『家庭の薬学』

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医療従事者が持つやっかいな正義感について

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おことわり

ブログはじめて9か月です。

さて、今日は、医療を語ることについて書きます。最初に言っておきます。今回の記事は医療従事者のなかには不快に思われるかたがいると思います。ごめんなさいね、不快に思いたくない人は読まないで。

地域医療ジャーナルさんの「メディカルカフェ」レポート

数か月前に、現役の医師・薬剤師さんたちが運営しているウェブメディア「地域医療ジャーナル」が、5月に開催された「メディカルカフェ」というイベントをレポートしていた。

残念ながら、このような、医療の専門家と、それ以外の人を結ぶような取り組みはあまり浸透していない。日常レベルではほとんど皆無。

患者(あるいは消費者)と、医療提供側との間に大きな溝がある。ツイッターをやっていると、医療を批判する人と、医療批判を批判する人たちとの間に、通常の会話ではありえないほど心無い言葉が飛び交っている。

ぼくは勉強の一環として読むようにしているが、心の中ではうんざりしている。

今月6月のアタマ、TLを眺めているうちにムシャクシャシして、思わずこんなツイートをした。

医療従事者の「医療批判」批判のなかには、ピントがズレてるものが時々ある。自分の視点で主張しているだけ。だから、同じバックボーンを持っている人にしか刺さらない。

 

批判するには理解が浅く、反論するには視野が狭い

特定の個人を指したわけじゃない。なんとなく自分が日頃感じている思いを呟いた。お前のこのツイートこそ、生産性がないじゃないかと批判されそうだしそれは一理あるのだけど、幸いなことに高橋秀和さんという薬剤師さんが反応してくれた。高橋さんはBLOGOSに寄稿されているかただ。

高橋さんは、ツイッター上でご自身の意見を述べてくださった(以下、ご本人の許可取得の上掲載)。

 

確かにその通りだと思う。私も耳が痛い。他の医療者が発する「正義感からの言説」を見ても、残念ながら視野が狭いと感じることは少なくない。

ただそれは、美点でもあると思う。自らの専門分野を追及する中での 突き詰めた視野の狭さという場合がある。バランスのとれた生優しい持論ではなく、求道者の如き鋭い知識や言説に、尊重すべき面は多い。市井にそういった人物が散在するという意義は確かにあると思う。

反面で、危険性はある。最たるものは、優秀な人物が選択する医療行為が、社会通念上問題となる領域に容易に足を突っ込みやすいということだ。実際に多く見かける。突き詰めた鋭い方向性と、開かれたマインドを両立することは端的に言って困難だ。

これは、やはり突きつけられている課題だと思う。医薬分業(特に面分業)といったオープンな制度、忌憚のない患者との関係性がその解決策の一端だと私は考えている。また社会的には(批判する側の理解の浅さ、反論する側の視野の狭さは厳然とあるだろうが)、対話し理解を積み重ねることが解決策だろうと思う。

ツイッター、BLOGOS等でのやり取りは、そういった意味で、私の拙い前進の助けになっている。

 

批判するには理解が浅く、反論するには視野が狭い。なるほど。そうですね。だから、対話が大切なんですね。あの汚いTLも、もうちょっと見続けようかなという気になった。

医療従事者の持つやっかいな正義感

ところで、話は飛ぶのだけど、2003年にWHOがインドでポリオ掃討作戦を行ったことがある。南インドの子供たちにワクチンを摂取させ、ポリオの蔓延を防ごうとした。

ここで、医療従事者の持つ正義感がやっかいな事態を起こした。

WHOのワクチン作戦は、多くの子供を救う目的で行われた。ただ、一部の集落では、ワクチン摂取は危険だとする風説が広がっていた。ある村では、前年に「インド政府はワクチン以外のものを注射して男性不妊症にしようとしている」というウワサが立っていた。別の村では、「ワクチン接種後に熱が出た」という話を聞いて子供にワクチンを打たせない親がいた。

WHOの小児科医が、村々を回っているとき、こんなことがあった。ワクチンの摂取を拒む母親を、地元医師が、

「あんたは馬鹿か?子供が(ポリオで)麻痺を起すんだ。死んでしまうんだぞ」

と言って怒鳴りつけたのだ。

「それがどうした?怒鳴っても何の足しにもならん」

そばにいたWHOの小児科医は、この医師の言動に敏感に反応した。彼は怒鳴った医師の前に立ち、「なぜ怒鳴るんだ?」と問い詰めた。

「怒鳴る前は、彼女はわれわれの話を聞いてくれた。一応はな。今はどうだ?もう、話も聞いてくれないぞ」

身内からの思わぬ反論に、地元医師はあわてて「彼女は字が読めないんだ。だから、子どものためには何が正しいのか、知らないんだ」と弁解したが(こういう上から目線の、啓蒙ぶる医療者の発言はよくSNSで見かける)、小児科医は「それがどうした?」と問い返した。

「怒鳴っても何の足しにもならん。それに、今の話が回り回って、われわれは住民に無理矢理ワクチンを打っている、ということになってしまうんだ」

小児科医にとって大事なことは、「子供にワクチンを打ってもらう」ということであり、彼はそのために必要な行動を知っていた。

どうやったらもっとうまくできるかを考え続ける

このような小児科医をはじめ、多くの医師たちの努力により、WHOは3日間で400万人もの子供の予防接種を行った。この国のポリオ患者の数は確実に減少した。2014年、WHOはインドでポリオを根絶したと公式発表した(※1)。

インドにおけるWHOの活動は『医師は最善を尽くしているか』(アトゥール・ガワンデ著)に詳しい。医学専門誌BMJに掲載された記事をまとめた本書は、すべての職業人には絶え間ない努力が求められるという事を認識させられる。

その努力は、「どうやったら、もっとうまくできるか」を考え、実行することであり、自分の言説が正しいと信じて疑わず、他人を無知だと罵ったり、啓蒙しようとしたり、汚い言葉で何かを批判することではない。汚い言葉に共鳴するのは、すでに同じ考えを持った人たちだけで、なんの生産性もない。

このブログは、できるだけ目の前の問題を解決し、生産性のあるものにしていきたいと思っています。そのためにどうやったらいいかを、このところずっと考えています。

医師は最善を尽くしているか―― 医療現場の常識を変えた11のエピソード

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※1CNN.co.jp : インドでポリオ根絶、WHOが公式宣言へ - (1/2)