『家庭の薬学』

自分に合った市販薬を選びませんか?

2020/3/16~3/20までの市販薬情報です

これほど市販薬が注目されたことが、かつてあったでしょうか。コロナウイルスの影響を受けて、消毒薬だけではなく、市販の痛み止めにも関心が集まっています。と、同時に、SNS上では誤り含む不適切な情報も拡散されていました。

結論から先にいうと、最も誤解を招く良くない情報は、

「アセトアミノフェンが安全であり、この成分を含む市販の解熱鎮痛薬は安全に使える」

といった主旨のものです。

アセトアミノフェンの需要が一気に増え、ドラッグストアではネット上で名前の上がった「タイレノール」という商品が品切れとなりました。その割には、同じ成分のほかの薬は在庫が残りました。

一連の消費動向を見ていると、今まで市販薬とその成分に関心がない方々が、報道で知った断片的な情報を元に、市販薬について語ったり、購入に走ったりしている様子がうかがえます。

これは消毒薬を混乱をめぐる時にも起きたことです。町の薬局やドラッグストアの薬剤師に聞けばすぐに誤解だとわかるようなことが、そのまま修正されずに市販薬が消費されていくのです。

この業界にいる身としては、とても考えさせられましたし、正直にいうと、我々の認識と、一般消費者の認識のギャップがあまりに大きすぎて、「もしこの誤解を解こうとするなら、一体どこから説明したらいいのだろうか」と頭を抱えてしまうような状況でした。

コロナウイルスと鎮痛薬に関するツイッターの中で特にセンセーショナルだったのは次のようなつぶやきです。

大事なツイートをしておきます。 日本政府は言いそうもないので。 コロナに関して、フランスで重症になり入院をしている若い人達はいずれも風邪薬としてイブプロフェンを含む薬を飲んでいました。 フランスの健康省は、それの危険を発表し、使うなと報道で徹底させています。(3月16日付ツイート、21日時点で7万いいね)

これ以外にも、「アセトアミノフェンを使っている市販薬」としてセデスやノーシンを紹介するツイートが複数出回り、多くのリツイートがされていました。

しかし、そうしたツイートで紹介されていたセデスやノーシンはアセトアミフェンだけで出来ているわけではなく、別の解熱鎮痛成分も含まれています。しかも、それらは「エヌセイズ」と呼ばれる成分で、コロナには不適切とされているイブプロフェンと同じ種類なのです。厳密には少しタイプが違うのですが、イブプロフェンでなければ大丈夫などという考えは医療従事者の間では一般的ではありません。

にもかかわらず、不合理な情報がひたすら拡散され、ドラッグストアの棚から特定の薬だけがみるみる無くなっていくわけですから、もう本当に呆れるというより怖いとしかいいようがありません。

これは医師の平さんがおっしゃっていたことなのですけど、日本の消費者は「エヌセイズ」という言葉を知りません。痛み止めの外箱にも書いていません。でも海外の痛み止めには記載があるんですね。このエヌセイズという言葉を知っていたかどうかだけでも、今回の情報への向き合い方は随分違ったものになっていたのではないでしょうか。

 

今回の鎮痛薬の混乱は、突然のことでした。

発端は先週14日。フランスの保健大臣が、自身のツイッターで、

「抗炎症薬(イブプロフェン、コルチゾン...)の服用は、感染症の悪化の一因となることがあります。熱がある場合はパラセタモールを服用してください。」

と発言したのです。

この発言は日本のメディアでも取り上げらました。かなり思い切った主張であり「その根拠はなんだろう?」というのが、わたしの最初の感想でした。それからすぐに、「尾ひれがついて、余計な誤解や混乱が生まれなければいいな」とも思いました。おそらく、多くの医療従事者もそのように感じたと思います。

17日、このツイートに対するWHOの報道官の発言として、

これについて聞かれたWHO報道官は、危険性を証明する研究結果はまだなく「調査を進めている段階だ」と強調した。しかし「家で服用するならアセトアミノフェンを勧める。イブプロフェンではない」と述べた。また「専門家の処方がある時は別だ」とも指摘した。

と報じられました(時事通信)。慎重な言い方ではありますが、事実上イブプロフェンを使用することを否定する発言でした。これがさらに混乱に拍車をかけました。

しかし、翌18日になると、イブプロフェンを控える事は勧告しないと、公式発表しました。

発端となったフランスは、このブログでも昨年書いたとおり、今年から鎮痛薬の販売規制を強化したばかりでした。もともと、日本とは鎮痛薬に対する認識や社会背景が異なるため、市販薬への規制は日本よりも厳しい国です。そんな国の注意喚起の発言が、市販薬に無関心なこの日本という国に突然飛び込み、いままで考えたこともないような市販薬情報にビックリした人々が、慌てて断片的な情報をもとにさらなる混乱を生み出した。そうわたしは思います。

でも、これが正しいなら、事態はそう悲観的になる事ではないともいえます。同様の混乱をおさめる事も、さらなる混乱を防ぐ事もできる方法が、すでに用意されてるからです。それは、地域の信頼できる薬剤師に聞けばよいのです。一般的なトレーニングを受けた薬剤師なら、世間のミスリードを修正してくれます。信頼できる薬剤師がいないとしたら、信頼できる薬剤師を見つける努力と、その薬剤師と良好な人間関係を築く努力をするとよいと思います。

薬剤師は社会のインフラです。健康分野の身近な相談相手です。少なくとも、諸外国ではそのように認識されています。

繰り返しになりますが、いまかつてないほど市販薬に関心が寄せられています。これが、人々の健康と薬剤師の、新しい関係のきっかけになると、社会はもっと快適になると思います。

 

さて、今週は大事な市販薬ニュースがありました。 

大正製薬からレモン味のロキソプロフェン「ナロンLoxy」と、液体タイプの「ロキソプロフェンT液」が、スギ薬局と、クスリのアオキで3/16販売開始です。両方とも、今までのロキソプロフェンにはない特徴。注目です。

クラシエは漢方セラピーから新商品2アイテムが3/26発売。さめ肌向けの「コイクラセリド」と、胸やけ、胃もたれ向けの「止逆清和錠」。両方とも市販薬としては、あまり見ないタイプの薬。クラシエの漢方はラインナップが充実してきていますね。