青あざを治す薬を選ぶポイントを紹介します
「体ぶつけちゃって、青あざを治せる薬があるって聞いたんですけど・・・ 」というお客が時々いる。そんな薬ないでしょ、と思いきや、あるんです。2018年3月に小林製薬が発売した「アットノン アオキュア」(以下、アオキュア)という新商品。
効くのか、効かないのか。類似品と比べて安いのか、高いのか。どんな使用感か。ちょっと深堀してみていきたいと思います。

【第2類医薬品】アットノン アオキュア 5g ※セルフメディケーション税制対象商品
- 出版社/メーカー: 小林製薬
- 発売日: 2018/03/07
- メディア: ヘルスケア&ケア用品
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①アオキュアはどんな薬か
アオキュアは効能効果に「外傷(打ち身、ねんざなど)による腫れ・内出血」と書かれた薬です。”内出血”と書かれている薬って、すごく珍しいんです。青あざは体をぶつけたときに起きた内出血が、肌に滞って紫色に見える状態だと考えられています。アオキュアに含まれる成分「ポリエチレンスルホン酸ナトリウム」が血行を促すことで、滞った血を流してくれます。その結果、皮ふの紫色が薄くなるというわけです(※1)。
②アオキュアは効くのか?
アオキュアの薬効成分は「ポリエチレンスルホン酸ナトリウム」「ニコチン酸ベンジルエステル」の2つです。前者が血行を促進し、後者は前者の吸収を良くするとされています。
ポリエチレンスルホン酸ナトリウムがこの薬のキモです。ただ、この成分が青あざに効くという情報は、ネット検索してもなかなか見あたりません。私は効果を裏付ける直接的な研究を見つけることはできませんでした。
③ポリエチレンスルホン酸ってなに?
アオキュアの主成分であるポリエチレンスルホン酸は、市販薬の中でもかなりレアな成分です。レアと言うか、ほとんどなにそれ本当に薬なの?というレベルです。
じつは、アオキュアとまったく同じ薬効成分で構成される「ペルガレン(pergalen)」という名前の薬が、かつてドイツで使われていました。ペルガレンを輸入して治療で使ったとする日本国内の古い報告もいくつかあります。
一つ目は「ペルガレンによる瘢痕ケロイドの治療と予防」(1967年)。
ペルガレンによる瘢痕ケロイドの治療と予防 (臨床皮膚科 21巻7号) | 医書.jp
手術後のケロイドにペルガレンを使ったら治療効果があったよ、予防もできたよ、という内容です。
もう一つありました、「ペルガレンの皮膚疾患に対する効果について」(1965年)。
ペルガレンの皮膚疾患に対する効果について (臨床皮膚泌尿器科 19巻11号) | 医書.jp
ペルガレンをケロイドとか傷跡に使ったら効果があったというものです。
50年も昔の研究ですので、相当に年季の入った薬です。2つの論文とも、ペルガレンは青あざの治療ではなく傷跡や皮膚の状態を修復するような目的で使っています。アオキュアの効能効果には、内出血以外にも傷跡とあるので、ひょっとしたら傷跡にも期待できるのかもしれません。
④ポリエチレンスルホン酸はヘパリン類似物質のようなもの
やや専門的な話になりますが、興味深いのは上記の論文に記述された次の序文です。
皮膚科領域においてヘパリンの非経口的使用は古くから行われていたがその副作用のため使用は限られていた。最近ヘパリンおよび類似作用を有するヘパリノイドの皮的治療がさかんに使用されるに至った(「ペルガレンの皮膚疾患に対する効果について」)
どうやら昔はヘパリンが使われていたようです。最近の市販薬にはヘパリン類似物質という成分がたくさん使われており、病院では「ヒルドイド」や「ビーソフテン」といった名前でよく処方されています。「 ビーソフテン」の資料(IF)によれば、ヘパリン類似物質はドイツのルイトポルドウエルク社が1949年に発売したそうです。
ヘパリン類似物質は、ドイツのルイトポルド・ウエルク製薬会社で創製されたムコ多糖の多硫酸 化エステルで、D-グルクロン酸と N-アセチル-D-ガラクトサミンからなる二糖を反復単位とする多糖 体を SO3 - で多硫酸化したものである。その構造中に硫酸基、カルボキシル基、水酸基などの多くの親 水基を持ち、高い保湿能を有する。 このヘパリン類似物質を有効成分とするヒルドイドクリーム 0.3%は、ドイツ国内では 1949 年に表 在性静脈炎、血栓症、瘢痕形成の改善などを効能として発売され、日本国内では 1954 年 10 月にマ ルホ株式会社より発売された。
薬の開発というのは、常に副作用との戦いです。私は皮膚科薬の歴史にさほど詳しくありませんけど、ヘパリンの副作用を解決するためにヘパリン類似物質やペルガレンという塗り薬が使われたのかもしれません。
ちなみに今日、薬剤師さんのこんなツイートを見ました。
誰からもおススメされない(w)傷跡治療薬「アオキュア」に入ってる、ポリエチレンスルホン酸Naって、ヘパリン摸倣体の一種で、線維芽細胞増殖効果がわりと高め(かも知れない)な物質なのね。
— GOB (@k_u_goblin) 2018年6月6日
多糖類じゃないから、保湿効果はヘパリン類似物質より低そうな気がする。https://t.co/t5CNt3oeFV
繊維芽細胞増殖効果というのは傷の治癒につながるという意味です。論文中に出てくるポリビニルスルホン酸(polyvinyl sulfonate:PVS)は、グーグル検索するとポリエチレンスルホン酸(Polyethylene sulfonate :PES)と同じ化学構造で同義のようです(私は化学構造にあまり詳しくないので正確にご存じの方は教えてください※3)。
⑤そもそも血流を改善することで青あざは消えるのか?
最初に触れたとおり青あざの原因が血の滞りであるならば、理屈上はポリエチレンスルホン酸で血流を促すことで効くといえます。でも、実際のところ血流を改善して青あざを消えるのでしょうか?論文検索したところ、関連する研究報告がありましたので一つ紹介します。
エノキサパリン(ヘパリン)という血液を固まりにくくする注射を打つと、その部分が青あざになるそうなんですね。そこで、注射した部分にコールドパックを使う、コールド&ホットパック(冷やすことも温めることもできるパック)を使う、なにも使わないという3つのパターンに分けて調べたところ、コールド&ホットパックは、コールドパックよりも青あざを減らせたという研究報告です。論文の全内容は入手できなかったのですが(有料)、温めたり冷やすといったことが、青あざへの影響を与えることはありそうです。海外のサイトを見る限り、根拠となる論文の明示は見当たりませんでしたが、内出血の48時間後くらいからは温める方向にするのが好ましいようです。
アオキュアを使う時は48時間後にさっさと使った方がいいかもしれませんね。
⑥青あざをひどくしないためのささやかなコツ
青あざを治すというのは、命に関わるようなものでもありません。そのため研究が少ないのだと思います。青あざ(bruises)を英語検索しても、経験的な民間療法の情報ばかりです。
海外の比較的信用度が高いサイト(※2)によれば、内出血直後は冷やし、その後は温める(血流をよくする)のが定石です。市販薬での対処法としては打ち身の痛みを取り除くために鎮痛薬が挙げられていて、アセトアミノフェンが好ましいとありました。ロキソニンやバファリンなどのNSAIDSと呼ばれる痛み止めは血がやや固まりにくくなるので、直後の出血が長引く可能性があるためです。些細な影響とは思いますが、薬理学的にはそう間違っていないかもしれません。ぶつけた場所にロキソニンゲルなどを塗ると、ひょっとしたら青あざがちょっとだけ残りやすくなるかもしれませんね(直後でなければ逆によいのかという疑問がありますがここでは置きます)。
⑦アオキュアのツイッター評判の注意点
ツイッターで検索すると「薄くなってきました」「10日もしないですっかり綺麗になりました」という効果を実感するツイートがそこそこ出てきます。
おのずと期待は膨らむわけですが、ここは少し冷静に見るのが吉かもしれません。仮に1週間で青あざがなくなった人がいても、ひょっとしたらそれは自然治癒力のせいかもしれないからです。青あざが薄くなったのがアオキュアのお蔭なのか、自然治癒のお蔭なのかは、しっかり検証しないとわかりません。薬を使った場合と使わなかった場合の比較は、医療従事者が薬を正確に評価する際によく行うチェックポイントです。思考のトレーニングとして、一般の方々が知っておいても損はないと思います。
⑧アオキュアとまったく同じ別の商品がある
とりあえずアオキュアを買ってみようと考えている方に向けての注意点をお伝えします。アオキュアを語る上で欠かせないのは、その効果とは別に、価格と類似品についてです。
アオキュアは今年2018年3月に発売した新商品。しかし、実はその中身は、すでにある他の薬とまったく同じです。その名は「ペリドール」。
佐藤製薬が「ペリドール」が発売したのは、おどろくなかれ1987年3月。なんと30年以上前です。ペリドールのウェブサイトから引きます。
●ドイツ・ヘキスト社が開発した医家向「ペルガレン」をOTC医薬品にスイッチした製品です。 ●ヘパリン様物質ポリエチレンスルホン酸ナトリウムに吸収促進剤ニコチン酸ベンジルエステルを配合。血行をよくし塗布後10~15分で皮フの温度が1~2℃上昇。筋肉をほぐし、スポーツなどによる筋肉痛に効果をあらわすクリームです。
⑨アオキュアの元ネタは昔々の名門製薬メーカーの開発薬
ここで出てきました前出のペルガレン。ペルガレンを開発したヘキスト社は、世界初の抗生物質サルバルサン(梅毒の特効薬)を製造していたことで歴史上有名な製薬企業です。同社はその後合併等を繰り返し、いまは名前も消滅してサノフィという大企業の一部になっています(※4)。ちなみにサルバルサンを開発した研究者の一人は、日本の細菌学者秦佐八郎さんでした(※5)。日本とも縁のある企業でした。

サルバルサン戦記 秦佐八郎 世界初の抗生物質を作った男 (光文社新書)
- 作者: 岩田健太郎
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2015/03/17
- メディア: 新書
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⑩パッケージからは想像できない同一品がある
今年発売した小林製薬のアオキュアと、30年以上前に発売した佐藤製薬のペリドール。成分は同一ですが、両者のパッケージデザインはまるで異なります。写真をご覧ください。
そして効能効果の印象も異なります。
アオキュアの効能効果の欄は、
外傷(打ち身、ねんざなど)による腫れ・内出血、やけど・けがによる傷跡、しもやけ、手指の角化、肩こり、筋肉痛
これに対してペリドールは、
●筋肉・肩こり●手指の角化●しもやけ●外傷(打ち身、ねんざなど)による腫れ・内出血●やけど、けがによる傷跡
とあります。よく読むと書いてある順番がちがうだけなのですけど、アオキュアは青あざに、ペリドールは肩こりに効く印象です。まったく同じ成分なのに。市販薬のややこしいところです。
⑪圧倒的な価格差がある
価格もずいぶん異なります。先月このブログで紹介した際は、ペリドールは20g入りで1028円、アオキュアは5g入りで1404円です。アオキュアの値段の高さが際立っています。
⑫使用感は伸びがいいのはペリドール
ペリドールとアオキュアを使って比べた感想を書きたいと思います。
どちらの説明書にも、「塗擦後約10分で皮膚が赤くなったり、温かく感じたりすることがありますが1~2時間位でもとに戻ります」と書かれています。塗擦というのは刷り込みながら塗ることです。ペトペトと表面に塗るのではありません。
ペリドールを左腕・左肩に、アオキュアを右腕・右肩に刷りこんでみました。ペリドールののほうが伸びがいいですね。アオキュアはあまり伸びないかんじ。これは、ペリドールは筋肉痛肩こりなど広範囲に塗り、アオキュアは青あざの部分だけに塗ってとどまらせることを考えると合理的だと思います。
⑬においはほぼなし。塗るとじんわり温かい
どちらもにおいはわずかにありますが、気になりません。アンメルツのような”いかにも”な匂いは無しです。塗って5分後くらいにじんわり温かくなってきました。温感刺激で血行を促進してくれるのかもしれません。
効果のほどはわかりませんでした。
⑭ヘパリン類似物質じゃダメなの?
ここまで読んで、ふと疑問に思った方がいるかもしれません。アオキュアのエチレンスルホン酸ナトリウムがヘパリン類似物質とほぼ同じとして扱われている。だったら、ヘパリン類似物質も、青あざに使えるんじゃないかと・・・。
アオキュアの効能効果は「外傷(打ち身、ねんざなど)による腫れ・内出血」です。商品説明の効き目に「内出血」と書いてある市販薬は、じつはかなり珍しいんです。ヘパリン類似物質には内出血とは書かれていません。なので、使えないと言えば使えません。ただ「打ち身・ねんざ後のはれ」とあります。青あざができている場合ははれも起きていることも多々あると思いますので、その場合はに使うのは問題ないと思います。ここらへんの使用の是非はややデリケートです。自分で判断する前に店頭の薬剤師に聞いてみてください。
⑮アオキュアはボッタクリ?それとも親切?
アオキュアとペリドールがあまりに価格差があるので、「アオキュアってボッタクリじゃん」と思ってしまった人がいるかもしれません。心情としてはわかるのですけど、私はそうは思わないんですね。
アオキュアが登場する前は、青あざに使える薬があることを知っている人はそう多くなかったと思います。ペリドールを売っているお店も現実的には少ないですよね。それを小林製薬が現代風でわかりやすいパッケージにして、立派なウェブサイトやテレビCMなどを用意して、自社の流通網に乗せて消費者の目に届くようにする。そのコストや収益を価格に転嫁させる。これはどこの業界にもある企業努力であり、後ろ指を指されることではありません。
ある人にとってはボッタクリとも感じてしまう商品も、店員に相談せずに自分だけで薬を見て選ぶ人にとっては、わかりやすく親切な商品ともいえるのです。
⑯薬剤師に相談してみると良いことがある
もしろ私が言いたいのは、薬を買うときはもっと店員に相談をしてもいいんじゃないかということです。ペリドールとアオキュアが同じ成分だと知っていたら、ペリドールを買う人は増えますよね?ドラッグストアで薬剤師に一言「アオキュアと同じ成分で安い薬ってありますか?」と聞いてくれればいいんです。
ひょっとしたら、一昔前ならそのような質問にはあまり意味がなかったかもしれません。だって、ペリドールがそもそも町のドラッグストアに置いてないのだから。でもいまはネットでも薬を変える時代です。私はペリドールをアマゾンで買いました(※6)。
適切な情報を得ることができれば、よりリーズナブルに商品を購入できます。市販薬を取り巻く環境は大きく変わっています。自分一人の力で薬を選ぶのはしんどくないですか?よろしければ、薬剤師に声をかけてみてください。
参考情報
※1「青あざは、外部からのダメージ(打撲、摩擦など)によって毛細血管が破れ、皮下組織中に血液が広がり(内出血)、さらにその血液が一定の大きさで滞り(血の滞り)、滞った血液が肌表面に現れることで見られます。一般的に、肌が薄い、血管が弱い、筋肉量が少ない、冷え性(血行不良)の方は青あざができやすく治りにくいとされ、男性よりも女性の方ができやすいと言われています。」
新発売:アットノン『アオキュア』│2018年│ニュースリリース│小林製薬株式会社
※2WebMD:Bruises: Symptoms, Causes, Diagnosis, Treatment, Remedies, Prevention
※3ツイート主から教えていただきました。またグーグル検索でもおそらく同じ構造式と思われる。他の論文でも同義として扱われている。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8554324
※4サノフィの沿革http://www.sanofi.co.jp/l/jp/ja/layout.jsp?scat=675051D4-B6C9-43EE-BB9E-54AF73EA47B0
※5秦佐八郎さんについて内藤記念くすり博物館のご案内−トピックス
※6ペリドールを置いていないドラッグストアでお客から聞かれても困るという意見もあるだろうが、それならペリドールを置けばいい。あるいは、取り寄せや自社のウェブサイトで扱えばいい。