風邪薬の説明は「ミラノ風ドリア」ではない

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サイゼリア創業者の「おいしさ」がおもしろい

唐突で申し訳ないのだけど、ぼくはサイゼリアの料理が好きでない。味はまずくはないけど、おいしいとも思わないから。看板メニューの「ミラノ風ドリア」はそこそこの味で、しかも安い(税込299円)。人気である。しかし、本場ミラノにドリアが存在しないことを皆さんご存じだろうか?ドリアは日本発祥の料理である(※)。もしミラノの日本人旅行者が現地で”本場ミラノのドリア”を探し始めたらと思うと気が気でない。しかし、そんなことはともかく、ぼくはミラノ風ドリアも好きではない。

そんなわけで、ぼくはサイゼリアを滅多に利用しない。だが、サイゼリア創業者の正垣泰彦さんの経営哲学は傾聴に値すると思った。正垣さんの著書『おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』は、おいしさとはなにかについて経営者目線で書かれているのだけど、これがなかなかマッチョかつ現実的で魅力的な記述が多い。正垣流のポイントをピックアップして5つ紹介したい。

おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ

おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ

 

①おいしさは数値化できる

「おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ」というマッチョな本のタイトル通り、おいしさという抽象的なものを数値化して捉えるのがすがすがしい。おいしい料理とは売れる料理。おいしい=客数。

目の前の現実を謙虚に受け入れて、本当にお客様が満足されることは何かを見極めようという私の思いを込めている

自分の料理をうまいと思ってはいけない。店の料理がうまいと思ってしまったら、売れないのはお客が悪い、景気が悪いと考えるしかなくなってしまう。商売とはお客に喜ばれるという形で社会に貢献し続けることなのに、そう考えてしまったらもう改善が勧められなくなってしまう、と正垣さんは考えている。

②おいしさを感じるのは品質と用途が合う時

料理のおいしさを決める要素には、味や素材がまっさきに浮かぶが、そう単純なものではないというのが正垣さんの主張。

お客様がその店の料理をおいしいと感じて、また店に来てくれるかどうかは、料理の品質と店の用途が合っているかどうかで決まる。用途に合っている料理を食べたときにお客様は「おいしい」と感じ、合っていないときに「まずい」と感じているのだ。そう考えると、「味付けが濃厚でコクはあるけど、味にキレがない」などと、ライバル店の料理を批評したところで、あまり意味がないことが分かる。つまり、味だけを論じることには何の意味もない。

たとえば、年に1度くらいの頻度で利用されるレストランは、料理人が凝った濃いめの味付けになる。一方、サイゼリアは毎日でも食べられる日常食を提供する店だから余計な味付けは不要となる。お客の期待に合わせるというのが大切ということ。

③おいしさは客観評価できる

料理がおいしいとか、深みがあるとか、そうした抽象的な「おいしさ」を点数化できないものだろうか?と思って正垣さんはスコアを作った。

「ルック(見た目)」「アロマ(食前の香り)」「テイスト(味)」「フレーバー(食後の香り)」「プライス(価格)」という5つの要素に分けて料理や食材を点数化するという評価手法だ。おいしさの評価に「プライス」が入っているのは、料理にお値打ち感がなければ、お客はその料理をおいしいとは思わないはずだからだ。

各要素は1~4点を付けて20点満点で評価される。正垣さんがこの指標でずっとやっていて気づいたことには、差がつくのは「アロマ」と「フレーバー」だという。サイゼリアの看板メニューのミラノ風ドリアは、お客が気づかないような微細なレベルの味と香り改良を1000回以上重ねているというから驚きである。

④食べたいものを食べたいだけ食べるのは幸せ

日本では定食に代表されるように、店側の都合で料理を選びセットで提供されることが当たり前だが、イタリアでは前菜、メイン料理、食後酒まで好きなものを選べるらしい。

私はこの自由に選べるという「幸せ」をサイゼリアでも実現したいと考えた。安心して料理を選ぶには、値段を見ないで注文できる状態を作らなければならない。例えば、「プリモ・ピアット」のスパゲティが1200円もしたら、ほかの料理を頼む気にはなれない。つまり、1品あたりの価格が安くなければならない。値付けの参考になるのは、その国で最も売れている消耗品の価格だ。使い捨てする商品に払っても惜しくはない金額なら、食べてしまえば無くなる料理にも抵抗なく払える。

⑤ヒットメニュー誕生には原則がある

流行の料理ばかり追うのは間違っている、というのが正垣さんの考えだ。ヒットメニューとは自店の強みを磨くことで作るものだから。

私たちサイゼリアも含め、一つの業態を長く続けたいと思う店がヒットメニューを作るには、次の二つの事柄を究めることが必要だ。すなわち①「お値打ちで料理に合ったおいしい素材の開発」と②「より料理をおいしくする加工方法の開発」だ。当たり前に聞こえるかもしれないが、どこでもお値打ちでおいしい料理を提供できるなら、その店の料理は必ず売れて、ヒットメニューになる。

ドラッグストアに当てはめると?

これらのポイントはドラッグストアにも当てはめられそうだと思い、試しに「料理」を「サービス」に置き換えて自己解釈で書き直してみた。ちなみに、ここでの「サービス」とはいわゆる接客サービスに限らず、商品の価格などを含めた店が消費者に提供するもの全般という意味で使っている。

① サービスが良いから客が来るのではない。客が来るのが良いサービスだ

 

② お客がその店のサービスがよいと感じてまた来るかどうかは、サービスの質と店の用途が合っているかによる。ドラッグストアに求めるのは百貨店に求めるコンシェルジュ的な便利さではなく、低価格で毎日気兼ねなく利用できることである

 

③ サービスの良し悪しを客観評価してみる。「見た目」「雰囲気」「商品の品質」「購入直後の満足感(「楽しい買い物だったな」という幸福感)」「価格」

 

④ 買いたいものを買いたいだけ買える幸せを実現させるために商品の価格は抑えめ

 

⑤ ヒットサービスを生む2大原則。「お値打ちでサービスに合った良い人材の開発」と「よりサービスを向上させる人材教育の開発」

 

どうだろうか。①は抵抗を感じる人も多そうだが、それも含めて色々考えるきっかけにはなる気がする。ぜひ皆さんのいる業界にも当てはめてみてほしい。

ドラッグストアの「ミラノ風ドリア」って何だろう?

ところで、薬剤師の立場で言わせてもらうと②「お客がその店のサービスがよいと感じてまた来るかどうかは、サービスの質と店の用途が合っているかによる」は身につまされる。いま薬剤師業界では、ドラッグストアや薬局を地域の身近な健康相談所にしようという動きが活発になっている。でも、これはたぶん、それなりの高齢者だけが対象だろう。

感覚で言えば60歳以下の一般消費者の健康相談の相手は基本的に「インターネット検索」だ。ネット情報で大半が事足りている(少なくとも彼らのニーズは満たされている)。ネットは誤った医療情報が多いから、薬剤師が正しい医療情報を対面で提供するのが大切という意見もあるだろうが、それなら薬剤師がネットで正しい(と自分が思っている)医療情報を発信すればいい。わざわざ店頭で相談窓口という仕事を設ける必要はない。

現在のドラッグストアの”ミラノ風ドリア(強み、大ヒット商品)”は、低価格の商品、品ぞろえなどだ。風邪薬を選んでいるお客に薬剤師がお薬の説明をするという仕事(サービス)は、ミラノ風ドリアにはなりえない。ただ、ネット上では正確な情報提供というニーズが結構ある。これは、ぼくがこのブログを続けている理由でもある。

サイゼリアは今日も大繁盛!

まあ、そもそも、いまのドラッグストアの薬剤師の市販薬の接客は、ミラノ風ドリアみたいに1000回以上も改良を重ねてませんよね。個人の惰性や、メーカーや会社の本部から言われたままの営業トークをなぞっただけのものが多いような印象を受ける。

なんだか悲観的なことを書いてしまった。さて、この記事はサイゼリアで書いているのだけど、17時を過ぎて次から次へとお客が来てあっという間にほぼ満席である。申し訳ないからそろそろミラノ風ドリアを食べて失礼することにします。サイゼリアは繁盛しているなあ。すごい。いただきまーす。

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うん、予想通り、そこそこの味。

 

参考情報

【みんな知ってるあたり前知識】サイゼリヤの『ミラノ風ドリア』はミラノには無い料理 / そもそもドリアは日本発祥 | ロケットニュース24