『家庭の薬学』

自分に合った市販薬を選びませんか?

紙の説明書のない時代が市販薬にもやってくる?「薬の説明書」のリテラシー問題【2022/1/24~1/28のニュース】

添付文書(製品説明書)のない目薬が登場します。ロートCキューブ目薬が2月中旬からリニューアルし、なんと、ロート目薬史上初、添付文書が無くなるそうです。別紙の代わりに、製品情報は外箱の内側に記載されます。時代の流れを感じる、今週発表された気になる話題です。

コンタクト装着時の目だけでなく、地球のことも考えた「ロート Cキューブ®」シリーズ リニューアル | ロート製薬株式会社

 

添付文書のない市販薬は時々見かけます。外箱などに記載して入れば、必ずしも別紙をつける必要はないのが市販薬のルールです。ただ、実際は、ほとんどの薬に添付文書が入っているのが現状。それだけに、今回、ロートCキューブというメジャーな目薬から添付文書がなくなるというのは、とてもインパクトのあるニュースでした。ロート製薬では説明書をなくした理由を「目薬のラベルや紙の使用量を削減することで、環境にもやさしい商品としてリニューアル」としています。

 

「説明書のない製品」というのは、今やあらゆる製品で見られるトレンドと言えます。携帯電話などが良い例ですよね。例えば、ソフトバンクでは「環境保護に対する取り組みの一環として、ペーパーレスに取り組んでいます」と取扱説明書をつけていない理由を案内しています。環境保護だけではなく、自社のコスト削減という狙いもあるでしょう。

 

病院で処方される医療用医薬品でもペーパーレス化が進んでいます。法律によって紙の添付文書をなくし、数年以内に電子媒体に切り替わることが決まっているのです。医療用医薬品は、卸から薬局に納品された時点では、箱に入っており、その中に医療従事者が読むための添付文書が入っています。私が若い頃は、薬局で余った添付文書を持ち帰って家で読んだものです。今後は、医療従事者向けの添付文書がなくなって、パソコンやスマホなどの電子端末で閲覧するようになります。新しい法律(2019年)の運用は昨年からスタートして、2023年7月までが措置期間です。厚労省によると電子化には次の目的があるようです。

●最新の情報を載せるため(紙だとタイムラグがある)

●無駄な紙の削減

https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000757332.pdf

最新の情報を載せるというのはとても大事なことだと思います。同じ理由で、市販薬の添付文書も電子化されるのが合理的だとは思いますが、不特定多数の消費者の中には電子版を閲覧できない人もいるでしょうから、現実的には難しいでしょう。目薬という比較的安全性が高く、説明書を読まなくてもそれほど問題が起きにくいジャンルから説明書がなくなったのは、昨今のトレンドから考えると、現実的な路線と言えそうです。

 

では、紙の説明書無しの市販薬は、今後、増えていくのでしょうか。その場合の、メリット・デメリットは何でしょうか。薬剤師目線でいうと、まず思い浮かぶのが、「外箱の内側に記載されたら、読まれる機会もかなり減るのではないか」というデメリットです。説明書には、重要なことが書かれていることがあります。それを見落としてしまうのではないかという懸念があります。そもそも、外箱の面積というのはそれほど広くはないので、文字は小さくなるか、情報量を最低限にするしかないでしょう。歳をとると、文字が小さいと、読む気が失せますよね。

一方のメリットとしては、メリハリのある情報提供をする良い機会になるかもしれません。今の添付文書は文字の羅列で、どれが大切な情報なのかがよくわかりません。例えば、ベーシックな情報は外箱の裏に書いて、より注意が必要な情報は、小さめの別紙で添付するという方法が考えられると思います。そうすることで、注意が必要な情報が利用者に伝わりやすくなるかもしれません。消費する紙の量も、少なくとも今の添付文書よりは減るでしょう。

 

もっとも、「薬の説明書のリテラシー」という、より一層根源的な問題もあるかもしれません。先日、こんなツイートがありました。

 

ステロイドの市販薬は、説明書に必ず「顔面に広範囲に塗らない」旨が書かれています。理由は、例えばベトネベートであれば、顔は皮膚が薄いので副作用が出やすい、と説明されていますが、これだけでは、まさか眼科医のおっしゃる可能性があるとは想像できませんよね。薬の説明書をよく読むと「目の周囲には使用しない」と書かれてますが、これだけだと「目に入らなければいいんでしょ?」と考えてしまうかもしれません。それに「広範囲」というと、顔面積の5〜6分の1程度を想像する人もいるでしょうが、例えばリンデロンなら「500円玉大を超える範囲」と説明されており(根拠はわかりませんが)、これも「広範囲」から想像するイメージから離れているかもしれません。

薬の説明書には、とても大事なことが書かれています。でも、説明書を”自己流解釈”するのは危ないかもしれません。自分の体をよく知る医師や薬剤師と相談しながら使う方が安全だと思います。

こうした添付文書との向き合い方、いわゆるリテラシーも、「説明書のない薬」の時代において注目されるようになるかもしれません。

 

【参考文献】

ステロイドによる眼圧上昇はまだよくわからないところが多い印象です。下記の他に情報がありましたら教えていただけますと勉強になります。

●メタ解析 Risk of intraocular pressure elevation after topical steroids in children and adults: A systematic review

●アトピーガイドライン CQ3:アトピー性皮膚炎およびその治療は眼病変 のリスクを高めるか? https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/ADGL2021.pdf

●緑内障ガイドライン(第4版)には詳細記載無し?

●アトピー性皮膚炎患者の眼圧と顔面へのステロイド外用療法との関連性についての検討。参考値にはなりそうです。 https://www.jstage.jst.go.jp/article/dermatol/112/8/112_1107/_article/-char/ja