オーケー、認めよう、接客販売業はもはや「嫌われもの」なのだ

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新卒社員クンの驚くべき告白

入社して間もない新卒社員クンから、「物を売ることが嫌なんです。罪悪感があるんです」と、退職理由を告げられたことがある。

小売業を自ら選び就職した人から、よもや「物を売るのが嫌い」などとミもフタもない失望感を聞くことになるとは、当時は想像もつかなかった。

これが”いまどきの新入社員”というやつか!と半ば呆れてしまったが、彼の話を聞くと、事情はそれほど単純ではなかった。

 

アホと思う人は業界に染まり過ぎている

彼は退職の動機を幾つか挙げたのだけど(一番は社風が合わないというものだった)、ぼくがなにより驚いたのは「売るのが嫌い」という告白だった。「売らなくてはいけない商品があるから」と彼は言った。そう、あらゆる小売企業には、ほぼ例外なく”売るべき商品”が存在する(いわゆる粗利の大きな商品のことだが、誤解しないように言うとこれはぼったくりではなく、むしろ消費者としては得をする仕組みである。詳細は注釈参照※1)。売り場ではそうした商品を、お客の目につきやすい場所に陳列したり、機会があれば店員自らお客に勧める。

退職を口にした新入社員の彼は、これに違和感を覚えたようで、「自分が使ったことのない商品、興味のない商品を、お客にお勧めすることに罪悪感があるんです」と言う。

この話を聞いて「なに純粋なこと言っているんだ、アホか」と思った人は、小売業界に長く身を置きすぎたために業界と無関係な人の気持ちを忘れてしまっているにちがいない。ついでにいうと3周遅れくらいで時代の流れを見誤っている。はっきり言おう。この新入社員クンの意見は結構正しい。

 

認めよう、ネット通販の市場拡大が証左だ

認めよう、接客販売業はもはや嫌われものなのだ。なぜかって?LINE取締役の田端信太郎さんが書いた「オーケー、認めよう。広告はもはや「嫌われもの」なのだ」という記事を読んでほしい(※2)。金を払ってでも広告を見たくない人たちが、たくさんいる時代なのだ。お店では広告の代わりに、販売員が商品の宣伝役を担っている。ならば、接客販売業だって嫌われてもおかしくない。

街中の店が苦戦を強いられいるのに、インターネット通販の市場は過去5年間右肩上がりだ(※3)。ネット通販が今後もシェアを伸ばすことは論を俟たない。ものを買うだけなら、ネットの方がはるかに便利で安い。店頭で「これが絶対お勧めですよ!」と、大した商品説明もなく自社ブランドをお勧めされることもない。商品の情報を知りたければ口コミサイトを見ればいい。

 

接客が大嫌いだったぼくが変わった理由

もう、ネット通販があれば店なんていらない。接客スタッフなんていらない。ネットで十分。ん、いや、ちょっと待って。そうじゃない。それは違う。いずれはそうなるかもしれないけれど、少なくともいまはまだその時代じゃない。

ぼくの経験を紹介しよう。かくいうぼくも、実は昔は接客してくる店員が大嫌いだった。どうせ売りたいものを勧めてるだけだろと斜に構えていた。彼らが勧める商品を買うだけの金銭的余裕もなかった。

ところが、大学を卒業して、社会を知り、収入が増え、自由に使えるお金が増えると、自然と考え方が変わっていった。商品の説明が欲しいと思うようになった。

店員に質問して、納得できたものを購入したいと思うようになった。ネットのクチコミはそれなりに有用だけど、信用ならない情報も多いし、自分が本当に知りたい情報は案外載っていないことに気づいた。店で店員に聞いた方がよっぽど早い。優秀な店員はこちらが知りたいことを教えてくれる。納得して買うことができるし、頼りになる店員を知ったいう密かな満足感を得られることに気づいた。

 

「欲望喚起型」から「欲望充足型」へ

「そんなことはみんな知っているし、やっている」と同業者から言われそうだが、本当にそうだろうか?残念ながら、ぼくは小売店に行って満足できる接客を受けた経験は数少ない。ようするに、頭ではわかっちゃいるけどほとんどの販売員が実践できていないのじゃないでしょうか。

先述の田端さんの言葉を借りるなら、「欲望喚起型」の接客ではなく、「欲望充足型」の接客が大切なのだ。いや、ビジネス上は欲望喚起型も必要なんだけど、スッと受け入れられる価値観じゃないと思う。バブリーな時代じゃないんだから。

幸い、この欲望充足型は、薬剤師の資質と非常に相性がいい。薬剤師がトレーニングされるのは、モノを売る技術ではなく、情報(知識)の提供や、健康の悩みの解消法(解決策)の提案だ。ドラッグストアでは「薬剤師さんに薬の事を聞きたいんですけど」というお客が来る。彼らは「薬剤師は薬に詳しい」「ネット上に書いていない情報を持っている」「医療従事者だから(一般的な小売業者よりも)、企業利益に偏らないフェアな判断をしてくれる」という期待を持っている。統計的な情報はないけど、これがぼくの現場の皮膚感覚だ。

 

「売りなさい」と命じることはできない

上司だったぼくは新入社員クンに「利益の大きな商品を売りなさい」と命じたことはない。商品が売れるかどうかは、商品自体の魅力とお客の価値観次第だから、我々にできるのは「こういう商品があるけどいかがですか」と提案することくらいだ。しかし、彼にとっては、そうした提案さえも受け入れ難かった。そもそもぼくは、彼が売ることに罪悪感を抱いていたことさえ想像もつかなかったのだ。マネジメント不足だと言わざるを得ない。

オーケー、認めよう、接客販売業はもはや「嫌われもの」なのだ。だから、一緒に新しい接客販売業を目指そう。そういう人を、ぼくの職場と会社は歓迎している。 

 

 

参考情報

※1ドラッグストアの場合は「推奨品」「推売品」と言った名前で社内で呼ばれている。本社から「これを売って下さい」と現場に指示する商品のことで、ようするに利益が比較的取れるものだ。こう書くと「高値で売ってぼったくってるのか」と反発を受けそうだが、そうではない。利益が取れる商品とは、本社の仕入部門がメーカーと価格交渉して、より好条件で契約した商品のことだ。つまり、仕入れ価格が安かったり、あるいはリベートがあったりする商品のことであり、お客に売る販売価格が高いわけではない。むしろ他店よりも安い場合もあり、純粋にお買い得商品だったりする。ややきれいごとに聞こえるかもしれないし、そうでない場合もあるのだろうが、ぼくはそう理解しているし、この理解は概ね正しいと考えている。

※2

www.advertimes.com

※3

netshop.impress.co.jp