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善光寺門前町の秘薬!?『雲切目薬』と秘密の石

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長野県善光寺に行くなら必見!400年続く伝承目薬

善光寺に行ったら、今まで見たことのない、かわいい目薬に出会いました。

『雲切目薬(くもきりめぐすり)』といいます。

種子島に鉄砲が伝来した(1543年)ころからこの地に伝わる妙薬で、善光寺のそばに店を構える『笠原十兵衛薬局』が400年以上前から販売している代物です。

その成分こそ昔とは異なりますが、いまも善光寺を観光する際の名物目薬として入手できます。薬局に立ち寄ると、第18代店主の女性(管理薬剤師)が薬局内に展示されている雲切目薬の歴史資料を丁寧に案内してくれました。

今回は、お薬好き必見の観光スポット『笠原十兵衛薬局』と『雲切目薬』を紹介します。

雲切目薬とは?

初代の雲切目薬は室町時代(1543年)から昭和57年まで約440年販売されてきた笠原家の家伝薬です。笠原家の伝によれば、その製造方法はポルトガル人から伝授され、軟膏状態の薬を水に溶かして目に用いていたとされています。当時は戦国の世。戦の傷に塗る薬としても使われていたのではないかともいわれます。

雲切目薬は眼病によく良く効くと評判で、善光寺参拝者に親しまれてきました。一滴垂らすと目を開けられないほどの強烈な刺激。目を開けば一転スッキリ爽快。そんな目薬だったそうです。

雲切目薬の成分は?

雲切目薬はもともと軟膏を水に溶かして目薬として使っていました。薬局にはいくつかの時代に作られた雲切目薬が残っていて、そのなかには軟膏状態の品もあります。成分の表記は

硫酸亜鉛、沈降炭酸カルシウム、タルク、酸化亜鉛、精製樟脳、黄柏末、ヨクイニン、石膏、蜂蜜、唐墨適量

成分の量は書かれていません。なぜか墨汁が使われています。

これより新しい時代に作られた雲切目薬は、現代と同じように目薬の形をしています。成分表記は、

日局硫酸亜鉛0.03g、日局ハチミツ1.92g、日局ヨクイニン0.0076g、日局オウバク0.0153g、日局タルク0.375g、日局ホモスルファミン0.01g、日局カンフル0.375g、日局酸化亜鉛0.75g、日局沈降炭酸カルシウム0.375g、日局セッコウ0.187g <すべて10ml中>

ヨクイニン、タルク、沈降炭酸カルシウム、セッコウは、現代の目薬と比べると非常に独特な使い方です(各成分の頭についている「日局」は、国が定めた規格「日本局方」の略です)。一言でいえば「目の炎症を抑える薬」でしょう。

『顧客は地元はもちろん、新潟、会津にも多く、又、最も多いのが岐阜県です。 この信州の地はトンネルが多いので、蒸気機関車の排煙や粉塵でよく目がやられる。 新潟など米所では稲穂による突き目が多かったなどで善光寺への参拝客がよく土産に買って帰りました』

というのが笠原家の話です(※1)。目薬だけではなく塗り薬としても使われ、「雲切痔退膏」という痔の薬もあったようです。

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女性たちに託された秘密の石

笠原十兵衛の称号は代々受け継がれてきましたが、薬の製法は女性だけに秘伝として託されてきたそうです。笠原家にはその秘伝の原料とされる石が残っています。 

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さて、近年、笠原家がこの謎の原料を成分分析したところ、意外な事実が浮かび上がりました。じつはこの白い物質が水銀を含んでいたのです。かつて善光寺の周辺には遊郭があり、梅毒なども流行したとされます。水銀はかつては梅毒にも使われていましたので、雲切目薬が普及した理由も、ひょっとしたらそこにあるのではないか・・・というのが店主の話です。

ただ、水銀が主成分といわけではないでしょう。では、この石の正体は?

かつて日本の目薬に使われていた原料に「炉甘石(ろかんせき)」 という白い石があります。炉甘石は炎症を鎮める効果を持つ亜鉛鉱物です。中国の薬学の古典『本草綱目』にも収載されている薬の成分で、いまの日本の漢方では使われることはあまりないと思いますが、中国の医学(中医学)では目薬に使う成分として認識されています。実際、『炉甘石』で検索すると中国のページばかりがでてきます。

日本では江戸時代にこの炉甘石を主薬とした「井上目洗薬」が大ヒットし、平賀源内や坂本竜馬も使ったという逸話が残っています(※2)。

かつての雲切目薬に使われていた謎の材料も、もしかしたら炉甘石なのかもしれません。今回、わたしはそこまで確認ができませんでした。笠原十兵衛薬局を訪れる方がいたら、ぜひ店主におたずねいただきたいと思います。

雲切目薬と善光寺とお坊さん

この目薬にはもうひとつ興味深い資料があります。笠原家に残る一枚のモノクロ写真。『善光寺霊薬 雲切目薬施薬』と書かれたのぼりを仏僧たちが掲げる、ふしぎな写真です。

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店主の説明によれば、この写真はおそらく明治から大正にかけて撮影されたもので、当時、教えを広めるために全国を回っていたお坊さんたちが、お布施をしてくださった人に、雲切目薬を渡していたそうです。目薬が仏教の布教に一役買っていたという事実。ちなみに、先代の第17代笠原十兵衛は善光寺信徒総代を務めています。

現代の雲切目薬の成分は?

長年続いた雲切目薬は、1982年に薬の法律が変わったことで製造中止となります。しかし、復活を望む声が多かったことから、いまの店主の母親(薬剤師)によって1998年長野オリンピック開催の年に復活。昔のように家業で薬剤を製造することは困難な時代なので、目薬を製造する佐賀製薬に委託しています。

いま入手できる『雲切目薬α』の成分(100ml中)は、

ベルベリン硫酸水和物 10㎎・・・抗炎症成分

グリチルリチン酸カリウム 150㎎・・・抗炎症成分

クロルフェニラミンマレイン酸塩 30㎎・・・かゆみを抑える成分

ピリドキシン塩酸塩 50㎎・・・ビタミンB6

コンドロイチン硫酸エステルナトリウム250㎎・・・角膜保護成分

炎症を抑えるベルベリンを使っているのが特徴で、昔の雲切目薬で使われていた生薬「黄柏」の成分です。

市販の目薬の中で雲切目薬に成分が似ているのは「ロート 新緑水b」です。ベルベリンを使っており、その他の抗炎症成分にグリチルリチンではなくアズレンスルホン酸を使っています。

【第3類医薬品】ロート 新緑水b 13mL

【第3類医薬品】ロート 新緑水b 13mL

 

雲切目薬は善光寺近隣のチェーンドラッグストア(近くのウエルシア、長野駅前のマツキヨ)では扱っていませんでした。善光寺周辺の個人薬局・薬店でのみ入手可能かもしれません。わたしは笠原十兵衛で1200円で購入しました。

先祖代々の薬を今に伝える穴場スポット

かつての笠原十兵衛薬局には、全国から人が押し寄せたといいますから、さぞかし儲かったのではないか・・・と想像されますが、いまの店構えはどちらかといえば質素です。店主によれば、笠原家は代々政治家で目薬の儲けは政治資金に消えたとか。大通りから少し外れて外観も目立たないので、薬局に気づかない観光客も多いでしょう。

「お話をきいていただき、ありがとうございます」と一礼する店主に、こちらも頭を下げて店をあとにしました。

地方の伝承薬の資料館を幾つか見てきた私ですが、これほど熱心に、親切に、楽しそうに、感謝の念を持って説明してくれた場所は他にありません。18代店主は、17代店主を務めた母親と同じ東京の明治薬科大学で学び、薬剤師になり、店を継ぎました(※3)。同じ薬剤師として思い入る部分を差し引いても、先祖代々の目薬を後世に伝えたいという気持ちが伝わる心温まる場所だったのでした。 

善光寺参拝の際は、ぜひお立ち寄りください!

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「笠原十兵衛薬局」(長野市-その他薬局/ドラッグストア-〒380-0854)の地図/アクセス/スポット情報 - NAVITIME

 

 

参考情報

※1 http://w1.avis.ne.jp/~kasahara/link1.htm

※2 http://crd.ndl.go.jp/reference/modules/d3ndlcrdentry/index.php?page=ref_view&id=1000161333

※3 https://nagano-citypromotion.com/nagalab/people/people2553/