『家庭の薬学』

自分に合った市販薬を選びませんか?

【新春特別企画】どうして、ドラッグストアの薬は『残念』なのか?

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胸に刺さった大きなブーメラン

あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。

さて、2020年の当ブログはインタビューから始めたいと思います。控えめにいって、かなり貴重なインタビューです。

ご登場いただくのは、市販薬メーカー勤務のYURIIKAさん。「外用薬」と呼ばれる塗り薬や貼り薬の開発を担当する、若手の薬剤師さんです。

昨年末にたまたまツイッター上でのやり取りさせていただきまして、心にビシバシ響く言葉をいただきました。こちらがそのときのツイートです。

 

やり取りを見た朝日新聞アピタル編集長の野瀬さんは、

「これ、読んでおいて損はないどころか、ドラッグストアで薬を買う人(つまりそういうこと)にとって必読です。メーカーを悪者にして一見落着ではないという点は、見事なブーメランで胸に刺さる…。」

とRTしていただきました。ええ、実際わたしの胸にはブーメランが深くささっております。この話は生活者こそ、知っておく価値があるんじゃないかな・・・。もっと話を聞きたい・・・。

そこで間髪入れずにYURIIKAさんに「もっとお話を聞かせてください!」とお願いしたところ、ご承諾いただきました。やったー。

というわけで、今回は、市販薬メーカー勤務の薬剤師さんのお話を紹介します。メーカーさんの本音って、滅多に聞けないんですよ。貴重です。学びがあります。

どうしても多くの方に読んでいただきたくて煽りタイトルにしてしまいました。YURIIKAさん、ごめんなさい。

さあ、準備は整いました。それではお聞きください。YURIIKA feat. kurieditsで、曲名は「どうして、ドラッグストアの薬は『残念』なのか?」(拍手)。

市販薬の三大要素「古い、多い、派手」

 Kuriedits(以下K):本日はお忙しいところありがとうございます。よろしくお願いします<(_ _)>

 

YURIIKA(以下Y):よろしくお願いします。内服薬(飲み薬)ほど市場のメインではない、外用剤メーカーの立場からの、あくまで一意見になりますが精一杯お答えさせていただきます。

 

K:メーカーさんの本音は滅多に聞けません。勉強させていただきます。ぜひ、一般の方々にも興味を持っていただきたいです。

市販薬業界で仕事をしているわたしが言うと自己矛盾になってしまうのですが、市販薬って「薬の専門家からの評価が低い」んですよね。薬剤師はもちろん、医薬品登録販売者、医師も含めた医療従事者全般からの評判があまりよろしくない。もちろん、役立つ市販薬もたくさんあることは、私のブログでも何度も紹介してきました。ただ、市販薬という大きな枠で見ると「残念」な商品が多いんですね。

まず、市販薬で使われている成分が、医療用の薬と比べると非常に古い。それから、ひとつの薬に色々な成分が使われ過ぎている。また、パッケージばかりがきらびやかで、成分よりも見た目で購買意欲を喚起している

こうしたところが、”薬の専門家”である薬剤師から見ると、とても「残念」に映るのです。そして「市販薬はダメだ」と簡単に批判の対象になってしまう。薬剤師による市販薬批判はしばしば目にします。わたしもブログで何度も言及してきました。

じゃあ、どうしたらいいのか。メーカーの問題なのか。販売するドラッグストアの問題なのか。それとも、消費者側の意識の問題なのか。犯人探しではなく、メーカー側の視点からご意見をうかがいたいというのが、今回の企画です。

 

Y:よくぞ聞いてくださいました!という質問です。

新しい薬を開発しても市場が小さい

 

K:まず、そもそも、どうして市販薬には新しい成分の薬が少ないんでしょうか?

 

Y:わたしも、できるだけ新しい成分の薬を作りたいと考えています。けれども、それは簡単ではない理由があるんです。

 

K:というと?

 

Y:少々専門的な話になってしまうのですが、医薬品を製造販売するにあたって、まず国への許可申請が必要となります。 この申請にはレベル区分がしてあって、新規性が高い成分や配合組み合わせのものほど上の区分となり、臨床試験など申請に必要なデータが多くなります。対して、既存商品として販売実績のある有効成分やその配合の組み合わせは下の区分となり、臨床試験のデータ提出が必要なく、申請が容易です。臨床試験の有り無しで開発費が1桁2桁以上違いますから、市販薬はなるべく下の区分で申請をしたいのです。 というのも、市販薬市場は動く額が小さく、せっかく巨額を投じて新たに開発しても、回収できる額が少ないからです。

 

K:新しいものを作ろうとすると、国から臨床試験が求められるわけですね。それにはとてもお金がかかると。

 

Y:市販薬は回収できる額が少ないので、どうしても前例のある、古い成分を使うことになります。そもそも市販薬メーカーは、なん10億円をかけて臨床試験をできるほど潤滑なところは少ないのでしょう。大手の医療用も一般用も取り扱う販売社も、医療用へのコスト配分が大きく、一般用の開発にはお金をかけたがりません

 

K:市販薬は新規性の高い成分を作っても、それを受け入れる市場がないということですか。たしかに、ここ何年かの動きを振り返ると、医療用医薬品を手掛ける大手製薬メーカーが市販薬部門を子会社化したり、それどころか市販薬部門を他社へ売却するという噂が報じられたりしています。

 

Y:おっしゃる通り、バックの少ない市販薬の新規開発を削り、いったん医療用に注力するという方針に変更された販社さんも近年おられます。対して、化粧品メーカー様からの開発依頼のお声がかかったりしています。撤退する薬販社と参入する化粧品販社という、入れ替わりが起きつつあるかもしれません。

 

K:あまり知られていませんが、コーセー化粧品は2019年に医療用の保湿剤「ヒルドイド」で有名なマルホ社と共に新会社を作りました。市販薬などの企画・開発・販売を行うそうです。それに、化粧品最大手の資生堂は、すでに意外と多くの市販薬を販売していますよね。

 

Y:そう、意外ですよね。

ドラッグストアがメーカーに求める多成分製品

K:次の話題に移りますね。市販薬が抱える別の課題に、ひとつの薬に含まれる成分が多すぎるという点があります。たとえば風邪薬であれば5,6成分は当たり前、虫刺されの薬でも7,8成分以上入っている商品もあります。消費者の方々は「成分が多いのはいいことじゃないか」と思われるかもしれませんが、薬というのはそういうものではないんですね。医療従事者からするととても違和感があります。

 

Y:私は製販社の開発にいるのですが、開発依頼は大手販社さん・ドラッグストアさん・卸さんなどから入ってきます。こういうものを作りたい、と提示されるのが多成分の商品なのです。かゆみ止めの新製品を出す場合など、既存品と差を作るために無理やり成分数を増やすようにドラッグストアもしくは卸さんから要望されます。作る側もシンプル処方を作りたいのですが、そうすると買ってもらえないのです。

 

K:多成分の薬の開発は、本意ではないのですか?

 

Y:製販社からすると、多成分が入れば入るほど製剤化は難しくなるし、現場で作りにくいし、管理も大変なので、本音はシンプル処方が売りたいのです。ですが、新発売ならば既存の商品と変化をつけなければなりません。その場合、既存品・従来品よりいっぱい成分が入っているほうが、パワーアップ!より効く!といって売りやすいのです。受注を得るためだけの開発のこともあります。

 

K:うーん、なるほど。消費者にとってはわかりやすいですよね。

 

Y:そう!消費者のわかりやすさ重視ですね。

目立たないと売れない日本の市販薬

 

K:小売り・卸からの要望という話でいうと、パッケージの問題もあるようですね。市販薬批判の別の理由は、パッケージなどの”見た目重視”にあります。 豪華なパッケージ、キャッチ―なコピーなどは、消費者を薬効成分ではなく、見た目と印象で選ばせることになります。 これも製造するメーカーの問題として指摘されます。ただ、消費者にわかりやすく伝えるための企業努力と言うこともできますし、わたしのように店頭に立つ者は、その”わかりやすさ”の恩恵にもあずかっています。パッケージ問題はメーカー側が一方的に批判されるべきものなのでしょうか

 

Y:豪華なパッケージの1番の目的は、やはり他商品と差別化を図るためです。 医薬品のパッケージは、虫の侵入や改ざん防止のための構造にすることが求められますが、キラキラしているパッケージ(特に蒸着紙といわれるもの)は加工が難しく、製造に苦労・コストがかかるため、製造側は本当はあまりやりたくないけれど(笑)、目立たないと売れないのです。

kurieditsさんが以前ブログで言及されていたOTCの高額化ですが、商品棚で目につきやすくするためにキラッキラの紙にしたい!とおっしゃる販社さんが多くいらっしゃいます。そのため、すぐ捨ててしまう箱代に製造コストがかかり、結果価格も高騰するという、困った現状もあります。

 

K:パッケージの価値というのはデザインだけではないですよね。海外の市販薬は、日本ほどキラキラではありませんし、点字が刻まれている実用的なパッケージもあります。日本の市販薬は見た目先行といえます。

 

Y:パッケージを派手に!という要望は、販社からの要望であることが多いですね。逆に、ドラッグストアのプライベートブランドを作る際は、コストを抑えるために、キラキラじゃなくていいといわれます。

 

K:やたら地味なのもありますね(笑)。こうした、見た目問題や、配合成分が多すぎる問題の根っこには、なにがあると思われますか?

 

Y:うまくいえませんが、常に新しい商品を出していかなければ、いけない仕組みがありますよね。本当は、真に必要なシンプル成分のみの1つ2つの製品を売り続けていればいいのだけれど、資本主義の仕組みの中にいる限り、新しいものを出して競争していかなければいかない。その時、ほかと差別化を図るために、本来の目的から外れた付属要素を盛っていかなければならないスパイラルに陥っている気がします。昔どこかで読みましたが、まさに供給市場のドーナツ化現象ですよね。付属要素がこてこてとついたものは市場にあるけれど、目的にシンプルに直結したものが売り場にない状態。

「自分の健康を管理してくれるのは国」でいいの? 

 

K:本来、価値あるものを生み出し、その利益によってさらに価値あるものを生み出すというのが市場経済の好ましいあり方ですが、市販薬においては、どうもそれが上手くいっていないのではないかと感じます。全部がダメとはいわないけれど、もっとうまくいくやり方があるような。わたしがブログを始めたきっかけもそんな問題意識でした。いま、YURIIKAさんのお立場から、国や制度に求めることをお聞かせください。

 

Y:国へは、もっとセルフメディケーションを消費者にアピールしてほしいですね。保険がきいて安いから、みんな病院へ行って薬を処方してもらいますが、結局その出どころは生産年齢人口の財布からですし、若い世代につけを回しています。病院での窓口負担額が上がることについては、生活者からは反対意見ばかりです。でも、そうしないと働く世代の月々の給料の天引きが多くなっていってしまうということに、気づいてないのか、ご存じないのか・・・国民皆保険によって、自分の健康は国が管理してくれるもの、と完全に任せきっているのが見受けられます。自分の健康は自分のもの、というスタンスがなければ、少子高齢社会のため、財政も生活も押しつぶされると思います。

 

K:そこで一番身近な健康の相談窓口となるのはドラッグストアと薬局です。ドラッグストアと薬局には何を求めますか?

 

Y:私たちが作り出したものを、正しく理解して患者様に届けてほしいです。現場の医薬品登録販売者・薬剤師のみなさん全員が、患者様にあった商品を正しく選択できる力をお持ちであってほしい。薬学部在学中には市販薬の成分はほぼ習いませんよね。

 

K:逆に、市販薬メーカー側の課題は何でしょうか?

 

Y:市場調査が足りていないのではないかと。現場→DS営業→(販社→)製販社営業→製販社開発者とあいだに挟むことで、いろいろ見落としているものがありそうです。私は新卒でメーカーに入ったため、実習などでしか現場を知りません。

日本の将来に絶望を覚えて就職した市販薬メーカー

 

K:市販薬メーカーを就職先に選ぶ人は、薬学部全体でも少数です。YURIIKAさんはどうして市販薬メーカーを選ばれたのですか?

 

Y:私は薬学部の6年間学んだ中でなにが一番印象に残っているかというと、社会保障制度と経済についてなんですよね。「国民医療費がこんなに、日本の財政を圧迫している!」と。日本の将来に絶望を覚え、社会保障費を抑えるほうに加担(就職)したいと思ったんです

 

K:なるほど、となると、セルフメディケーションはキーになりますね。

 

Y:ええ、これからはセルフメディケーションの時代じゃー!と就職したわけです。

 

K:ふえ~。感動です。

 

Y:ただ、薬剤師はほんっとーに少ないです。弊社の開発のメンバーはほかの理系学部の人が多いです。生物系や有機系・工学出身の人もいます。

 

K:今後、日本の市販薬はどうなっていくと思われますか?欧州の市販薬企業を買収する日本の会社もあり、市販薬の世界でもグローバル化が進んでいます。

 

Y:グローバル化は感じます。製造現場でも商品でもグローバルスタンダードが求められているのをじかに体験しているので。海外は性悪説に基づくので細かく厳しいですね。

 

K:国内の市販薬市場はどうなりますか。

 

Y:市場規模は、国がもっとセルフメディケーションを後押しするようなメスを入れてくれなければ、今の制度ではかなり天井まで来ている感はあります。国の規制の緩和は、現状あまり感じていません。むしろPMDA(薬の製造承認を行う厚労省の外郭団体)に以前より厳しいことを言われているような・・・。

 

K:日本の市販薬市場は一般には7000億円ほどとされており、これは決して大きい数字ではありません。というか、むしろ少ない。政府主導でセルフディケーションという言葉を広めてきたのに、市場規模の額は実は何年もほとんど変わってないんですよね。

「こんな市販薬がほしい!」の声届ければ3年で商品化も!?

 

Y:新配合の新しい薬を出していきたいですが、開発費がかかるため、やはりこれからは市販薬に投資できる体力のあるメーカーが残っていくかもしれませんね。現状かなり制約が大きい業界ですが、許される中で工夫して、製剤を作っていきたいです。社会保障費を削り、未来の世代の負担を少しでも減らしたいです!!!

 

K:それって、国民みんなの課題ですよね。消費者や、ドラッグストアにできることもありそうですね。

 

Y:製薬メーカーは現場の意見・ご要望を随時熱烈募集していますので、もっとこんなのがあればいいのになどあれば、ぜひメーカーにお電話・お手紙などください。可能であれば、3年ほどでお手元に届けられるかもしれません

 

K:えっ!!それすごい情報!!!そういうの、意外と知られていないと思います。

 

Y:医療用医薬品は開発に長期を要しますが、一般薬は早い場合3年ほどで出せます。ほんとうに意見を欲しています。

 

K:そうだったんか・・・。本日は貴重なお話をありがとうございます。

 

Y:ありがとうございました。

 

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いかがでしたでしょうか。市販薬ってこうなっているんだな、と感じていただけましたら幸いです。

ブログ「ドラッグストアとジャーナリズム」は、市販薬についてもっと語ろう、自分に一番合った市販薬を見つけよう、というテーマで5年間続けてきました。市販薬情報の総量を増やして、もっと公に、いい面もわるい面も語られて欲しいなと思っています。

本年もご愛読くださいますよう、何卒お願い申し上げます。

 

<本記事は2019/12/29にツイッターのDMで行ったインタビューを編集したものです>