『家庭の薬学』

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「ペイシェントサロン」で「相手の立場」を考える

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「お客のために」はタブー

あるブログで、過去にセブンイレブンに入社したかたが、読んでドキリとさせるエピソードを書いていた。

入社した頃、マネージャに「お客様のためにはこの方が良いと思います」と商品展開の提案をしたところ、

「お前はもういい、帰れ!お客様のためにと考えるやつはうちの会社にはいらない!」

と言われたというのだ。

その後先輩から、「お客のために」というのが社内のタブーであること、その理由は「お客様のためにとは、川の向こう側に居るお客様に、一方的にボールを投げるようなもの。一方お客様の立場にとは、お客様が必要とするニーズの鉱脈を掘り続けるようなもの」だと教えてもらったという。

それはそうだが、しかし「お客のために」なんて、何の気なく使ってしまいそうな言葉である。

 

鈴木敏文さんの言葉

セブンアンドアイ・ホールディングス(セブンイレブンとかイトーヨーカドーです)の会長・鈴木敏文さんが語る骨法に、

『顧客のために』ではなく、『顧客の立場』で考える

という言葉がある。

なるほどねえ。鈴木さんはうまいことをいう。これは小売業、ドラッグストアに限らず、世の中で「仕事」とよばれる行為のほとんどに対して、一理ありそうな言葉だ(「顧客のために」という考えも大事ではあるのだけど)。

 

ペイシェントサロンに参加

とはいえ、相手の立場に立つという行為は難しい。そもそも、人間は一人ひとり立場も思考もちがうのだから、厳密な意味で相手の立場には立つことはできない。それでも、知恵を絞り、経験を総動員して、相手の立場になって考えなくてはいけない。

どうやって相手の立場に立てる?

最近知った「ペイシェントサロン」という場所が、考えるヒントになると思うので紹介したい。

 

「患者側」の人がつくったサロン

ペイシェントサロンは、患者、医療従事者、企業といった様々な立場の人たちが集まる患者のための情報交換コミュニティだ。ホームページには次のように活動目的が書かれている。

医療界では「患者中心の医療」の実践が求められています。しかし、本当に必要な姿は「患者協働の医療」。 病気を治すのは医療者ではなく、患者自身です。 患者が、自分のこととして、医療に深くかかわる姿勢があってこそ、質の高い医療が役立つのです。 それをお互いに気づき合うのが「ペイシェントサロン」。

運営団体の「患医ねっと」の代表を務める鈴木信行さんは「患者側」の人だ。

生まれながらの二分脊椎という疾患で身体障害者認定を受けている。精巣腫瘍を20歳で発症し、再発、転移も経験。東京都文京区でカフェを経営しながら、講演・執筆活動をしている。朝日新聞の医療サイト「アピタル」で連載を持つ。

 

ワークショップと手料理の懇親会

今年に入って、ぼくはペイシェントサロンに初めて参加した。その日の参加者は14名ほど。鈴木さんが営むカフェを会場に、2グループに分かれて、一つのテーマについて意見を出し合う2時間のワークショップが行われた。

初めてお会いする代表の鈴木さんは、ウェブ上の写真よりもずっとイケメンだった。

鈴木さんは手際よく、議論を盛り上げ仕切っていく。ワークショップが終わると、こんどは厨房に入って、懇親会で手料理をふるまう。

鈴木さんのゆでたペンネをウマウマと食べながら、鈴木さんと、この日参加したA子さんという女性と話す機会を得た。

 

人生色々、「患者側」も色々

A子さんもまた、鈴木さんと同じく「患者側」の参加者だった。歳は30代後半、人生の半分を薬と共に生きてきたという。

鈴木さん、A子さん、ぼく、それから他の参加者数人で、テーブルの上のペンネを囲んで話している中で、鈴木さんが、

「病気になったらなったで、別にいいじゃんって思うんですけどねー」

とふと言った。そしたら、横にいたA子さんが、すかさず、

「それは、私たちがそういう環境(小さい頃から通院生活を送っていた)にいるから、そういうふうに思えるような気がするなあ~」

といって、ぼくはちょっと意表をつかれた。同じ「患者側」にも色々な意見がある、そんな当然のことをあらためて気づかされた。

 

「薬剤師さんにとってもいい薬局であるべき」

ぼくが薬剤師ということもあり(といっても薬局薬剤師じゃないのだけど)、話題は自然と「いまの薬局に足りないものは何か」になった。いまの薬局に欠けているものはなにか?ぼくは仕事ではいい薬剤師に会って来たけど、プライベートでかかった薬剤師には、正直苦い思い出が多い。自分が患者として薬局を利用したときに経験した不快な出来事を話して、

「患者目線が足りないんじゃないでしょうか」

といったら、またまたA子さん、

「なんでもかんでも患者のためっていうんじゃなくて、そこで働く薬剤師さんにとってもいい薬局であるべきだと思いますよ」

いやー、そのとおりですね。

そこからA子さんは、自分がどれほど、かかりつけの薬剤師さんのお世話になっているかを熱烈に語った。

「『理想の薬局』について、もっと議論がしたい」

とA子さんは最後まで話していた。こんなに薬剤師について熱く語る、薬剤師でない人を、ぼくはたぶん初めてみたと思う。

 

延べ参加者は600人。興味がある人は誰でも参加できる

ぼくはドラッグストアの薬剤師だから、ドラッグストアを利用する一般消費者を集めて、同じようなことができたらおもしろいなあと思った。

ペイシェントサロンは、4年前から開催している。1回の参加者数は14人ほどで、すでに40回以上実施し、延べ参加者数は約600人にのぼる。今年、公益財団法人から地域医療振興賞を受賞した。

誰でも気軽に参加でき、「相手の立場に立つ」という行為のヒントが得られる場所じゃないだろうか。ご興味ある方はぜひ。