今週、Amazonが処方薬のネット販売を始めると発表しました。
「オンラインで処方薬を」
https://www.aboutamazon.jp/news/retail/amazon-pharmacy-japan
巨大プラットフォーマーのアマゾンが始める新サービスということで、テレビや新聞で大きく取り上げられています。「アマゾンが処方薬のネット販売に参入」(読売新聞オンライン)、「中小零細は淘汰の可能性も」(産経新聞)と、各メディアも刺激的な見出しが並んでいます。ただ、結局どういうサービスで、なにができるのか、というのはわかりにくいように思います。解説します。
Q1:アマゾンが「オンラインで処方薬」と書いてるけど、そもそも「処方薬」ってなに?
A1:医師が処方する薬のことです。
病院で医師が処方する薬を「処方薬」と表現しています。これは医師の診断を経て患者に提供される薬のことで、正式には「医療用医薬品」といいます。これに対して、医師の診断なしで購入できる薬、つまりドラッグストアなどで売られている薬を「一般用医薬品」といいます。いわゆる「市販薬」です。
Q2:アマゾンが処方薬を売ってくれるの?
A2:いいえ、実際に売ってくれるのは、アマゾンとは異なる会社の薬局です。
処方薬を得るには、「医師の診察」と「薬剤師による服薬指導」の2つのステップが必要です。これは、私たちがふだん、病院にかかって薬を受け取るのと同じ手続きです。アマゾンは診察も服薬指導もしてくれません。アマゾンとは異なる病院と薬局がオンライン上でおこないます。今回はウエルシアやトモズなどの薬局がアマゾンと提携し、オンラインで服薬指導をすると報じられています。ユーザーはこれらの薬局にお金を払って処方薬を購入します。
Q3:じゃあ、アマゾンは具体的になにをしてくれるの?
A3:ユーザーと病院・薬局をつなぐプラットフォーマーとして機能します。
ユーザーがオンラインの受診や服薬指導を受けやすくするための窓口になります。アマゾンファーマシーのアプリから、オンライン診療をしている病院や、オンライン服薬指導をしている薬局をみつけやすくなります。アマゾンは実際の売買をおこなうのではなく、プラットフォームを提供します。配送業務は現時点では、アマゾンではなく、薬局側がおこなうようです。
Q4:アマゾンからオンライン診療、オンライン服薬指導は簡単に利用できるの?
A4:現時点では、まあまあめんどくさいです。
実際に利用するには、まずアマゾンのアプリをダウンロードします。アプリ内で「アマゾンファーマシー」と検索すると、専用ページにとびます。このページで、電子処方箋のアップロードや、オンライン服薬指導をしてくれる薬局を検索できます。ただし、電子処方箋を受け取るには、病院を受診しなければなりません。街の病院では、まだまだ電子処方箋を発行していないところが多くあります。そこで、アマゾンは「CLINICS」という、これまた別の会社(株式会社メドレー)が提供するアプリに誘導しています。ユーザーはCLINICSをダウンロードして、ユーザー登録をしたうえで、そこからオンライン診療に対応している病院を探して予約します。私もここまでは実際にダウンロードして操作しました。正直、まあまあめんどくさいです。
Q5:オンラインにすると値段は安いの?受診は早いの?
A5:値段はむしろ高くなります。受診のタイミングは各病院の開院時間次第です。
ネットだからといって、とくに安くなりません。むしろ、オンライン診療だと「システム使用量」として1000円ほど別途かかり、さらにオンライン服薬指導後に薬を自宅まで配送してもらう場合は、送料が500円ほどかかります。Amazon公式サイトのQ&Aには、薬の値段はオンラインでも変わりませんとだけしか書かれていませんが、これはかなり恣意的な表現だと感じました。薬の値段は公定価格なので全国一律ですが、周辺のサービス料が別途かかるのですから。
診察や服薬指導を受けられるタイミングは、選んだ病院・薬局次第です。オンラインだからといって24時間365日というわけではありません。薬局が休みの日は、オンラインも休み。
https://www.amazon.co.jp/gp/help/customer/display.html?nodeId=TSvzXRlshIRwrrx7fd
Q6:結局、アマゾンファーマシーは何がすごいの?
A6:すごいところはありません。しいていえば、「アマゾンが始めた」ことがすごいこと。
オンライン診療・オンライン服薬指導はすでにほかの企業が手がけているサービスです。アマゾンが初めてではないですし、むしろ使い勝手は他の企業のほうが現時点では優れているという評もあります。ただ、今回の報道を見て、「アマゾン経由でオンラインで受診と処方箋受け取りができるなら、ちょっとやってみようかな」と思った人は多いのではないでしょうか。アマゾンの参入によって、オンライン治療のニーズの掘り起こしが進むと思います。
Q7:さいごはアマゾンがぜんぶ市場を奪って一人勝ちしちゃうんでしょう?なんか怖い。
Q7:さーどうでしょう。
アマゾンが新サービスを立ち上げると、「アマゾンVS●●」みたいな構図になりがちですけど、私の中ではアマゾンファーマシーの顧客は国内既存の大手薬局・大手ドラッグであり、あくまで彼らがやりたいことを業務支援するサービスだと捉えています。ネット情報によると、薬局はアマゾン経由で1件受注すると、アマゾンに手数料支払いが発生するそうです。アマゾンにとってのお客さんは薬局です。
もし対立軸のようなものがあるとしたら、アマゾン云々ではなく、「オンライン薬局の普及に否定的な勢 VS オンライン薬局の普及に肯定的な勢」だと思ってます。
以上です。私見も交えての解説となりましたが、ご参考になりましたら幸いです。