●●●がない、唯一の薬
佐藤製薬が本気出してきた話です。
今週18日、一つの風邪薬が発売されました。この薬を紹介した私のツイートは、現時点で361”いいね”されています。同じ日に発売・発表されて、同じタイミングで私がツイートした別のメーカーの発毛医薬品の紹介ツイートが13”いいね”ですから、いかにこの風邪薬への関心が高いかがわかると思います。
その薬の名前は、佐藤製薬が18日に発売した、新しい風邪薬「ストナファミリー」。メーカーによると、家族向け総合かぜ薬としては「コデイン類」「メチルエフェドリン類(マオウ含む)」「カフェイン類」を配合しない、唯一の薬だそうです。確かに、成分表記を見ると、有効成分が4種類だけのシンプルな新商品です。シンプルなのに、どうして話題になるのか。ちょっとわかりにくいかもしれません。でも、シンプルだからこそ、話題なのです。 日本の風邪薬は、今まで新商品が登場すると、7〜8成分配合が当たり前でした。ところがストナファミリーはわずか4成分。しかも、他の風邪薬にはよく使われているような、交感神経を刺激したり、比較的副作用が懸念されるような成分や、近年では風邪にはあまり適していないと考えられている成分が、含まれていないのです。これが注目の理由です。
シンプルすぎる成分?それがいい
しかも、佐藤製薬は、先週11日にも「リングルN」という解熱鎮痛薬を発売しているのですが、こちらも他の解熱鎮痛薬と比べると、成分数が少なめです。これまで新発売されてきた解熱鎮痛薬のほとんどは3〜4成分が多いのですが、リングルNはたった2成分。成人1回あたりの成分はアセトアミノフェン300mg+無水カフェイン50mg。このアセトアミノフェンを主成分とする新商品というのが、また非常に珍しいのです。これにはコロナウイルスの影響もあるでしょう。一時期、コロナの発熱にはアセトアミノフェンが良いという情報が出回り、ドラッグストアからアセトアミノフェンが消えました。アセトアミノフェンは少量であれば比較的体への負担が少ない痛み止めとされていますが、市販薬の痛み止め成分としては、どちらかというとマイナーなほうで、アセトアミノフェンだけの商品というのはほとんどありません。そのため、急激な需要によって、あっという間に在庫切れとなったのです。佐藤製薬のような伝統的企業が、アセトアミノフェンを新発売するなんて、市販薬業界関係者でさえ、コロナ禍前には想像できたでしょうか。
「成分数が多いほどいい」の幻想
ストナファミリーも、リングルNも、成分が少ない、そして他の市販薬と比べると、安全性が高い、という特徴があります。もともと佐藤製薬は、「ポリベビー」や「リングルアイビー」など、地味だけど、少ない成分数で構成された看板製品を持っている会社です。ですから、ストナファミリーもリングルNも、佐藤製薬らしいといえば、らしいのかもしれません。でも、こういう薬は、今の時代、あまり売れません。「成分の種類が多いほど効きそう!」というイメージが付いている利用者には、受け入れられないんです。でも、薬剤師から見ると、この成分が少ないというのが、安全性の面から、とても価値があるんです。意外ですよね?
ストナファミリーもリングルNも、薬剤師から見ると「この成分はいらないな」と思うような成分もまだまだ配合されているのですが、それでも、今まで散々発売されてきた薬と比較すれば、画期的といっていいくらいです。
有名ブランドも「成分数減少」へ
「成分が少ない新商品」は、ここのところ、他のメーカーの新商品でもみかけるようになりました。今年8月にリニューアルした第一三共胃腸薬は、ロートエキスという成分を除外してリニューアルしました。ふつう、リニューアルすると成分が増えて「効果がパワーアップ!」風をアピールするものなのですが、第一三共胃腸薬の場合は、なんと、成分が減っただけという、非常に珍しいパターンでした。メーカーは、ロートエキスを除いたことで、緑内障の人にも使えるようにしたと説明しています。
ライオンが8月に発売した「バファリンプレミアムDX」は、「バファリンプレミアム」の後継品ですが、成分数は5から4に減少し、特に副作用の懸念が大きかった「アリルイソプロピルアセチル尿素」という成分がなくなりました。こうして見ると、どうやら、市販薬は「成分が少ない」こと、あるいは安全性に配慮した成分が、トレンドになっているように思います。仮にこのトレンドが続くとしたら、その先には、何が起きるのでしょうか。このブログで何度も書いてきましたとおり、これまでの市販薬は、成分を増やすことで、他の製品との差別化を図ってきました。成分が少ないと、どの薬も似たり寄ったりになってしまいます。メーカーとしては、新しい工夫が必要になってきます。
新しい工夫、新しい価値の時代へ
これについて薬剤師仲間の児島さんからは、ツイッター上で次のようなご意見をいただきました。
『個人的には製剤面と、あとは「お薬手帳に貼るシール」「危ない頭痛のチェックシート」「QRコードで楽しめる追加コンテンツ」…みたいなところで付加価値・差別化をして欲しいなぁと願ってます』
この方向性、私は大賛成です。例えば、メディカルミノキという発毛薬は、2018年に発売した当時、クリニック(AGA外来)を1回無料で受診できる特典をつけたキャンペーンを行ないました。市販薬を使って終わり、ではなく、治療全体を橋渡しして、サポートしようとすることは、これからとても大切になるように思います。
最近は、オンラインで医師などに健康相談するサービスがありますよね。例えば、市販の塗り薬に、そうした既存のサービスを利用できるクーポン券をつけて、「1週間使っても症状が改善されない場合は、クーポンで医師にご相談ください」と促すのも、市販薬をダラダラと使い続けることを防ぐことができるし、治療の成功につなげることができるかもしれません。
もっとも、これはすでに、ミナカラという会社が開発しています。自社で開発した塗り薬のチューブにQRコードがあり、ここから薬剤師に無料でチャット相談ができます。ミナカラは薬剤師が創業したベンチャーで、ちょうど昨日22日、NTTドコモとメドレーへの買収が発表されました。いいですね。
利用者や専門家の関心は、メーカーの新たな創意工夫を生み、その努力は利用者に還元されます。市販薬への関心が高まってほしいという気持ちでこのブログを続けてきた私としては、「成分が減った新商品が続々登場」現象を、歓迎したいと思います。
先週から今日まで1週間続いた厚労省が実施する『薬と健康の週間』に合わせて、今回のブログは特別バージョンでお送りしました。皆さんにとって、薬と健康への理解が深まることを祈っています。