『家庭の薬学』

自分に合った市販薬を選びませんか?

年末年始のオンライン受診と、これからのセルフケアの話

オンライン受診すべきか、セルフケアすべきか、それが問題だ。新年早々、そんな状況に出くわしました。

大晦日、妻が高熱を出して寝込みました。私は自宅療養を進めたのですが、妻は受診を希望。しかし、巷ではインフルエンザが猛威を振るうなかで年末年始に突入したこともあり、SNSを見ていると、休日診療や救急では、体調不良のなか何時間も待たされる患者さんが結構いるようでした。

そこで今回、妻にはオンライン診療を勧めました。昼過ぎにオンラインで受診し、隣駅の薬局に薬を用意してもらい、その日の夜に薬剤師自ら自宅に薬を届けてもらいました。配達料はたったの500円でした。

人件費を考えると破格というほかありません。正月に診察してくれた医師にも、対応して自宅まで薬を届けてくれた薬局と薬剤師にも、感謝しかありません。

「受診するより100倍ラクだった。今後、これ(オンライン診療)は広まるね」

と妻の感想。いうまでもなく、今後、オンライン診療は確実に普及するでしょう。オンライン服薬指導も同じです。いまや、大手薬局のなかでオンライン対応に無関心な会社などありません。私が昨年参加した「次世代薬局EXPO」でも、オンラインやDXサービスは花盛りでした。

これは肌感覚からくる仮説に過ぎないのですが、私自身の過去のオンライン受診した経験や、今回の妻のケースを見ていると、ひょっとすると、オンライン診療というのは、対面よりも患者の主体性が強くなるのかもしれません。「私はこういう症状です」「こういう薬がほしいです」と妻は医師に伝えました。そして、ほぼ望み通りの薬が処方されました。一方、ふだんの対面診察の場合は、患者が望む薬が処方されないことは多い気がします。

理由はいくつかありそうです。1つは、オンラインのほうが患者が意見を主張しやすいこと。対面だと言いにくいことも、画面越しなら言いやすいことは、会社内のZOOM会議などを見ても実感できると思います。

また、モニター越しでは医師が患者から得られる情報量は制限されます。たとえばオンライン診療では、その場でインフルエンザの検査ができません(インフルエンザの検査の精度問題については今回は触れません)。患者が医師に伝える病状が、不正確だったり不十分であると、対面なら「念の為インフルの検査もやっておこう」と思う場面でも、そのまま見過ごされてしまう可能性が、理屈上はあり得そうです。

世界各国の研究報告では、一般論として対面診療とオンライン診療では治療の質的に大きな差はないとされていると記憶していますが、そうはいってもまったく同じというわけではなく、コミュニケーションの作法などは変わってくるのではないでしょうか。

オンライン診療は便利で新しい医療のカタチとして注目されていますが、実施している医療機関は全体の15%程度であり、実はそれほど広く普及していません。それに、体調不良のときに、初めてオンライン診療という未知ゾーンに足を踏み込むのはなかなかタフな作業です。

では、年末年始に体調不良になったら、オンライン診療以外にどんな手があるのか。思い出してほしいのが2020年に新型コロナが感染拡大したときのことです。

「診察を受けても大した薬は処方されないから、自宅で市販薬を飲んで様子をみる」

というスタイルが当時受け入れられていたことを、覚えているでしょうか。

風邪であれば抗菌薬は不要です。無理して受診をする必要はありません。インフルエンザの場合も、ふだん健康な人であれば自然回復します。抗インフルエンザ薬のタミフルは、症状の回復を1〜2日ほど早める程度で、そのほかは解熱剤などによる対症療法になります。だから受診する必要がない、と言いたいわけではありません。私はインフル罹患の常連客です。あの苦痛は、正直、1日でも回復が短縮されるなら苦労してでも受診をしたいと考えるのは、それはそれで共感できるものです。ただ、日本のように風邪でもインフルエンザでも、わざわざ受診して処方薬をもらうというのは、国際的にみるとわりと珍しいほうではありますが。

それに頑張って受診しても、インフルではなかったという場合もあるでしょう(私は経験があります)。市販薬で対処できる風邪かもしれません。風邪に特効薬はないので市販薬を飲んで家で寝ていることが1番の”薬”です。市販薬であれば、解熱剤の「アセトアミノフェン(製品名:カロナール)」や、咳止めの「デキストロメトルファン(製品名:メジコン)」、漢方薬なら「麻黄湯(市販薬の場合、正確にはインフルエンザには適応があるとは明記されていません)」や、インフルエンザの回復期に使う「竹茹温胆湯」なんてちょっと変わった薬もあります。

オンライン受診にしろ、セルフケアにしろ、主体性が求められるいまの時代では、基本的な健康知識は身につけておいて損はないと思います。

そんなことを突きつけられるお正月でした。

さいごに。ちょっと宣伝みたいで(というか宣伝なんですけど)恐縮ですが、市販薬によるセルフケアの解説書として『その病気、市販薬で治せます』を数年前に新潮社さんから出版させていただきました。「今の時代は、風邪をひいても受診は必須ではないんだな」というところから、共感いただけると嬉しいです。

このブログでも引き続きセルフケアとしての市販薬情報を発信してまいります。

というわけで、本年も何卒よろしくお願いします。