『家庭の薬学』

自分に合った市販薬を選びませんか?

ナイシトール、ユクリズムなどに追記された重篤副作用「腸間膜静脈硬化症」とはどんな病気か

2月に漢方薬の副作用が追加されました。サンシシという成分を含む漢方薬を長期に服用すると、非常に稀ではありますが「腸間膜静脈硬化症」という重い副作用が表れることがあるというものです。

対象となる市販の漢方薬はサンシシを含む飲み薬全部。温清飲、加味帰脾湯、荊芥連翹湯、五淋散、清上防風湯、清肺湯、防風通聖散などたくさんあります。製品名では、ナイシトール(防風通聖散)、ユクリズム(加味帰脾湯)などです。黄連解毒湯、チクナイン(辛夷清肺湯)、ダスモック(清肺湯)にもサンシシは含まれますが、こちらは5年前に追記されています(※1)。

 

 すでに副作用としての記載があった製品も含めてサンシシを含む飲み薬は、すべて長期使用する際は医師、薬剤師または登録販売者に相談することが製品の説明書(添付文書)に記載されることになりました。また、長期服用により腹痛、下痢、便秘、腹部膨満(お腹が張る感じ)などが繰り返し現れる場合はすぐに医師にかからなければなりません(※2)。

 

ところで、ここでの「長期服用」とは具体的にどれくらいの期間を指すのでしょうか?また、そもそも腸間膜静脈硬化症とはどんな病気なのでしょうか?

まず長期服用についてですが、これは医療用の漢方薬には目安が書かれています。それによると「5年以上」。5年以上飲み続けることは長期服用に当たると考えてよいでしょう。もっとも5年未満なら心配ないということではありません。サンシシの服用期間が5年未満でも腸間膜静脈硬化症になった人はいます(※3)。5年はあくまで目安です。

サンシシが引き起こす腸間膜静脈硬化症はどんな病気でしょうか。腸間膜の説明は複数ありますが、ひとつには小腸を包み支えている薄い膜を指します。ここは

内臓脂肪が溜まる場所でもあり、それゆえ動脈硬化の進行や生活習慣病に深くかかわっているとされます(※4)。この腸間膜にサンシシ由来の成分が悪さをして、腸間膜にある静脈が硬くなり(石灰化)、血液の流れを悪くします。

厚労省の助成金による実態調査によると(※3)、腸間膜静脈硬化症の最も多い症状は腹痛で約45%の人が経験しています。特に右側が痛むのが特徴です。その他にも便に血がまじったり、下痢などの症状が表れることもある一方で、症状がなかった人も2割いるので要注意です。重症化して腸閉塞(イレウス)を起こした人もいます。

直近3年間の大規模な国内調査では死亡例はありません(※5)。いくつかの症例報告によると、サンシシ含有漢方薬を飲むのを止めれば自然と治るようです。副作用が悪化する前に早めに気付くことがポイントです。

サンシシによる腸間膜静脈硬化症は、病院で長期的に処方される漢方薬の副作用として注目を集めました。5年も飲み続けるというのは市販薬では滅多にないでしょう。が、商品によってはなくもないという印象です。

症状の一つに下痢があります。ナイシトール(防風通聖散)はもともとお通じを良くする効果があるので、人によっては下痢になると思いますが、それが腸間膜静脈硬化症の可能性は極めて低いでしょう。病院にかかっていれば、定期的に腸の状態を確認することもできます。とにかく何年間も、自己判断で飲むのは危ないということです。

気になる人は是非、ドラッグストアの薬剤師にご相談ください。漢方薬だからといって安全とは限りませんし、重篤な副作用が追加されたからといって危ない薬だというわけではないことを最後に記しておきたいと思います。 

参考情報

※1薬食安発0806 第1号 平成25年8月6日

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/0000064818.pdf

※2薬生安発0213 第1号平成30年2月13日

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/0000194066.pdf

※3漢方薬による腸間膜静脈硬化症 http://www.nikkankyo.org/seihin/pdf/m_phlebosclerosis.pdf

※4 厚労省サイトe-ヘルスネットより

https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/metabolic/ym-046.html

※5 http://www.pmda.go.jp/files/000222706.pdf