昨日は朽木誠一郎さんの著書「健康を食い物にするメディアたち」という本を読みながら、メディアを健康にする食い物たちを探して蕎麦屋に入りました。十割蕎麦のような「茶色い炭水化物」は体にいいらしいですよ。津川友介さん(医師、医療政策専門)の本に書いてありました。まあ、健康によかろうがわるかろうが、蕎麦は好物なので好んで食べてます。
健康を食い物にするメディアたち ネット時代の医療情報との付き合い方 (BuzzFeed Japan Book)
- 作者: 朽木誠一郎
- 出版社/メーカー: ディスカヴァー・トゥエンティワン
- 発売日: 2018/03/25
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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私は薬剤師です。医療デマと呼ばれる情報にも頻繁に接しています。ですから「健康を食い物にするメディアたち」のページを繰りながら、なるほどなーとか、そうかーとか、感心しながら読みました。なんかSNS上でも医療従事者に評判いいみたいだけど、納得だなーとか。
でも、ふと思ったんですね。これって、メディア関係者や医療従事者以外の人たちが読んでも、ちゃんと納得できるものなのかなって。ほら、私は薬剤師ですから、すんなり頭に入ってきますよ。むしろ半分以上は既知のものですよ。でもね、医療に詳しくない人が読んだら?
そこで、もしこの本が医療ではなく不動産について書かれたもので、本のタイトルも「”不動産”を食い物にするメディアたち」だったらと想像してみました。不動産を選んだのは、これが生活する上で欠かせないにもかかわらず私があまり詳しくない分野だからです。このように置き換えると、この本が読者に示す提言はけっこうな無茶ぶりなんじゃないかと思えてきました。
医療デマに騙されないための行動が難しすぎる
実際に本の中身を見ていきましょう。朽木さんは本書の中で、誰も医療デマに騙されることのない世の中を作るための行動として、「今、私たちにできること」(第5章)として次の5つを挙げています。
健康になりたいという願望が狙われていることを自覚する
リテラシー(5W2H)を身につける
情報収集源を精査する
リテラシーがすべてではないことを肝に銘じる
声を上げる
で、私が気になったのは2~5番目です。
5W2Hを身につける
まず5W2Hのリテラシー。5W2Hとは「いつ」「どこで」「誰が」「なぜ」「何を」「どのように」「いくらで」のことです。これ、記者が物事を取材して原稿を書くときの基本のキなんですね。でも、読み手にとってはどうでしょうか。不動産情報を逐一確認しながら読むことは、相当に骨の折れる作業です。不動産買うこと自体がめんどくなります。
情報収集源を精査
自分の関心が高い分野でしたら、継続的に情報収集することで、情報発信者の傾向や、情報元の信頼性などを掴むことができます。でもそれは、自分が精通している分野。絶対マンションを買えという専門家もいれば、戸建てがチャンスだという専門家もいます。どちらが情報源として信頼できるのかを判断することは私にはできそうもありません。だんだんマンションを買うことがストレスになってきました。
リテラシーがすべてではない
「リテラシーがすべてではないことを肝に銘じる」というのも、どうなんでしょう。そもそもリテラシーがない人にとっては「ごめん、まだそこまでたどり着いてないんですけど・・・」という感じじゃないでしょうか。不動産ジャーナリストに不動産リテラシーを持てといわれた日には、もういいや、いまのマンションのままでいい!と発狂してしまいそうです。
声を上げる
で、最後の「声を上げる」。一般論として、声を上げる目的は、自分が騙されないようにするためではなく、そのデマが拡散しないようにするためです。数年前に癌治療医の勝俣範之さんというお医者さんが、近藤誠さんというメディア露出の高い医師の癌理論が誤っていると批判していたことがあります。勝俣さんは、近藤さんの理論がこれだけ世に広まったのは、医療従事者たちが「(近藤さんの言うことは)相手にしない方がいい」と思って放置していたからで、「最大の悲劇は、善人の沈黙」と表現しています。声を上げて正さない限り、誤った情報はどんどん広がっていくという意味です(※)。ただ、癌になんの関係のない人が「近藤さんの理論は間違っている」と声を上げるのは、かなり意識の高い行動だと思います。仮に私が不動産業界の問題点を見つけたとしても、声を上げることはないでしょう。
読むべきは医療メディアと医療従事者
不動産の例えにピンとこなかった方は、「蕎麦を食い物にするメディアたち」でも「鉄道模型を食い物にするメディアたち」でもなんでもけっこうですので、自分が詳しくないカテゴリーを当てはめて想像してみてください。私は薬剤師ですから、朽木さんの挙げた項目はいずれも大事なことだと思いますし、自分が詳しい分野に限っていえば実践できる自信があります。でも、仮に、不動産の知識が乏しい私が家を買いたいと思っている時に、この4項目を実践しなさいと言われたら、私はちょっと勘弁して~と思ってしまうことでしょう。自分が実際に購入を検討している物件のネットのクチコミや、周辺情報を不動産屋に聞いて、最後は自分の頭で考えて決めます。
結論を申しますと、本書にある「今、私たちにできること」とは、残念ながら「今、私たちにはできそうにないこと」ではないかということです。つまり、ここでいう「私たち」とは、一般読者のことではないのです。本書の適正な読者は、医療メディアと医療従事者です。一般の方々にはさほどお勧めはしません。
ただし、多くの関係者を取材し、事実を丹念に積み重ねた本書は、ジャーナリズムの書籍として文句なく優れた作品だったことは付け加えておきたいと思います。
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