラリチンEX」という商品名で市販薬として、今年からドラッグスストアでも購入できるようになった。ただし、薬剤師による説明が必須の「要指導医薬品」だ。市販のアレグラと同じく、アレルギー性の鼻症状にのみ使ってよいことになっている。

え?じゃあ、風邪の症状に市販のクラリチンEXを使うのはどうかって?そこは今回はスルーさせてください。もうこんな時間だから。

www.taisho.co.jp

 

※医療用医薬品のアレグラでも、適応はアレルギー性の鼻炎