『家庭の薬学』

自分に合った市販薬を選びませんか?

米国で妊婦への鎮痛市販薬に新たな注意事項が追加されると発表【2020/10/19~10/23のニュース】

資格者向けの情報です。先週のニュースなのですが大切なので取り上げておきます。米国FDAが15日に発表したNSAIDSの妊婦への新たな注意喚起です。

Nonsteroidal Anti-Inflammatory Drugs (NSAIDs): Drug Safety Communication - Avoid Use of NSAIDs in Pregnancy at 20 Weeks or Later | FDA

https://www.fda.gov/media/142967/download

妊娠20週以上の妊婦に対してNSAIDSを使うと、まれではあるものの胎児への重篤な影響が現れるため、使用は制限し、30週以降は避けることを推奨しています。市販薬のラベル表記も変更するそうです。詳細はリンク先をご自身で読んでいただきたいですが、日本ではロキソニンやイブなどが妊娠末期(28週以降を指します。米国でも3ヶ月=出産12週前=28週以降で禁忌です)で禁忌となっていますので、これらへの影響も今後あるかもしれません。

FDAのアナウンスですが、禁止の理由としては、NSAIDSによってまず胎児の腎障害が起きるためとしています。妊婦の羊水は妊娠初期は胎盤の分泌物などで構成されていますが、16週以降は胎児の尿が主な成分になります(胎児診断・胎児治療 | 小児泌尿器科の主な疾患 | 日本小児泌尿器科学会 Japanese Society of Pediatric Urology)。そのため、胎児に腎障害が現れると羊水量が減ります。NSAIDSによる羊水減少が報告されているようです。

2017年までにFDAに報告された羊水低値または腎臓の問題の35例のうち、すべてが重篤なものだったそうです。妊娠中に低羊水量が検出された 11例では、NSAID を中止した後に体液量が正常に戻ったそうです。ほとんどの場合はNSAIDSを中止後3〜6日後に元に戻ると報告されています。しっかり検査して気づけば最悪の事態はいくらかは防げそうですが、死亡した胎児の中には、羊水の減少がみられずに腎障害を起こしていたケースもあったようです。

1〜2回程度の服用であれば問題はなさそうな印象です。要は「28週からが禁忌だから28週までは継続服用して良い」という理解は危険であるということでしょう。多分。

私は勉強不足で、こうした報告は今回初めて知りました。わたしに限らず「飲まないに越したことはない」くらいの認識で、こうした具体的な症例の集積をご存知なかった医療者もおられるのではないでしょうか。NSAIDSという世界中で長年かつ大量に使われてきたもので、しかも妊婦への投与時期についてはある程度コンセンサス(妊娠末期で禁忌)が得られている薬でさえ、こうした重大な注意事項(20週以降も禁忌ではないが出来るだけ避けるべき)が新たに追加されることがまだあるのだなあと感じましたが、FDAは今回の発表の理由を「この安全性に関する懸念は、特定の医療専門家の間ではよく知られていますが、私たちは、他の医療専門家や妊婦を教育するために、私たちの推奨事項をより広く伝えたいと考えました」と述べており、そうだったのかとガックリきました。

リファレンスはこちらから確認できます。報告数は決して多くなく、2000年以前のものもちらほらあります。

https://www.fda.gov/media/142967/download

また、例えばこちらはロフェコキシブによる障害(2005年報告)ですが、これは20週ではなく30週で避けるとしており、20週の妥当性は、個別の論文を確認して少し掘り下げなければ判断できないと感じます。

 

英語圏の反応を調べてみましたが、いまいち反応が鈍い印象。日本でもほとんど話題になっていない気がします。

詳しい情報は薬剤師の小嶋さんのサイトでも読めます。

米FDA、妊娠約20週以降のNSAIDsの使用を避けるよう勧告 | アポネットR研究会・最近の話題