今年はオンジ祭りだぞ★大量出現した「もの忘れ」の市販薬の効果

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2017年は「もの忘れ改善薬」としてオンジ商品が続々登場。過熱するオンジビジネスに厚労省から”待った”が出た

もの忘れ改善薬「オンジ」が登場

「もの忘れ」を改善する効果があるという市販薬をご存じだろうか。植物の根から作った「オンジ(遠志)」という薬効成分で、今年になって製薬メーカー各社から類似品が続々と登場している。

「キオグッド」「メモリーケア」「キノウケア」・・・

オンジを使った薬は今年3月以降に急激に増えた。ウェブ検索で確認できる最初のオンジ製品は、2017年3月8日に森下仁丹より通信販売で発売した「キオグッド顆粒」(※1)。4月22日には提携相手のロート製薬からも同名商品「キオグッド顆粒」が発売された。その後、メーカー各社から雨後の竹の子のように登場。10月までに発売したオンジを使った物忘れ改善薬を、ぼくが把握している範囲で列挙する(順不同)。

森下仁丹・ロート製薬「キオグッド顆粒」 1回1包 1日3回 顆粒

小林製薬「ワスノン」1回2錠 1日3回 錠剤

クラシエ「アレデル顆粒」/「オンジエキス顆粒」1回1包 1日3回 顆粒

大正製薬「メモリーケア」1回2錠 1日3回 錠剤

エーザイ「遠志の恵み」1回1錠 1日3回 錠剤

日本薬師堂「キノウケア」1回1包 1日3回 顆粒

シオノギ「オンジ顆粒」1回1包 1日3回 顆粒

【第3類医薬品】キオグッド顆粒 30包

【第3類医薬品】キオグッド顆粒 30包

 
【第3類医薬品】メモリーケア 90錠

【第3類医薬品】メモリーケア 90錠

 
【第3類医薬品】アレデル顆粒 42包

【第3類医薬品】アレデル顆粒 42包

 

「健忘」と「認知症」は区別しなくてはいけない

オンジ自体は以前から漢方薬の原料の一つとして使われていた(クラシエの「人参養栄湯」など)。2015年12月、厚労省が製造販売のルールを変更して、オンジ単体でももの忘れ改善薬として販売してよいと発表した(※2)。このため今年に入って「中年期以降の物忘れの改善」としてオンジ商品が大量に出回ることになった(2年間のブランクは制度的な都合と思われる)。

オンジは記憶力の低下、もの忘れを意味する「健忘(けんぼう)」に効果があるとされる。

注意したいのは、これは認知症に効くということではないことだ。加齢に伴う自然な健忘と、認知症によるもの忘れは別物で、両者は区別が難しいとされるが、厚労省では次のように説明をしている。わかりやすいので、オンジ製品を購入する前に自分か家族にチェックしてもらうことをお勧めする。

・もの忘れの為に日常生活に支障をきたしているか

日常生活で重要ではないこと(タレントの名前や昔読んだ本の題名など)を思い出せないのは正常の範囲内ですが、仕事の約束や毎日通っている道で迷うなどの場合は認知症のサインかもしれません。

・本人が忘れっぽくなったことを自覚しているか

自分でもの忘れの自覚がある場合は正常の範囲内ですが、もの忘れをしていることに気づかず、話の中でつじつまを合わせようとするようになるのは認知症のサインかもしれません。

・もの忘れの範囲は全体か

経験の一部を忘れるのは正常の範囲内ですが、経験全体を忘れるのは認知症のサインかもしれません。

www.mhlw.go.jp

「脳全体が活性化する」はアウトー

オンジは決して認知症の薬ではない。それなのに、なんだか脳に効くような広告が増えてきた。そもそも製品名が「キオグッド」や「メモリーケア」だから、消費者が誤解するのも無理はない。さすがにこれはまずいと思った厚労省は10月、オンジ商品の広告に関する注意事項を発表し(※3)、「脳全体が活性化する」などの広告表現を禁止した。

ガイダンス通知において、オンジの効能等として記載している「中年期以降の物 忘れの改善」は、従前より漢方製剤で用いられていた効能等について、最新の科学 的知見を補足したものです。ここでいう「中年期以降の物忘れ」とは、加齢による 正常な物忘れ(注1)のことであり、従前のオンジを含有する一般用医薬品として の漢方製剤で認められていた「健忘」の効能等と変わるものではありません。 したがって、認知症の予防又は治療に関する効能等は確認されていません。

 

(1)ガイダンス通知で示している科学的見地に基づかない作用機序、効能等の表 現、販売名を組み合わせた表現(注2)により、効能等が承認された範囲を超 えると暗示させることは、厳に慎むこと。 (注2)「脳機能の活性化」、「脳神経細胞の増加や再生」、「脳全体が活性化する」、「既に忘れてしまった記憶をよみがえらせる」といった効能等を誤解させるような表現及 び病人が服用する印象を与える表現。 (2)認知症の治療又は予防に用いる医薬品ではない旨の記載の付記又は標榜を必 ず行うこと。

 

オンジが発売された理由

医療専門サイトのニュース(※4)では、11月15日に厚労省の専門家会議での担当者から漏れた反省の弁も紹介された。

厚労省医薬・生活衛生局は、「率直に申し上げ、承認後に展開された広告も含めて考えると、製品名に便乗したような、効能等から逸脱した広告に製品名が使われてしまったことは、いかがなものかと思っている」(医薬品審査管理課)と答え、続いて宮本局長も、製品名を認めたことは反省材料であることを認め、その反省に立ち、今後の審査を行っていくとの方針を示した。 

ただ、オンジという商品そのものを否定したという話は出てきていない。

やや専門的なことになるが、オンジが単独でもの忘れの薬として発売されるようになったのは、先述の新ルールがあったからだ。この新ルールは厚労省の補助金による研究から出来た。その研究の一部を分担した袴塚高志さんという方が作成した資料によれば(※5)、ルール見直しの背景は平成14年の厚労省の部会の中間報告(※6)の、次の記述までさかのぼることができる(これが発端かどうかは取材しないとわからないが)。

2) 生薬製剤の評価(承認審査)について[資料15] (1) 国内で長期間医薬品として使用されてきた生薬  これら生薬は我が国では漢方処方に配合されたり、民間薬として用いられたりするなど、有力な医薬品素材として古くから伝承され今日に至っており、各時代を通じて少なからぬ役割を果たしてきた。現在のところ、「刻み」または「末」として承認されている約30種を除いては単味の医薬品としてほとんど承認されていないが、一般用医薬品の範囲拡大のためにも具備すべき特性を考慮した基準等を策定するなど、今後とも引き続き積極的に維持存続を図るよう検討が必要である。

時代に合わせてルールを見直すべきという動きの中でオンジが登場したということのようだ。それが思わぬ騒動に発展したのは、メーカーの広告手法に問題があったということだろうが、個人的には予想通りの展開という気持ちもなくはない。

肝心な話、オンジは効くの?効かないの?

肝心な話として、オンジは効くのか、効かないのか?

この商品が発売された時の薬剤師の感想は、どこも厳しいものだったように思う。このブログでもオンジ商品が各社から出るたびに紹介してきたが、ツイッター上での評判はあまり好ましいものではなかった。そんなの効くのか?誇大広告じゃないのか?という雰囲気があった。

ぼくの職場の薬剤師たちも「そんな薬が効くわけないだろ」というような表情で苦笑していた。

オンジの効果を示した2つの論文は不明瞭

オンジは効くのか。どうして「中年期以降の物忘れの改善」が効果として認められたのか。先述の厚労省の新ルールにあるオンジの欄には「参考文献等」という項目があり、5つの資料が表記されている。

・Neuroscience Letters, 454(2), 111-114 (2009). (RCT)

・Neuroscience Letters, 465(2), 157-159 (2009). (RCT)

・漢方と民間薬:西山英雄著、1977、創元社

・中国臨床のための常用漢薬ハンドブック:神戸中医

・学研究会編、1987、医歯薬出版

国が医薬品の効果を認める際は、科学的根拠が強く求められる。科学的根拠とは通常、学術論文を指す。書籍は2次情報や、意見やカンなどを集めたものなので、正式な科学的根拠を示した資料としては扱われない。

書籍以外の2つの参考文献は論文化されたデータで「RCT」と書かれている。RCTとは「ランダム化比較試験Randomized Controlled Trial)のことで、信頼性が高い(質が高いともいいます)研究とされている。2報の内容は次の通りだ。

論文①「高齢者28人にオンジを投与したところ、記憶の改善が見られた」

これだけ見ると、効きそうに聞こえるけど、そういう話にはならない。ウェブで無料で読める範囲では、どういう人たちに、どれだけ投与して、どの程度記憶の改善が見られたのかがわからない。通常はこうした情報は無料公開部分に書かれているものなので、これはかなり不親切な開示方法といえるし、あえて見せないようにしているのではないかと勘繰ってしまう。詳細なデータを見るにはお金がかかる。

www.ncbi.nlm.nih.gov

論文②「健康成人に対して1日3回、1か月間投与すると、記憶の改善が見られた」

これもウェブで無料で読める範囲では、どのオンジを程度摂取したのか、何人がどれほど改善したのかが全くわからない。極端な話、いま市販されているオンジの5倍量を1か月飲んだら、わずかに記憶の改善が見られた(ような気がする)・・・という内容かもしれない。詳細なデータを見るにはお金がかかる。

www.ncbi.nlm.nih.gov

オンジの効果を知りたい人は薬剤師に相談を

正直にいえば、仮にお金を払って上記の論文の詳細を見たところで、ぼくでは是非の判断がつかないだろう。記憶改善の根拠となる指標が適切かなど、認知症や記憶分野にある程度知識がある薬剤師でなければ、的確な評価はしにくいように思う(ぜひ、どなたかお願いします)。また、この2つの論文は著者名を見ればわかるとおり、ほぼ同一人物たちによる論文だ。薬の効果というのは、ただ一つの実験でわかるというものではなく、複数の研究者たちによる複数の結果が集まって、ようやく効果の全体像がぼんやりと見えてくるものだ。だから、この2論文から言えることはかなり限定的だと考えられる。

逆説的に「効かないという証拠もないだろう」と考える人もいるだろう。それは当然の疑問である。しかし、オンジに手を出す以外に、もっとよい解決方法があるかもしれない。

いまのところ、認知症に効く薬としては認められていない。興味がある人は、近所の、あるいはかかりつけの薬剤師に一言相談してほしい。彼らの意見を聞いてから購入するのも、そう遅くはないだろうと思うから。

 

参考情報

※1 森下仁丹のリリースでは「「キオグッド®顆粒」はロート製薬株式会社様とのコラボレーションにより実現した商品です。ロート製薬株式会社様 からは、漢方薬・生薬ブランド「和漢箋」より中年期以降の物忘れを改善する「キオグッド®顆粒」10日分/30包入り 1,800円(税抜)を2017年4月22日(土)より全国の薬局・薬店にて発売します。」とあり( https://www.jintan.co.jp/file/newspdf000222.pdf)、その後ロート製薬は「日本初」としてキオグッドの発売をリリースした。http://jp.rohto.com/news/products/2017/0417_01/

※2https://www.pmda.go.jp/files/000209984.pdf

※3http://wwwhourei.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T171106I0020.pdf

※4オンジ製剤の製品名、厚労省「メーカー戦略予測できず、反省材料」|医療維新 - m3.comの医療コラム

※5http://www.nihs.go.jp/kanren/iyaku/20141112-dpp.pdf

※6一般用医薬品承認審査合理化等検討会の中間報告書