『家庭の薬学』

自分に合った市販薬を選びませんか?

新型コロナワクチン接種と解熱薬の混乱【2021/6/28~7/2のニュース】

ワクチン接種が広まるにつれて、市販の解熱鎮痛薬が売れています。「アセトアミノフェン」が入っているという理由で、ノーシンやセデスといった、普段はそこまで売れない鎮痛薬が非常に売れているのが特徴です。

これは、ヘルスケアにとって、好ましい現象なのでしょうか?私個人としては、普段から使い慣れている薬を使うのが良いと考えているのですが、もし、解熱鎮痛薬をほとんど飲んだ記憶がないという方がいましたら、少なくとも、アセトアミノフェンが含まれていればなんでも良いというものではありません、ということはお伝えしておきたいと思います。

例えば、アセトアミノフェンを配合したセデス・ハイとセデス・ハイGに一緒に含まれているイソプロピルアンチピリンは「ピリン系」と呼ばれる鎮痛成分で、過去にピリン系の薬で副作用を経験した人は避けるべき薬です。多くの人は問題なく服用できますが、今まで一度もピリン系を飲んだことがない人が、わざわざ選んで飲むことは避けたほうが良い成分でしょう。初めて飲んで、ピリン系にアレルギー反応を起こした場合は、「ワクチンの副反応」と「解熱薬の副作用」の、ダブルパンチを受けることになるのですから。ちなみに、イソプロピルアンチピリンは、一部の風邪薬にも含まれます(ピリン系副作用は薬疹などが有名ですが、ピリン系鎮痛薬が他の鎮痛薬よりも高確率で薬疹が起きるというデータは、私は見つけることができませんでした。もしあれば教えてください)。

イソプロピルアンチピリンによる蕁麻疹型薬疹の 1 例

 

また、ノーシンも、アセトアミノフェン系の鎮痛薬として、SNSなどでしばしば取り上げられていますが、ここもやや注意が必要です。まず、ノーシンには色々な種類があり、アセトアミノフェンを使ったものと、そうでないものがあります。それから、アセトアミノフェンを配合しているものでも、アセトアミノフェン以外にもいくつかの成分が入っていることがほとんどです(ノーシンの中でもアセトアミノフェンだけのものもあります)。

例えば、ノーシンシリーズの1つである「ノーシン錠」は、エヌセイズと呼ばれる鎮痛成分の1つである「エテンザミド」が配合されています。厚労省は先般、アセトアミノフェン以外の鎮痛薬も安全であるというアナウンスを出していますが、ごく初期のころにアセトアミノフェンが良いという声が世間で大きかったのは、「エヌセイズではないので、比較的安全性が高く、幅広い人に使えるから」というのが理由だったと思います。ところが、今売れているのはそのエヌセイズの配合された痛み止めなので、これはどうしたことだろうという気持ちです。

好意的に見るのであれば、やや専門的にはなりますが、ノーシン錠はアセトアミノフェンだけの薬と、エヌセイズだけの薬の、その中間としての程よい選択肢である(アセトアミノフェンの市販薬の規定量だけでは効果が弱いので)、という見方もできますが、しかし、このような好意的な解釈をネット上で見ることは私はほとんどありませんし、利用者が知っているとも思えません。ですから現状は、アセトアミノフェンが入っているから、という理由だけで選ばれているのではないかと推測します。ノーシンを購入することが間違っているというわけではないのですが、ノーシンを購入した人の中で、上記の事情をご存知の方はどのくらい、いらっしゃるのでしょう。私はここに、市販薬成分への関心の薄さが表れているように感じました。

 

より深刻なものとしては、ここでは詳細は述べませんが、ワクチンを打たないで、市販薬で対処しようとされるかたもいらっしゃいます。とにかく、小さな混乱が続いています。