『家庭の薬学』

自分に合った市販薬を選びませんか?

ロキソニンシリーズの新商品「ロキソニン クイック」。速溶五輪の金メダリストは?【2021/7/31~8/6のニュース】

解熱鎮痛薬のロキソニンSシリーズに、新しい商品の登場が発表されました。8/24発売予定の、その名も「ロキソニン Sクイック」です。鎮痛成分に制酸作用のある「メタケイ酸アルミン酸マグネシウム」を配合。そして、水が速やかに錠剤が浸透して、溶ける速度を速めた工夫が施されているそうです。そのため名前が「クイック」。キャッチコピーの”痛みに0.1秒でも速く”には、思わず、ここまできたか、とうなりました。0.1秒て・・・。今がちょうどオリンピック開催期間だからでしょうか(0.1秒を争う戦い?)。

https://www.daiichisankyo-hc.co.jp/content/000105669.pdf

 

冗談はさておき、どのくらい速くなるのかというのは気になると思います。あいにく、私の手元には直接のデータはないのですが、制酸剤を配合することで、薬が体内に吸収される速度を高めたという、ヒトを用いた検証は、過去に他の鎮痛成分で行われています。

例えば、イブクイックという有名な鎮痛薬があります。こちらは鎮痛成分イブプロフェンと、制酸剤の酸化マグネシウムを配合しています。酸化マグネシウムによって胃の中のpHが上昇すると、イブプロフェンが早く溶けるというものです。以下の論文があります。

『速溶性イブプロフェン製剤の開発』

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpstj/69/5/69_329/_pdf

 

この論文によると、酸性のイブプロフェンは胃内酸性下では溶解性が悪くなります。そこで、酸性条件下での溶解性を改善することで吸収を速めることが出来ると考えられるというものです。早く溶けると、早く効くのでしょうか?上記の試験では実際にヒトを対象にして、血中の濃度を調べています。その結果、確かに、血中の薬物濃度が最も高くなる時間(Tmax)は改善されています。

ちなみに、マグネシウムによって鎮痛成分の吸収速度が変化することは、他の研究でも検証されています(と、ツイッターのフォロワーさんに指摘いただきました)。ある研究によると、鎮痛成分の中でも、イブプロフェンの吸収速度は改善したが、ジクロフェナクとケトプロフェンの速度は改善が見られなかったとしています(PMID: 2054265)。ロキソプロフェンはどうなのかと気になるところですが、あいにくロキソニンは日本以外ではあまり使われていない薬なので、こうした海外の論文には、だいたい登場しない、なかなか薬剤師泣かせな薬です。

効果の速さを謳ったロキソプロフェンは、ロキソニンクイックだけではありません。「ナロンLoxy」というロキソプロフェン薬も、水を含むと錠剤が素早く崩れる特徴を持っています。

頭痛に速く効く!ナロンLoxy(ナロンロキシー)|ナロンシリーズブランドサイト|大正製薬

また、あまり知られてはいませんが、「ナロンLoxy ロキソプロフェンT液」という、液体タイプのロキソプロフェンがあります。最初から溶けているわけですから、やや単純な考えではありますが、これが一番早いかもしれません。ただし、これは飲んだことがある方はご存知でしょうが、味が独特です。苦いわけではないのですが、私にとってはかなり「不味い」ものでした。

 

話をロキソニンクイックに戻しますと、「0.1秒でも速く」というキャッチコピーに、たぶん、嘘はないわけですが、実際はどの程度、早いのかについては今のところ私は知りません。昔の私は、「仮に、一番効き目が出るまでにかかる時間が30分程度の差であったら、それくらいの差は我慢できる、些細なものではないか」と思っていたのですが、これに対して「いや、生理痛は辛いから。数分でも何とかして欲しいから」というご意見をいただき、なるほど、と反省したことがあります。

ここら辺が、市販薬の難しいところです。そして、新商品というにも関わらず、薬剤師でさえ自分で探さなければ、薬学情報が入手しにくいのも、市販薬です。医療用医薬品のように、インタビューフォーム(詳細な薬学情報が掲載された資料)があればどんなにいいか、と今回の「ロキソニンクイック」の登場で、改めて思うのでありました。