中国の方々にとっての正月にあたる春節の大型連休が21日に終わりました。インバウンド消費の象徴である「爆買い」の光景にもすっかり慣れましたね。ただ、こうした特需がいつまでも続くとは、小売業界では誰も考えてはいないでしょう。では、次はどんな需要が来るのか。個人的には、その答えは「越境EC」にあると思われます。
越境ECとは「中国人消費者がインターネットを通じて海外製の商品を購入し、その商品が国外から配送されているもの」です。越境ECに詳しい専門家によると、
観光庁によると、2016年は、中国からの旅行客による旅行消費額のうち、買物代は7,832億円と前年より3.2%減少した。 一方、中国の消費者がインターネットを通じて日本から商品を購入する「越境EC」の規模は、2016年で前年比30.3%増の1兆366億円と、インバウンド消費(買物代)を大きく上回り、1兆円を突破した。越境ECによる日本からの購入額は直近3年間でおよそ3倍にまで増加しており、米国の消費者の越境EC購入額のおよそ2倍の規模に相当している
直近2017年の数字はないものの、市場規模は拡大傾向にあるといって間違いありません。越境ECが盛んな理由の一つは中国政府による輸入関税の引き下げでしょう。今年2月12日付の毎日新聞が、2017年に起きた関税一斉引き下げを次のように解説しています。
中国財政省は昨年12月、200近い品目の輸入関税を一斉に引き下げた。粉ミルクや紙おむつの関税はゼロになり、化粧品は10%から5%、自動洗浄便座は32%から10%に変更された。当局は中国の消費者が国内ではなく、国外で大金を使う状況を苦々しく見てきた。関税の引き下げ対象は中国の消費者が国外旅行で好んで購入する商品が多く、「爆買い」潰しをはかる意図が明白だ。
また、中国国内の消費者の声も紹介しており、これもむべなるかなという内容です。
越境ECの拡大は、消費者の購買行動を大きく変えつつある。北京市内の会計事務所で働く王さん(27)は月に2、3回、ネット通販で日本製の商品を購入している。王さんは14年秋に初めて日本に行き、スーツケースいっぱいにお土産を買ってきた。日本へ旅行に行く知り合いにお土産を頼む「人肉代購」も何度か利用した。しかし、現在は「ネット通販で十分。買い物のためだけに、わざわざ日本に行くのは時間とお金がもったいない」と語る。
中国政府による輸入関税の引き下げは今に始まった事ではなく、2015年6月、2016年1月、そして2017年1月、12月と度々行ってきました(※2)。すでに粉ミルクや紙おむつは関税ゼロの状態ですが、他の商品が今後さらに関税が引き下がる可能性もありえるのではないでしょうか。そうなると、さらに日本国内の爆買いは萎むでしょう。
加えて、日本のメーカー各社が中国現地で展開しています。ツイッターで穂さんという中国の方が教えてくれたところでは、すでに中国国内のネット通販サイト(タオバオ)でそこそこリーズナブルに日本の日用品や化粧品が購入できるそうです。セール時には日本よりも安いそうです。
気付けばもう日本郵便までもタオバオに進出している。他にもメーカーさんがいっぱいいる。セールの時は物によって日本よりも安いって pic.twitter.com/gxSWprUJwu
— 穗@帰省中 (@suisuiovo) 2018年2月9日
そうですね。正直値段もそんなに高くなってませんし。大量購入じゃないと大した得しないと思います。
— 穗@帰省中 (@suisuiovo) 2018年2月9日
このままだと多分バイヤーも減っていくと思います。ちょっと高い値段でオフィシャルショップで確実に正規品買えるので、敢えて個人がやっている正規品と偽物混じって販売してるところで買いませんね。関税払うリスクもありますし。
— 穗@帰省中 (@suisuiovo) 2018年2月9日
タオバオには日本のマツモトキヨシやサンドラッグなどのチェーンドラッグストアが出品しており、これらはニセモノではないため中国の人々も安心して購入することができます。
医薬品はどうでしょうか。2017年末の関税引き下げには医薬品も該当しており、中国語の対象リストによれば関税率は2%に引き下げられた模様です(※3)。
現時点では私が見る限り医薬品については出品数は少なく、価格も高いように思います。たとえば、チェーンドラッグストアのキリン堂がタオバオで販売している大正製薬の口内炎薬「口内炎パッチ大正A10枚」は98元(邦貨換算で約1650円)ですが、日本のアマゾンは699円で販売しており(マーケットプレイスではありません)、2倍以上の価格差があります。あるいはサンドラッグは「ムヒS」を53元(邦貨換算約900円)で販売していますが、これも日本のアマゾンなら430円で購入できます。まあ、日本の店頭のドラッグストアではもっと高いわけですが、それでも依然として日本で購入するお得感はありそうです。よろしければタオバオでいろいろ検索してみてください。
ただ、実際問題としては医薬品の爆買いは減っている印象です。日本のドラッグストアとしては嬉しくない話かもしれませんが、個人的には歓迎です。もう次の越境EC時代に備えましょうよ、爆買いにしがみついていてはいけません。
なにより、中国の方々にとって大変好ましいことじゃないですか。だって、中国語でちゃんと薬の説明が書かれたサイトで購入できるのですから。中国の薬剤師の方々、頑張ってください!応援しています!!中国語を話せない私だけれども、できることがあれば喜んで情報提供しますよっ!(これってグローバルジャーナリズムかな?)
参考情報
※1 中国向け越境EC、1兆円市場に拡大-インバウンド消費からの波及効果あり?- | ニッセイ基礎研究所
※2 http://www.clips-web.co.jp/chinablog/2017/12/12/post-2505/
※3 消費財の輸入関税率を引き下げ、12月1日から適用-対象は食品や医薬品など187品目- | 世界のビジネスニュース(通商弘報) - ジェトロ