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「確率思考の戦略論」で考えるドラッグストアへの不満

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ドラッグストアの景気がいいです

ドラッグストアの景気がいい。売上約6兆5000億円で、百貨店市場(6兆円)上回り、16年連続のプラス成長。その活況を日経新聞の記事(3月16日付)が報じている(※)。

日本チェーンドラッグストア協会(横浜市)によると売上高は00年度の調査開始から16年連続でプラス成長となった。伸び率が5%を超えるのは08年以来8年ぶり。調剤を含む「医薬品」が6.2%増の2兆874億円、「化粧品」が5.4%増の1兆3670億円、「日用雑貨」が5.2%増の1兆3899億円。  けん引役は調剤事業で9.6%増の7849億円。16年度の調剤医療費でドラッグストアのシェアは10.7%の見込み。08年度は7.0%だった。同協会は「シェアは5割程度になる」とみる。

経産省が今年3月にまとめた別の統計資料もある。これは大変よくまとめられている。

http://www.meti.go.jp/statistics/toppage/report/minikeizai/pdf/h2amini075j.pdf

この経産省の資料によれば、商品販売額は百貨店の方がまだドラッグストアよりも多いものの、前年比では百貨店はマイナスに対してドラッグストアは6.8%増。コンビニの4.1%増と比較してもドラッグストアの好調が際立つ。

ドラッグストアの全国の店舗数は、一般には1万7000件といわれている。コンビニの5万5000件(※2)、調剤(保険)薬局の5万7000件よりも実はずっと少ない(※3)。ドラッグストア業界内部では「すでにオーバーストア(出店過剰)」と言われて久しいが、コンビニとドラッグストアの垣根が低くなっていることを考えれば、ドラッグストアの店舗数が今後も増える可能性は十分あると思う。

では、増えてどうなる、ドラッグストア。

ビジネス戦略の本質は3つの指標

LINE取締役の田端信太郎さんが数か月前にツイッターで絶賛していた「確率思考の戦略論」という本を読んだのだけど、ドラッグストアの未来図が少しだけ想像できるような気がした。

確率思考の戦略論  USJでも実証された数学マーケティングの力

確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力

 

著者のお二人は、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンを商業的に大成功させた著名なマーケターとデータサイエンティストだ。本書を読むと、データでここまで成功確率を高められるのかと舌を巻く。生まれ変わったらデータサイエンティストになりたい(そんでまたメディアで働きたい)!結果を出した人たちなので、語る内容に説得力がある。

本書によれば、ビジネス戦略の本質はシンプルであり、経営資源の配分先は「Preference(好意度)」「Awareness(認知)」「Distribution(配荷)」の3指標に集約されるという。「好意度」とは、価格や品質など諸々を加味した消費者のブランドに対する相対的な好意度、わかりやすくいえば”好み”のことだ。「認知」とはその言葉の通りなので説明はいらないだろう。「配荷」とは、ちょっと馴染みのない言葉だが、消費者の何%がその商品を買おうと思えば物理的に買える状態にあるかを示す。

ドラッグストアに「認知」「好意度」はあるか?

この3指標のうち、無限の可能性を持っているのは「好意度」だが、問題のあるビジネスは「好意度」以前に、「認知」「配荷」にわかりやすい問題がある。この2つを改善するだけである程度まで直線的にビジネスは成長するという。

ドラッグストアがどんどん出店するのは「配荷」にあたる。ドラッグストアは度重なる出店で市場規模を拡大してきた。

では「認知」はどうか。「マツキヨ」はメディアで取り上げられた記事があったので有名だが、それ以外はよくわからないというのが一般的な認識じゃないだろうか。まあ、街中で見ますね、くらいの感覚である。

「好意度」だが、これも競争要因にあまりなってない。マツキヨに恨みはないが、「マツキヨ大好き♪」とか言う人をぼくは見たことがない。自宅に近い、安いドラッグストアならどこでもいいや、みたいな感じではなかろうか。

もちろん、ドラッグストアはバカみたいに安い商品があって、それはそれで経営努力として素晴らしいし「好意度」の一つではあるのだけど、それはどちらかというと、スーパーやコンビニと比較した時のドラッグストア業界全体に対する好意度であって、個々のドラッグストアに対する好意度とは異なると思う。

コンビニとドラッグストアの違い

「好意度」は差別化であり、それ自体は各社やっている。けれども、その差別化が消費者が満足するレベルに達してるだろうか。

ぼくはコンビニといえばセブンイレブンがまっさきに頭に浮かぶ。近所の最寄りのコンビニはローソンだけど、あえてセブンに行くことがよくある。コーヒーおいしいし、プライベートブランドの質がいいからだ。セブンのコーヒーは散々メディアでも取り上げられましたし。

一方、ドラッグストアと聞いてまっさきに頭に浮かぶ店はない。ドラッグストア業界とは無関係の人が、「薬を買おうとしたら、スタッフがプライベートブランドをすごくすすめてくるんだけど、あれなんなの?」と不快感をぼくに示したことあって、いまのところ世間的にドラッグストアのプライベートブランドが好意的に受け止められているという実感はない。支持を示す客観的なデータも見たことない。

「好意度」と「認知」に資本投下

というわけで、ドラッグストアは今後も店を増やすのだろうけど、一方で減らしていく地域もあり、「好意度」と「認知」に、もっと経営資本が投下されるんじゃないでしょうか。

「ドラッグストアといえば〇〇店がいい!」とか、「ドラッグストアは〇〇店がアツい!」とかいう言葉が、どこからも、一向に聞こえないのは、ドラッグストアという業界が未熟な証拠だと思う。ドラッグストアは便利で安く、我々の生活の役に立っていることは間違いない。だが、どこか、うーん、モヤモヤとした不満もある。ありませんか?ぼくはありますね。だから、布団を嚙んで考えるよりも、この業界に身を置いて変えようとしているわけですが。

 参考情報

※1ドラッグ店市場規模 百貨店超え 6.4兆円、16年度5.9%増 :日本経済新聞

※2コンビニエンスストア 統計データ|一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会

※3調剤薬局チェーン、M&Aで成長 全国薬局の30%超に : J-CAST会社ウォッチ