正露丸、ラッパのマークの二枚舌

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正露丸は菌を殺さなかった・・・

【第2類医薬品】正露丸クイックC 16カプセル

【第2類医薬品】正露丸クイックC 16カプセル

 

ドラッグストアで働くまで知らなかったのだけど、下痢止めの正露丸は腸内の悪い菌を殺さないらしい。ドラッグストア同業者の中にも、意外と知らない人がいる。

正露丸は防腐剤だから危険だとか、善玉菌も一緒に殺すから体によくないとかいうのは事実と異なる風説であって、いずれも誤解である。と、発売元の大幸薬品の主張である。

根拠は正露丸の主成分である「木(もく)クレオソート」が、腸ではなく胃で吸収されるからだ。同社のウェブサイトには、2つの誤解が紹介されている(※1)。さっくりまとめると次の通り。

誤解その① 正露丸は防腐剤で危険

防腐剤の「クレオソート」と、正露丸に含まれる「木クレオソート」を混同した誤解。両者は別物

誤解その② 正露丸は腸内の善玉菌も殺す

木クレオソートはほとんどが胃で吸収されるので腸に届く量は微量。腸内菌の環境に影響を与えない。

ということだ。胃で吸収されるのは本当なのか、大幸薬品に確認すると、体の中の動きを調べた論文が示された。服用後15分で血中の成分濃度が上がり30分後に最高に、そして尿中回収率(24-hour urinary recoveries)という指標は70%以上だった。なんとなく、腸にはあまり届かないんだろうなという印象だ(※2)。

 

「おなかを消毒する?」に疑問を持った現社長

昔は正露丸は菌を殺す薬だと考えられていた。その考えに疑問を投げかけたのがいまの柴田高社長だ。柴田社長は創業者一族で、元々は市立病院の外科部長も務めた医師だった。(※3)。

先日の毎日新聞に掲載された、正露丸研究の回顧談の一部を引用する(※4)。

柴田社長は、阪大で博士号を取得した外科医。医師になりたてのころに務めた千里救命救急センターで、所長の医師に「正露丸ってよく効く。なんで」と聞かれた。柴田社長は「おなかを消毒するからでは」と答えたが、一笑に付された。柴田社長は「この質問にちゃんと説明できなければ、正露丸は消えていくと気づいた」。当時社長だった父卓さんに研究を進言した。 その結果、木クレオソートがなぜ効くのか、理論づけられた。 一番の特徴は、胃で吸収され、腸の動きを止めないこと。感染症では下痢を止めない方が病原物質を排出するにはいいと言われる。

この進言が功を奏したのかどうか、正露丸はいまも多くのドラッグストアに置かれている商品である。市場からほとんど姿を見せなくなった伝統薬が数あることを考えれば立派な成果といっていい。ぼくも自宅では正露丸を使っているし、お客に勧めることもある。

 

正露丸の効果の矛盾

ところで、正露丸さん・・・。

正露丸には殺菌作用があるみたいなことが、説明文書(添付文書)に書いてませんでしたっけ?

正露丸シリーズの説明書を確認すると、木クレオソートの欄に「腸内静菌」とある。静菌とは菌の増殖を抑える作用のことだ。胃で吸収されて腸で届かないのに、なんで静菌作用があるのか。

おかしい。矛盾してる。大幸薬品に電話で訊ねた(※5)。

ぼく「木クレオソートは胃で吸収されるんですよね。添付文書にある静菌作用と矛盾しませんか?」

担当者「当社では、胃で吸収されて腸内細菌には影響を与えないということを申しております」

ぼく「腸内細菌に影響を与えないのに、どうして菌の増殖を抑制する効果があるんでしょうか?」

担当者「そこは誤解を与えますので、今後添付文書を改訂する機会がある時は、静菌は削除することを検討しております」

そうなんですね。でも、だったら、どうして今年発売の「正露丸クイックC」の添付文書にまで、「静菌」とあるんでしょう。書かなきゃよかったじゃないですか。

腸内細菌に影響を与えないと言いながら、一方では悪い菌を殺す働きがあるかのような印象を消費者に与えているように感じるのは僕だけでしょうか。

こういうの、昔の人は”二枚舌”と呼んだそうですよ。世界史の先生がむかし教えてくれました。

 

 参考情報

※1正露丸・セイロガン糖衣Aの主成分木クレオソートの誤解1|正露丸・セイロガン糖衣A ブランドサイト|大幸薬品株式会社

※2薬物動態にさほど詳しくないので解釈は避けるが、おそらく尿中回収率が腸に到達しないことを示す指標と思われる。「Pharmacokinetics of Wood Creosote: Glucuronic Acid and Sulfate Conjugation of Phenolic Compounds」https://www.karger.com/Article/Abstract/139335

※3参考までに卒業大学は川崎医科大学医学部である。偏差値上は全国の医学部の中でもかなり下である。近年は偏差値60以上の大学だが、卒業した1981年当時はもっと下だったのではないか。その後外科部長になっているので外科医としては仕事ができたのかもしれないが、いわゆる優等生な学生だったわけではないと推測する。

役員|企業情報|大幸薬品株式会社

※4毎日新聞「大幸薬品 正露丸(大阪市西区西本町1) 伝統薬「まだ可能性」 /大阪」https://mainichi.jp/articles/20170526/ddl/k27/040/385000c

※5お客様センター対応。