ドラッグストアとジャーナリズム

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ドラッグストアの店員が「花粉を水に変えるマスク」を売るのをやめた、たった一つの理由

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結構売ってましたけど、もうやめます

「花粉を水に変えるマスク」を売るのをやめました。店頭には在庫がありますけれど、お客に説明することはもうやめました。私は実際に使ってみて、割とよくできたマスクだという感想を持っていたので残念、無念です。

今回は話題沸騰、いやSNSでプチ炎上した「花粉を水に変えるマスク」の使用感と、私が売るのをやめた理由を書きたいと思います。

ハイドロ銀チタンがタンパク質を分解するマスク

「そもそも花粉を水に変えるマスクってなに?」という人もいるかもしれないので説明しますと、これは今年、市川海老蔵さん出演のテレビCMで有名になった花粉症対策のマスクです。花粉を水に変える・・・聞き慣れない斬新なネーミングです。

どうやって花粉が水に変わるのでしょうか。メーカーの説明によると、このマスクの中には、銀や酸化チタンからなる「ハイドロ銀チタン」という素材が入っており、これが花粉内のたんぱく質を分解して水などに変えるそうです。私はハイドロ銀チタンという素材名は初耳でしたが、酸化チタンは光触媒反応でタンパク質を分解してくれることで知られる物質です。ハイドロ銀チタンに分解作用があってもなんら不自然ではありません(触媒反応に必要な光量はさておき)。

濃度の違いで3つのタイプ

花粉を水に変えるマスクには、ハイドロ銀チタンの濃度によって3種類のランクが用意されています。2017年版も合わせると4種類ですが、これはすでに製造中止なのでムシします。

一番濃度が薄いのは「+4」ランクの「花粉を水に変えるマスク」。

次に濃いのが「+6」ランクの「花粉を水に変えるマスク」。

そして最も濃いのが「+10」ランクで名前も少し変わって「花粉・ハウスダストを水に変えるマスク」です。

値段はランクに応じて1000円、2000円、4000円となっています。4000!!驚くべき高額商品です。

花粉・ハウスダストを水に変えるマスク くもり止め ふつう

花粉・ハウスダストを水に変えるマスク くもり止め ふつう

 

1枚のマスクで最大1週間使える!

しかし、ここはほとんどのお客に誤解があります。たとえば最高級の4000円のマスクは一箱4枚入りなので、1枚当たりでは1000円。そのうえ、ハイドロ銀チタンが臭いなどを分解してくれるので、水洗い不要で最大1週間使用可能。つまり、1箱4000円で最大1か月使えるというわけです。最近は3枚入り400円位の高品質マスクがフツーに売れるご時世です。私が店頭で「最大1か月で4000円なんですよ」と説明すると「ああ、それだと特別値段が高いわけじゃないですね」と反応するお客がほとんどでした。

最高級のマスクを使ってみました!

さて、百聞は一見にしかず。1枚1000円の「花粉・ハウスダストを水に変えるマスク」を私も使ってみました。緊張で震える手で金色に輝く箱を開き、1枚1000円のマスクのご尊顔を拝します。

外見はこんな感じでした!ジャーン!!

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間違えました。こちらです。

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裏面はこちら。水色です。

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着装してみると・・・

・けっこうゴワつく。大きい。鼻からアゴまですっぽり包まれるので遮蔽効果は高そう

・ゴワつくし大きいので、鏡を見ると”大きいマスクしているな”という感じ

・曇り止め効果は可もなく不可もなし

・耳のフィット感も悪くない

・息苦しさはない

 

しばらく使ってみると・・・

・花粉防御の性能はよくわかりません(花粉症薬で症状を抑えているため)

・臭いがつかない

・汚さないように、無くさないように気を遣う

・職場に忘れると大変

ちなみに私が普段使っているのは、60枚入り500円くらいの花粉を水に変えないマスク(ふつうのマスク)なので、あくまでそれと比べてということになります。

臭いがつかない!でも汚れはつく!

着用してまずびっくりしたのが、マスクに臭いがつかなかったことです。これは感動しました。酸化チタンには消臭効果があることは一般的によく知られており、空気清浄器などに使われています。ですが、このようにはっきり、わかりやすく実感できるとは全く想像していませんでした。

しかも、このマスクはしっかりアゴまでカバーさせると、自然と横の隙間もかなりなくなる設計になっています。一般にマスク選びのポイントに「横の隙間から花粉が侵入してしまうマスクは効果が薄い」といわれます。その点を割と配慮しているように思います。

一方、同じマスクを1週間使い続けるというのは、慣れないうちは気を遣います。私は初日に昼飯をとっているときに、中華の汁が飛んでマスクの表面に小さなシミを作ってしまいました。ムギャーって、心の中で叫んでしまいましたね。

オモシロマスクとしてお客に売りましたが・・・

使った感想として、このマスク、悪くない商品だと思いました。

そもそもですが、これ4層構造のマスクなんです。外から不織布、フィルター、ハイドロ銀チタン、不織布の順で口まで花粉が侵入しないようにしています。不織布だけでなく、ガーゼなどで多重構造にすることで花粉の侵入率は大幅に減るとされていますから(※)、物理的な防御効果は高いといえそうです。正直、このマスクの効果があったとしても、それがハイドロ銀チタンのお蔭か、4層構造のお蔭か、わからくなっちゃうんじゃないかと心配になるレベルです。

残念ながらハイドロ銀チタンがそもそも花粉予防に効果があるのかということに関しては、科学的な裏づけは乏しいと言えるでしょう。詳細は他の方々がブログで書いてますので省略しますが、私は売り場ではお客に「こんなオモシロ商品がでましたよ」というかんじで紹介してました。マスクとしての効果はどうなんですか?と聞かれたときは「正直、よくわかりません。科学的には期待しないほうがいいですよ」と答えてました。1枚1000円というインパクトもあり、お客もおもしろがって写メをとったり、購入したり、もちろん購入しない人もいますけどね、それでいいんだと思ってました。

まさかの訴訟へ!?そして失望

ところが。先日こんな記事がツイッターで流れてきました。

samakita.hatenablog.com

花粉を水に変えるマスクをブログで批判した医師の元に、このマスクの開発者である信州大学医学部の教授から集団訴訟をちらつかせる抗議のメールがきたというのです。驚愕の展開です。

五本木クリニック院長桑満おさむさんから、ハイドロ銀チタンのマスクを「研究中と称する信州大学の医学部の教授に「ブログを削除しろ、じゃないと次のステージに行くよ」とメッセージが来ています。」と連絡があった。

「花粉を水に変えるマスク」根拠論文を批判したら医学部教授から集団訴訟と脅された「騒動」 - 左巻健男&理科の探検’s blog

この桑満おさむさんのブログは元々読んでいたので、あの内容で集団訴訟で脅されるかのかと目を疑いました。今はブログから削除されていますが、たしか最初は「インチキ」という言葉があったように記憶しています。これは言い過ぎだとは思いましたが、記事全体では一定の配慮はされてました。科学的な問題提起であり風説の流布ではありませんでした。

この内容を書いた一個人に対して、製品の協賛企業数十社が集団訴訟を起こすなんてことは社会通念上ありえません。裁判でも勝てないでしょう。企業の資本力にモノをいわせた「スラップ訴訟」と見られてもおかしくありません。

訴訟はなし。でも、今年はこのマスクは売りません

さて、その後どうなったか。顛末は「山形大学理学部物質生命化学科 天羽研究室」の「花粉を水に変えるマスクに飛びついてはいけない【追記変更あり】 — Y.Amo(apj) Lab」に詳しく書かれています。

・信州大学医学部教授から桑満医師へ、桑満医師の五本木クリニックへの集団訴訟が進行中とメールを送ったことは事実

・その後、教授は「訴訟の件は時期尚早だったと反省」で、桑満医師へも謝罪

・結局、集団訴訟は起こらない模様

今回の訴訟騒動については一件落着のようです。でも、私は今年は「花粉を水に変えるマスク」を売るのはもうやめました。消費者による不買運動というのがあります。自ら売らないことは、今回の騒動に対する私なりの意思表示です。

 

参考情報

※環境省「花粉症環境保健マニュアル-2014年1月改訂版」

http://www.env.go.jp/chemi/anzen/kafun/manual/3_chpt3-1.pdf