『家庭の薬学』

自分に合った市販薬を選びませんか?

咳止め成分で露呈した、消費者が知らない市販薬業界の世紀末ぶり

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なぜあの薬がドラッグストアで売っているの・・

1年半後に安全性の理由から消滅する薬の成分が、ドラッグストアで今も売られている事を前回書いた。 成分の名はジヒドロコデインという。

drugstore.hatenablog.com

 

ジョンソン・エンド・ジョンソンの優れた判断

この記事をアップしたあとで、登録販売者のりちおさんから情報をいただいた。

ジヒドロコデインを含んでいる「アネトン咳止め」は、今年6月にリニューアル発売した咳止め薬だ。旧品の「アネトン咳止めZ」は11歳から使用できたが、リニューアル品「アネトン咳止め」は12歳からの使用に変更されている。発売元の武田薬品工業の関係者に聞くと、事情をこう説明してくれた(※1)。

「アネトンは販売はうちですけど、外資系のジョンソン・エンド・ジョンソンが製造している薬なんです。成分をリニューアルするために一度製造を終了していました。それで、リニューアルして発売する際に、海外ではジヒドロコデインを12歳未満に使うことはないという理由で、グローバルスタンダードに合わせて、薬の服用年齢を12歳以上に引き上げたと聞いてます」

 

消費者にツケを回しているに過ぎない

これが本当なら、ジョンソン・エンド・ジョンソンの対応は素晴らしい。

前回の記事でも言及したとおり、ジヒドロコデインの使用禁止は予見可能な事案だった。いま販売を続けている企業は、そのツケを消費者に回しているにすぎない。ジョンソン・エンド・ジョンソンのように適切な対応をした企業もあるのだから、言い逃れはできないだろう。使用禁止に完全移行するまでに1年半という長い猶予期間を設ける意味もわからない。

ちなみに、ジョンソン・エンド・ジョンソンは、昔から危機管理・消費者対応に定評のある企業である。35年前に同社の鎮痛剤に毒物が混入される事件(通称タイレノール事件)が起きた。その際に同社とった行動は、消費者第一優先とした危機管理対応のお手本として、企業の危機管理を語る際に必ず引用される模範例となっている。

 

あの伝説のジキニンの小児シロップがなくなる!OK!

他のメーカーはどうか。残念ながら、これといった動きはぼくの知る限りない。もちろん、いまは成分の切り替えなどで大忙しだろうが泥縄である。

今回のジヒドロコデイン禁止で大きな利益損失を被るのは、全薬工業の「新小児ジキニンシロップ」だろう。ベテラン薬剤師のeconomicscienceさんからツイートが届いた。

この薬は小児用の風邪薬なのだが、大人が一気飲みすると大変効くと昔から神話のごとくいわれており、そうした不適切な使用が後を絶たなかった。しかし、この商品も今後1年半以内に販売ができなくなる。

このシロップ薬は、薬剤師界隈では批判の的だった。だから、販売中止になることは、経営者はともかく、案外、社員は喜んでいるかもしれない。世間から批判される商品を販売することは、現場の人間のやる気やモラルを削ぐ。社内にいたであろう、反ジキニン小児シロップ派が、ようやく日の目を見ることになる。彼らは評価されるべきである。

会社は、世間と呼ばれる社会の目にさらされ、評価される中で自浄していくのである。だから、もしぼくら消費者がこの世の中が少しでも公平な社会になってほしいと望むならば、メーカーの行動を評価する責任を持たなくてはいけない。

 

ドラッグストアでは規制なしどころか「お買い得品」に

ここまでは薬のメーカー側を見てきた。では、売り手側であるドラッグストアの対応はどうか。12歳未満へのジヒドロコデインの禁止が決まり3週間経つ。

大手ドラッグストアチェーンを回ると、どこも通常通り販売されていた。店頭で注意書きがあるかと思ったが、そのようなものは一切ない。それどころか「お買い得品」のポップが貼られている店まである。

試しに1つ購入を試みた。商品を棚から取る。注意書きは特にない。レジスタッフは無資格と思われるパートの女性。なんら注意喚起はなされない。素直にお会計をして、終了。あっさり購入することができた。

もうちょっと、なにか工夫があるかと思ったが、あまりにも無策でズッコケそうになった。

 

ドラッグストア各社の ネット販売は対応無し!

ネットの販売はどうか。大手各社のサイトで、アンパンマンの絵柄の付いた「ムヒこどもせきどめシロップ」の扱いを確認した。

 

まず「ケンコーコム」。ぼくの印象では、ここは大手の医薬品通販の中でもっとも安全に気を配ったシステムを作っている。それだけに期待していたのだが、残念ながら、特に対応はしていなかった。

先日、厚労省からジヒドロコデインを含む小児用風邪薬と咳止めの注意書きを「2歳未満の乳幼児には、医師の診療を受けさせることを優先し、止むを得ない場合にのみ服用 させること」から「12歳未満の小児には、医師の診療を受けさせることを優先すること」に変更するように通知が出た(※2)。

しかし、ネット通販の商品の紹介サイトに記載された注意書きは、現行の「2歳未満」のまま。メーカー側の薬の説明書(添付文書)の書き換えが済んでないので、販売する側もそのままということなのだろう。しかし、ネット通販は薬剤師が管理することが法律で義務付けられているのだから、薬剤師が一言「ネットの文言をすぐに書きまえましょう」と言えば済む話である。

「アマゾン」はどうか。こちらも特に対応はない。ネットに注力している「ココカラファイン」も特に対応なし。「ウエルシア」も対応なし。「マツモトキヨシ」に至っては「SALE」の赤字付き。なんなのこれ。

 

市販薬にもうちょっと興味を持ちませんか??

なんでこんなことになっているのか。ドラッグストアの経営に問題があるといえば、その通りである。行政が悪いといえば、それも間違いではない。

けれどもここで言わせてもらいたいのは、消費者の薬に対する決定的な関心の薄さである。もし、消費者側に薬を薬剤師に聞く習慣があれば、当然薬剤師から説明があり、ジヒドロコデインが12歳未満には極力使わないようにすることは、いともたやすくすることができる情報である。けれども、消費者はドラッグストアの薬をセルフで購入するため、何も知らず手に取り購入する。薬を作る側も、売る側も、そのままやり過ごす。

適切な対応をした製薬企業やドラッグストアやそこで働く人々は、世間から褒め称えられるべきだし、そうした行動を取らなかった者は批判されるべきだ。

都合の悪いことを黙っている方が得するなんて世も末だ。

 

参考情報

※1もともとはリゾチームが外れたことでのリニューアルであり、製造販売は昨年に終了していた。同じタイミングで使用年齢も変えたと思われる。

 ※2使用上の注意改訂情報(平成29年7月4日指示分) | 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構