『家庭の薬学』

自分に合った市販薬を選びませんか?

もし「市販の駆虫薬がコロナに効く」という誤情報を、身近な人から聞いたら?【2021/8/23~8/27のニュース】

新型コロナに効く市販薬がある・・・?そんな目を疑うような情報を巡って、今週、とある騒ぎが起きました。

市販の寄生虫薬「パモキサン」が新型コロナウイルスに効く、という情報がネット上で広まったことを受けて、今週8月26日、発売元の佐藤製薬が効果を否定するリリースを出したのです。

パモキサンは「パモ酸ピルビニウム」という成分の、ギョウ虫を殺すための飲み薬です。病院が出す処方薬ではなく、ドラッグストアや薬局でのみ市販薬として売られています。ですから、新型コロナウイルスとはなんの関係もありません。それが、なぜ?

多くの方々は一笑に付す話でしょうが、でももし、身近な人が、「市販のギョウ虫の薬が、新型コロナに効くらしいよ」と言ってきたら、どうやって止めたらいいでしょうか?

慌てずに対応するための、いくつかの情報を提供したいと思います。

 

①販売元のメーカーは効果を否定し、むしろ、そのような使い方をしないように注意喚起しています

26日に佐藤製薬は、現在新型コロナウイルスの治療薬候補として検討されているイベルメクチンと、パモキサンは別の成分であり、パモキサンに新型コロナウイルスに関する有効性と安全性は認められていないことを発表しました。同社には「イベルメクチンと同じ成分ですか」「コロナウイルスに効くのですか」という問い合わせが数多く寄せられているそうで、イベルメクチンとパモキサンを同じかもしくはほとんど同じような成分であると誤解しているケースがあり、それが今回の誤った情報の一因と考えられます。

②パモキサンは腸からほとんど吸収されません

パモキサンの商品説明書には「腸管からはほとんど吸収されず」と書かれています。つまり、全身へはほとんど吸収されず、腸内でギョウ虫を駆除してくれるということです。論文を調べてみると、1976年と非常に古いデータではありますが、パモキサンとほぼ同じ量のパモ酸ピルビニウム350mgを成人12名に飲ませたところ、血中や尿中からは検出されなかったこと、そしてラットを用いた実験では多少検出されたものの、代謝物は見られなかったとする報告があります。家畜に使うイベルメクチンも寄生虫を殺すという点では、パモキサンと共通していますが、イベルメクチンは体内に吸収されて腸だけではなく体全体のダニやシラミに効くことがわかっていますし、人間に対しても全身作用を期待して使います。パモ酸ピルビニウムは、米国ではすでに使われている様子がなく(FDAのデータベースから消えています)、詳しいデータが確認しにくいことも、イベルメクチンとの大きな違いです。(Absorption of pyrvinium pamoate

③たくさん飲めばいいというものではありません

ほとんど吸収されないというのであれば、たくさん飲めば良いと考える人もいるかもしれませんが、それはとても危険な考え方でしょう。パモキサンを大量に服用した場合のデータは見当たりませんが、ギョウ虫を殺す薬ですから、たくさん飲んだ場合に人間の体に害が起きてもおかしくはありません。こういう言い方は、脅し文句のようになってしまうので、あまりよくないかもしれませんが、パモキサンの成分であるパモ酸ピルビニウムは、米国では1950年代に承認されており、1980年代に日本国内外で家畜向けに使われ始めたイベルメクチンと比べても、非常に古い薬です。そして、パモ酸ピルビニウムはここ10年ほどは海外では、駆虫薬ではなく、がん治療の薬として研究対象になっています(これはイベルメクチンも同じですが)。このように寄生虫だけではなく人体に影響も与える可能性を考えると、やっぱり、使うには慎重になった方がいいと思いませんか?(The novel role of pyrvinium in cancer therapyPyrvinium Pamoate Induces Death of Triple-Negative Breast Cancer Stem-Like Cells and Reduces Metastases through Effects on Lipid Anabolism

④誤情報の発端となったのはスーパーコンピューター?

2020年7月に朝日新聞が出した「サナダムシ駆除薬がコロナにも?スパコン富岳研究で浮上」という記事が、パモキサンが新型コロナに効くかもしれないとの噂の引き金となったという見方があります。この記事は現在、有料購読者しか読むことができませんので、タイトルだけ見ると、パモキサンとコロナが関係しているような気もするかもしれません。しかし、実際に記事の中身を読めば、パモキサンの名前は登場しないことがわかります。候補として登場するのは、別の名前の成分です。この研究を行った京都大学と理化学研究所のサイトに詳しい内容が掲載されていますが、そこにもパモキサンの名前はありません。そもそも、この研究は、膨大な数の化合物の中から治療薬の候補となり得る化合物をコンピューターによって素早く抽出するというものであり、新型コロナに効く成分を突き止めるものではありません。

https://www.r-ccs.riken.jp/fugaku/history/corona/projects/okuno/

⑤腸内の寄生虫を殺すと、新型コロナ対策になる?

ツイッター上のあるアカウントが、寄生虫を殺すことで、デトックスで免疫を高めるといったツイートをしていました。非医療従事者なので、何気ない気持ちでツイートしたのだと想像しますが、寄生虫を殺すことがコロナ対策になり得るのでしょうか?ごく最近の研究では、むしろ、寄生虫を体内に飼っている人間の方が、重症化しにくい傾向があったとする報告があります。パモキサンで無理やり寄生虫を殺すことは、本当にいいことでしょうか?それはまだ、誰にもわからないことです。(Effect of co-infection with intestinal parasites on COVID-19 severity: A prospective observational cohort study、寄生虫感染がCOVID-19の重症化を抑える可能性:日経メディカル

 

さて、すっかり長くなってしまいましたが、とにかくこの1週間は、急転直下の出来事の連続でした。私が見てきた出来事の流れを簡単に紹介していきたいと思います。

始まりは8月24日(火曜日)、ある匿名アカウントがツイッター上で、パモキサンがコロナに効くというデマが広がっていることをつぶやきました。このツイートは現時点で約5800のリツイート、約3200のいいねとなっており、盛大とは言わないまでも一定の反響を呼びました。これに、複数の医療系アカウントが反応し、これは大変だということになり、どんどんツイートが広まります。そして、25日(水曜日)には医師兼作家のインフルエンサーがこれにコメントし、さらに拡散されました。

そして、26日(木曜日)に佐藤製薬が先述のニュースリリースを出し、27日(金曜日)には日テレのウェブニュース(テレビで報じたかはわかりません。映像なし)でも取り上げられるという、まるでジェットコースターのような展開に至ったのでした。ツイッター上で、誤情報の元として紹介されている、「コロナにパモキサンが効く」というニュアンスの複数のツイートは、いずれも8月中旬のものであり、ここ数日でパモキサンの話題がツイッター上に一気に流れた様子がうかがえます。

降って湧いたような今回に騒動ですが、白状しますと、コロナ対策にパモキサンを使っているという話は、これより以前にありました。

私が初めてお客さんからパモキサンがコロナ対策になるという話を直接聞いたのは、7月上旬のことでした。その直後にちょうど、毎月有志で開いているクローズドな市販薬のZOOM勉強会があったので、そこで参加メンバーたちに、「こういうお客さんがいたのだけど、情報の発信元や根拠について何か知っていますか?」と相談したことを覚えています。この7月当時、私が調べた際に佐藤製薬のパモキサンのウェブサイトには、すでに「承認された以外の使用はしないでください」という旨の注意書きがありましたので、おそらく佐藤製薬も途中から把握はしていたのではないかと思われます(コロナ以前からこの記載があった可能性もゼロではありませんが、可能性はかなり低いと思います)。

もっとも、その頃は、ネット上の情報に、パモキサンとコロナを結びつけるものは、ほとんどなかったと思います。去年のある時期から、パモキサンの需要が全国的に変化し始めたことはデータ上では知っていましたが、もともと全くといっていいほど売れない商品なので、増えたと言っても、「いつも全く売れない商品が、少し動いているね」程度のものでしたし、コロナと結びつけて購入されているという確証も、またそれが世間でどの程度起きている現象なのかもわかりませんでした。

そうこうしているうちに、今年8月19日(木)、つまり、佐藤製薬が新型コロナには使わないようにという注意喚起のニュースリリースを出すちょうど一週間前ですが、ZOOM勉強会の他のメンバーからも「最近、パモキサンがよく売れている(困っている)」という話が出て、これはいよいよまずいのではと感じる状況になり、これまで余計な情報は混乱を生むだけだと思ってあえて控えていたパモキサンの件もそろそろツイッターでつぶやいて注意喚起した方がいいのではと私が返したのが、その頃でした。

そして、週が明けると、瞬く間にこの問題がネット上で拡散されることになったのでした。木曜日の佐藤製薬のアナウンスが、ツイッターなどを受けてのものなのか、もともと予定していたものなのか、あるいは日テレの取材が入ったので慌てて作ったものなのかは、わかりません。ただ、あのようなアナウンスが出たことで、結果として、販売の現場は断りやすくなったと思います。アナウンスがあろうとなかろうと、断るべきなのは当然ですが、現場には色々な考えの資格者がいますし、そもそも資格者以外が販売することも多々あります。しかし、メーカーがアナウンスすることで、会社として社員に伝達がしやすくなります。

メーカーのアナウンス自体は、個々の薬剤師にとってさほど大きな意味は持ちませんが、全体を最適にさせるには、この上なく効果的な方法であると言えるのではないでしょうか。

 

専門家がいつもいつでも正しい訳ではないけれど、専門家に聞いて見てほしいということを、私は言い続けていきたいと思いますし、自分の手が届く範囲で、基本的な情報を伝えていきたいと考えています。新型コロナ対策で国際的に高い評価を受けた台湾のIT大臣オードリー・タンの、昨年出版した初の自著にこんなくだりがあります。

「公衆衛生の観点から言えば、『少数の人が高度な科学知識を持っているよりも、大多数の人が基本的な知識を持っているほうが重要である』」

 

 

 

 

<参考> 

佐藤製薬ニュースリリース

新型コロナ感染症の各種報道等の一部により、お得意様及びお客様より弊社の蟯(ぎょう)虫駆除薬「パモキサン錠」について、「イベルメクチンと同じ成分ですか」「コロナウイルスに効くのですか」というお問い合わせが現在、数多く寄せられております。  「パモキサン錠」の有効成分は「パモ酸ピルビニウム」で「イベルメクチン」とは異なります。また、「蟯虫の駆除」を効能・効果として承認された第2類医薬品で、新型コロナウイルスに関する有効性及び安全性は認められておりません。

 

8月24日の匿名ツイート

「お願い パモキサンはコロナに効かないということを広めてください イベルメクチンに続き、パモキサンの問い合わせが増えています もう一度言います パモキサンはコロナに効きません 加えて、このデマに乗じて売ろうするのもやめてください あるツイートからデマが広がっています ご注意ください」