ドラッグストアとジャーナリズム

自分に合った市販薬を選びませんか?

薬の説明書が不親切なまま放置されている

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「添付文書(てんぷぶんしょ)」という言葉をご存知でしょうか。薬を買うとついてくる、飲み方や成分が書かれた紙のことです。この薬の説明書を添付文書といいます。

国の調査によると、添付文書をほとんど読まない人は購入者のわずか1割だそうです(※1)。熟読するのか、さらっと読むのか、程度の差こそあれ、9割の人が添付文書に目を通しているようです。

そのような添付文書ですが、ちゃんと読むのはけっこう難しいもの。薬剤師としての立場から言わせていただくと、健康に直結するわりにはずいぶん不親切だなと思う代物です。  

読んだだけではわからない添付文書①授乳中の服用

具体例を紹介します。

胃腸薬としておなじみのキャベジン。たかが胃腸薬だと意外に思われるかもしれませんが、授乳中はこの薬を飲んではいけないことになっています。添付文書から引きます。

してはいけないこと

(守らないと現在の症状が悪化したり、副作用が起こりやすくなります)

②授乳中の人は本剤を服用しないか、本剤を服用する場合は授乳を避けてください

(母乳に移行して乳児の脈が速くなることがあります。)

キャベジンを飲むと母乳に移行して乳児の脈が速くなるという理由も丁寧に書かれています。授乳中は服用を避けた方がいいことが腑に落ちやすいでしょう。

では、他の薬はどうでしょうか。頭痛・生理痛の薬、イブの添付文書を見ます。

【指定第2類医薬品】イブA錠 60錠 ※セルフメディケーション税制対象商品

【指定第2類医薬品】イブA錠 60錠 ※セルフメディケーション税制対象商品

 

相談すること

次の人は服用前に医師、歯科医師、薬剤師又は登録販売者に相談してください

(3)授乳中の人。

授乳中の人はイブを飲む時は医師や薬剤師たちに相談することになっています。キャベジンと比べると簡潔な記載です。表現も「してはいけないこと」ではなく「相談すること」となっています。

実際に薬剤師に相談すると、どんな回答が返ってくるのでしょうか。飲む人の状態や、相談を受けた薬剤師によって回答は異なるので一概にはいえませんが、「万が一母乳に移行しても極めて微量なので、健康上の影響はほぼないと考えられています」「心配なら時間をずらして飲むのがよろしいと思います」と説明する薬剤師が多いと思われます。あとは飲む人の納得感と判断に任されます(※2)。

キャベジンもイブも母乳に移行するという点では同じです。ただ、それが赤ちゃんに与える影響は一言では表せません。添付文書を読んでも詳しいことが書いてあるとは限らないのです。 

読んだだけではわからない添付文書②アレルギーへの注意

 もう一例紹介します。今年発売した「ベリチーム」という消化酵素のお薬です。添付文書にはこうあります。

【第3類医薬品】ベリチーム酵素 27包

【第3類医薬品】ベリチーム酵素 27包

 

相談すること

次の人は服用前に医師、薬剤師または登録販売者にご相談ください

(2)薬などによりアレルギー症状をおこしたことがある人

ベリチームは酵素なので比較的安心して使える薬です。「相談すること」の欄にアレルギーの注意喚起が書かれていますが、これは大抵の薬に書かれている決まり文句です。全体としてみると、他の薬と比べると副作用のリスクがかなり低いといえます。

ところが、ベリチームには気をつけるべき意外なアレルギーがあります。ブタ・ウシのたんぱく質アレルギーです。ベリチームに含まれるパンクレアチンという酵素はブタの膵臓から作っています。そのため、ブタ・ウシのたんぱく質アレルギーの人がベリチームを飲むと、くしゃみ、涙が出る、肌が赤くなるといった症状が現れる可能性があるのです。

市販薬と同じ成分でできている医療用のベリチームの添付文書には、ウシ・ブタのたんぱく質に過敏症がある人は絶対に飲んではいけない(禁忌)ことが書かれています。

医療用の添付文書にははっきりと書かれていることが、ベリチームの市販薬の方には薬剤師か登録販売者に相談してくださいという表現で済まされているわけです(これは他の薬剤師さんが調べてくれました※3)。

市販薬の説明書は、こんなふうに案外ザックリとしか書かれていないものなのです。

それでも読んだほうがいい添付文書

購入者の1割は添付文書をほとんど読まないらしい、ということを冒頭で紹介しました。その理由は、私の想像になりますが、飲む時に最低限知りたい重要な情報(1回何錠、1日何回飲むかなど)が外箱に書いてあるからだと思います。添付文書を読まなくても、外箱を読めばだいたいは事足りるのです。

ただ、添付文書を読む必要がないかといえば、そうではありません。

せき止めを例に見ます。アネトン液という咳止めがあります。添付文書の注意書きにはこう書かれています。

してはいけないこと【守らないと現在の症状が悪化したり,副作用・事故が起こりやすくなります】

2.本剤を服用している間は,次のいずれの医薬品も使用しないでください

他の鎮咳去痰薬,かぜ薬,鎮静薬,抗ヒスタミン剤を含有する内服薬等(鼻炎用内服薬,乗物酔い薬,アレルギー用薬等)

アネトンを飲んでいる間は、他の咳止めは飲んではいけません。これはアネトンに限ったことではなく、ほとんどすべての市販薬は類似薬を一緒に飲んではいけないと書かれています。

でも、この文言は外箱には書いてません。購入して、箱を開けて、説明書を読んで、初めて他の咳止めと一緒に飲んではいけないことがわかります。

外箱に書いてある文章は、添付文書のあくまで一部。外箱を読めば添付文書を読む必要はないとはいえません。

一読して気になる箇所は薬剤師に相談を

どうでしょうか。市販薬の添付文書は、薬のことを知らない一般消費者向けに書かれた薬の説明書ですが、意外とややこしく作られています。

もっとも、これは市販薬の添付文書に限ったものではありません。病院で処方される薬の添付文書も、医療従事者からは度々批判の的になっており(ですから、一般の人が医療用の添付文書を読むのは結構なのですが、それを情報として正確に読み解くのはかなり難しい行為だと思います)、医療用の添付文書の中身は改善の動きが進んでいます。

ですが、残念ながら、市販薬の添付文書に関しては「もっと消費者がわかりやすい表記にしよう」「もっとリスクの程度が分かるようにしよう」といった議論を、私は寡聞にして知りません。あったとしてもまったく盛り上がってないでしょう。

いまできることは、まず、箱の中の添付文書を一読する。そして、自分の健康状態にあてはまる記述があるなら薬剤師に相談する。気軽にどうぞ。そのための専門家ですから。まずはここから始めてはいかがでしょうか? 

 

 

参考情報 

※1厚生労働省:消費者アンケート調査の結果

※2乳児へのイブプロフェン投与はこちらのブログに詳しい(

乳児期にイブプロフェンは危険なのか? | 小児アレルギー科医の備忘録

)。論文はhttps://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28516288

イブプロフェンの母乳移行による乳児への副作用は私は見たことがない。なお、ブロモバレリル尿素については添付文書に授乳中の注意記載はない。カフェインは通常量であれば問題ないと一般には考えられている。キャベジンはロートエキスによる頻脈と考えられる。

※3SNSで購入のあるやくざいしのむむさんが調べてくれました。ベリチーム酵素の添付文書の怪 - むむろぐセカンド