『家庭の薬学』

自分に合った市販薬を選びませんか?

中国の人も真っ青では。日本の市販薬の品質信頼を揺るがす不正事件発生【2021/12/20~12/24のニュース】

年末に大きなニュースが2つ飛び込んできました。とくに1つめは驚愕です。

承認された成分を勝手に減らして医薬品を製造していた企業が、70〜75日間の業務停止処分を受けたというニュースです。報道によると、業務停止の処分を受けたのは、甲賀市の製薬会社「日新製薬」。 滋養強壮剤や子ども用風邪薬など5種類の医薬品を、有効成分や添加物を変えて製造していたそうです。有効成分の量を1%にまで減らしていたケースもあったようです。いやいや、1%て・・・。後述しますが、日新製薬は、ほとんどの人は名前を知らないでしょうが、インバウンド需要で人気のあったアンパンマンのかぜ薬を製造していた会社です。

これも後述しますが、過去の他企業への行政処分事例を見ていると、「無通告立入調査」と「匿名通報」がキーワードになりそうです。

20年以上前から続いていたという日新製薬の不正は、一部報道によると今年10月に県への匿名の投書がきっかけとなり、事前連絡なしの立ち入り調査によって実態が判明しました。

メーカーの発表から一部を引きます。https://www.nissinka.co.jp

2 処分に至った経緯、原因

当社の製造所で製造し、当社が製造販売する医薬品について、承認の内容と製造実態が異なる事実を認識していたにもかかわらず、法律に従い、適正に製造販売が行われるよう必要な配慮を怠り、製造販売しようとする製品の品質管理を行っていませんでした。2021年10月に滋賀県による無通告立入調査を受けました結果、過去において承認書の内容と異なる成分分量により製造を行った製品と認識していながら適切な薬事的対応を取らなかった等の事実が明らかとなり、今回の行政処分が実施されることになりました。

3 現在流通している当該製品について

消費者、お取引先様をはじめとする当社すべての関係者の皆様には多大なるご迷惑をおかけしており大変申し訳ございません。上記に関する製品につきましては、昨年10月より自主回収をしておりますので、現在市場に流通している製品はございません。

メーカーの発表によると該当製品は去年の10月から自主回収しているそうです。ん?去年の10月から?時系列がちょっとわかりにくいですね。平医師が「そういえば」と教えてくれたのですが、昨年10月に、ムヒのアンパンマンの子供風邪薬が自主回収になりました。それ以来、このアンパンマンの風邪薬は市場に出回っていません。このアンパンマンの薬を作っていたのが、今回行政処分を受けた日新製薬です。

https://www.ikedamohando.co.jp/pdf/20201014.pdf

当時10月のプレスリリースから引きます。

この度、日新製薬株式会社(滋賀県)が製造販売し、株式会社池田模範堂が発売しておりま す一般用医薬品「ムヒのこどもかぜシロップ Sa」「ムヒのこどもかぜシロップ Pa」「ムヒの こどもせきどめシロップ Sa」「ムヒのこども鼻炎シロップ S」において、製造販売元である 日新製薬にて、製品の製造時に使用する原料の受け入れ試験を一部実施していないことが 判明したため、使用期限内の全ての製品を自主回収することにいたしました。 原料については、原料メーカーにおいて規格に適合していることを確認しております。 また、最終製品については、必要な試験は全て実施しておりますので、本件に起因する重篤な健康被害の発生はないと考えています。なお、現在までに本件による健康被害の報告 はありません。

詳細は不明ですが、このアンパンマンのかぜ薬にも、成分が少なかったり、添加物が加えられていた可能性があったのでしょうか?できれば、ないならないと、公表していただきたいなと思いました。

というのも、アンパンマンの風邪薬は、インバウンド需要でものすごく売れた製品です。その製造メーカーが、こんなことになるなんて、中国の人たちが聞いたら、さぞビックリするでしょう。だって、「日本の市販薬は信頼できる」というのが、インバウンド需要の理由の一つだったのですから。市販薬でも自主回収はそこそこあるのですが、それは不正ではなく、試験をしたら適合しなかったなどのレベルです。ところが、今回は、成分によってはほとんど入っていなかった場合もあったのですから、次元が異なります。

昨今、医療用医薬品が手に入らないことが社会問題としてしばしば報道されていますが、これは、元々はメーカーが製造において不正をしていたというのが発端です。医療用医薬品があまりに大きな話題になったので、市販薬については、これまでそれほど大ごととしては扱われていなかったのですが、今回の強烈な不正事件は、今後、品質に対して深い疑念を与え続けることになるかもしれません。

 

市販薬業界で行政処分を受けるほどの不正は、そう多くありませんが、今年9月には大手の久光製薬がサロンパスホットで8日間の業務停止処分を受けています。

https://www.hisamitsu.co.jp/company/pdf/news_release_210812.pdf

「2020年5月、本製品の着色料が規格を満たしていないにもかかわらず適合しているものとして製造及び製造販売していることが社内調査で確認されました。当社は、この事実を直ちに佐賀県へ報 告し、2020年7月から本製品を自主回収いたしました。その後、佐賀県による一連の調査及び指導に従い、当社の品質管理及び製造管理に関する業務の改善に鋭意努めてまいりましたところ、このたび、佐賀県より前記の行政処分を受けることとなりました。」

これだけ読むと、ちょっと厳しいなと思いますが、詳細はわかりませんし、やはり大手ですからコンプライアンスは大切ですね。

漢方薬を製造している松浦薬業は2019年8月に、32〜34日間の業務停止処分を受けています。報道によると、これは匿名の通報があったそうです。

「県医薬安全課によると、今年2月14日に同課宛ての匿名の通報を受け、同社冨貴工場への立入調査を実施し、製造管理の不備を発見。その後、製造管理に関する改善と出荷済み製品の検証を行う中で、7月25日に医薬品117品目で厚労省の承認内容と異なる製造があったことが判明。さらに、そのことが発覚しないよう製造に関する記録を偽造し、薬事監視員に対しても虚偽の答弁を行っていた事実を確認した」

【愛知県】松浦薬業に業務停止34日‐漢方製剤の製造記録偽造|薬事日報ウェブサイト

「弊社の工場が製造する複数の医薬品について、承認書と異なる製造方法による製造を行い、製造に関する記録を偽造していたことから」

https://www.matsuura-gp.co.jp/etc/doc/2016032921413222_32.pdf

 

また、漢方薬を製造している北日本製薬は今年9月に26日間の停止処分を受けています。

https://www.999jp.co.jp/pdf/20210914release.pdf

こちらは「富山県による無通告立入調査を契機として社内調査を実施した結果」とのこと。日新製薬同様、無通告立ち入り調査が行われたそうです。

製造現場において完全無欠なものはありません。市販薬の自主回収は、以下のようにポコポコ発生をしています。内容も様々です。

 

クラシエ 2021年11月 

(同時期にコタローの漢方薬も廣貫堂製品が自主回収されてます)

「廣貫堂(富山県)が製造販売し、クラシエ薬品株式会社が発売しております一般用医薬品「虔脩感應丸」において、製造販売元である廣貫堂にて、製品の製造販売承認書と一部異なる内容があることが判明したため、使用期限内の全ての製品を自主回収することにいたしました」

https://www.kracie.co.jp/soudanshitsu/info/10172453_3856.html

 

エーザイ 2021年7月

「当社が製造販売する「ナボリン®S」(第3類医薬品)の一部製品について、長期安定性試験を実施した結果、有効成分の一つであるメコバラミンの含量が承認規格を下回っている、または下回る可能性があることが確認されたため、当該一部製品について自主回収することといたしました」

「ナボリン®S」、一部製品の自主回収のお知らせ | ニュースリリース:2021年 | エーザイ株式会社

 

また、薬ではありませんが、この12月に発覚して「えーっ」と驚いたのは、資生堂の看板ブランド、エリクシールで、発売以来ずっと容量を間違って記載していたというものです。

「「エリクシール シュペリエル デーケアレボリューション T+」において、表示容量35mLに対して内容量が約4mL不足していることが判明しました。これは、開発最終段階での内容量の数値の入力ミスが原因です。」

「エリクシール シュペリエル デーケアレボリューション T+」の内容量不足に関するお詫びとお知らせ | お知らせ | 資生堂 企業情報

 

医薬品の品質の問題は、来年も尾を引きそうです。

 

 

さて、この事件のせいですっかり忘れそうになってしまいましたが、今週20日には要指導医薬品「ベルフェミン」が発売しました。昨年11月の製造取得から1年以上。ずいぶんかかりましたね。ようやくかという思いです。

https://www.zeria.co.jp/media/news_release20211220.pdf

ベルフェミンは軽度の静脈還流障害(静脈の血流が滞ること)による足のむくみを改善する西洋ハーブを有効成分とする内服薬です。海外では足のむくむを改善する医薬品として使われています。日本ではむくみではなく、痔などに対して医療用医薬品で過去に使われていた成分で、現在は市販薬の痔の薬の成分として残っています。やや専門的な話になりますが、「(3)-①:新効能医薬品」という申請区分になりますので、いわゆる「ダイレクトOTC((1):新有効成分含有医薬品)」にはなりません。ゼリア新薬の過去のリリースではダイレクトOTCの記載がありましたが、そうではないですね。

足のむくむの西洋ハーブといえば、かつてアンチスタックス(2013年発売)という市販薬がありましたが、売上不振が原因と思われる理由で、2018年くらいに製造中止となっています。

というわけで、今回発売されたベルフェミンについては、さてどうなるのだろう、という気持ちで見ている薬剤師が大半ではないかと思われます。

 

申請資料概要

新一般用医薬品の承認に関する情報

審査報告書

https://www.pmda.go.jp/otc/2020/O20201102001/380077000_30200APX00412_Q100_1.pdf

議事録

2020年9月9日 薬事・食品衛生審議会 要指導・一般用医薬品部会 議事録

 

 

今週の資料

「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」https://www.jsaweb.jp/huge/atopic_gl2021.pdf

→3年ぶりの改訂。個人的には、アトピー性皮膚炎発症予防に新生児期の保湿剤外用が有用か(CQ11)について、ここ数年のエビデンスを踏まえての言及が興味深かったです。