今週は薬の話は置いときまして(大きなニュースがなかったので)、代わりに、薬剤師が身近な健康相談相手になるという話題が多かったように思います。クオールはこの4月から、ラインで処方箋受け付けや服薬相談などを受けるサービスを開始しました。もともとは独自アプリであったサービスですが、高齢者を中心により広く活用してもらうために、ラインを活用することになりました。
薬剤師がファン開拓 クオール、LINEで服用相談: 日本経済新聞
国民皆保険制度では4月からリフィル処方箋がスタートしました。その影響もあるでしょう。ベンチャー企業のYOJOも、オンライン服薬指導に本格的に参入するというプレスリリースを出しました。
【株式会社YOJO Technologies】2022年4月の調剤報酬改訂に伴いオンライン服薬指導への参入を本格化:時事ドットコム
調剤においては、ラインやビデオなどを用いたサービスが増えていますが、市販薬の世界では、一足先に10年ほど前からネット販売が解禁されて、以前よりも購入しやすくなっています。薬剤師の関わり方としては、たとえば第一類医薬品であれば、ネット上で質問フォームがあり、購入者が入力したデータを薬剤師が確認した上で販売します。
ただ、当初描いていた理想と、現実とのギャップは、小さいとは言えません。ネットで市販薬が解禁された当時、デジタル化された患者情報で適切な販売が進むという考え方がありました。顧客の購買情報を元に、様々な健康提案もできる、といった見通しもあったかもしれません。しかし、実際は、ネットの薬剤師が、利用者の健康相談で活躍しているという話は、ほとんど耳に入ってきません。企業としての販売効率化と、利用者による利便性の向上という、双方のとりあえずのメリットが一致しているため、それでいいでしょうというムードです。
これは一体、なんでしょうか。どんなに素晴らしい技術や、今流行のDXを導入して、「新しい時代が来る」という雰囲気の装いをしていても、新しいサービスを提供しようという業界インセンティブが働かない限りは、絵に描いた餅になってしまうという、ありふれた現象が起きているにほかありません。
冒頭に紹介した、今週のニュースのように調剤業務のデジタル化が進むと、なにが起きるのか、私は専門家ではないので、わかりませんが、やや勝手な意見を述べさせていただくなら、いくつか思うところがあります。
まず、薬局でいつもいっぺん通りの指導しかしない薬剤師が、オンラインになったら仕事の質が上がる、ということはあまり期待できないでしょうから、デジタル化によって薬剤師のサービスの質が向上したと利用者側がすぐに感じることはないでしょう。
次に、リフィル処方箋やオンライン服薬指導が進むと、立地条件の優位性がなくなり、薬剤師個人が選ばれる時代になる、という見方がありますが、サービスを提供する上での薬剤師個人の技能には限りがあります。スーパー優秀薬剤師が高収益をもたらすことは間違いないとしても、スーパー優秀薬剤師は”異常値”なので、他の社員が真似できず、再現性がありません。「24時間対応してくれる薬局」「アプリなどのインターフェースが優れていて利用しやすい薬局」といったほうが、薬剤師個人の技能よりも、利用者が選ぶ決め手としては大きくなるかもしれません。会社はチームプレーですから、自分自身が選ばれる薬剤師になることが大切とはいえ、「俺はすごい!」とアピールするよりも、選ばれる会社(薬局)になるように周囲の薬剤師を育てていく、ということが、それ以上に大切なのは、勤め人としていうまでもありません。
最後に、オンライン化が進み在宅勤務が可能になると、働ける薬剤師が増えて、雇用市場は供給が増えます。初期の段階では「オンライン経験のある薬剤師」にプレムアムがつきますが、普及したのちは買い手市場となり、薬剤師のパートタイム給与は全体的に下がる傾向になるのではないでしょうか。
私はスタバが好きなので、よく利用しますが、どの店舗を利用しても、だいたい、スタッフと店内の雰囲気が常に一定レベルを満たしているので、安心します。薬局業界にもスタバ的存在が登場してくれると、嬉しいなと思います。市販薬業界においては、わたしはわたしのやり方で、頑張りたいと思います。