家庭の薬学

自分に合った市販薬を選びませんか?

高額療養費制度の「経済毒性」と市販薬制度【2025/2/17~2/21のニュース】

医療費のキャップを定めた高額療養費制度。この見直しによって1950億円の医療費削減効果が見込む案が政府主導で進められています。

https://www.yomiuri.co.jp/politics/20250221-OYT1T50118/#google_vignette

ところが、ここにきて患者側だけでなく医療従事者側からの反発や懸念も大きくなり始めました。制度の見直しによって、誰がどれほどの影響を受けるのかが見えにくいためと思われますが、その中で、こちらのインタビューが印象的でしたのでご紹介します。

政府は「現役世代を中心とした保険料負担の軽減」を目的の一つに掲げているが、高額療養費のデータを分析した研究者は、「今回の見直しで最も打撃を受けるのは、がんになった現役世代」と悪影響を心配する。

https://naokoiwanaga.theletter.jp/posts/a6a2a5a0-e42b-11ef-9e9a-6bb6bc7cb4d5

この研修者とは、五十嵐中(いがらし・あたる)さん。医療政策の費用対効果を分析する専門家です(東京⼤学⼤学院薬学系研究科 医療政策・公衆衛⽣学 特任准教授)。

重い病を抱えた現役世代が影響を受ける、というのがポイントです。

医療の現場にいる人は、誰もが「これ医療費のムダでは?」と感じる経験をしています。薬局でいえば、処方された薬を飲まないケースや、安価な薬でも良いのに高額な薬が出るケースなどは、よくある光景です。

医療のムダを感じているのは実は生活者も同じのハズです。「これ、医療のムダだな」と感じたことはないでしょうか。たとえば、自宅にたくさん残っているシップを、どさっと処方された経験は?

こうしたムダは、「本来不要な医療に公費が使われている」状態なでの、是正すべきことに異論はないでしょう。

ところが、今回の高額療養費制度の見直しは、ムダだから抑制しましょうという話ではなさそうです。ガンなどの重い病気の人への手当てを減らすことは、ムダ削減よりも優先すべきことなのでしょうか。

先述の五十嵐氏は「経済毒性」という言葉を使っています。少し長いですが引きます。

全体からすればごく少数だとしても、若いがん患者さんの自己負担を今から引き上げることは、生活を苦しくすることにつながってしまいます。 最近私は、「経済毒性」に注目しています。経済毒性は「お金がなくて薬が買えず、健康を損ねてしまう」だけでなく、「何とか医療費はまかなえるが、費用の工面で精一杯で、そのことで健康を損ねてしまう」のような副次的な影響も含む言葉です。 日本は公的な医療保険があるし、高額療養費制度もあるから経済毒性なんてないのではないかといわれてきましたが、婦人科系のがんなどで、8割以上の患者に経済毒性の問題が生じていることが、私たちの研究でも明らかになっています。 

2週間前に当ブログで、市販薬で購入できる薬の成分は保険から外すべきという政策が野党から提案されているということを書きました。期待される医療費削減額は、年間3000億円以上と試算されています(※)。これは高額療養費制度の見直しよりもずっと大きな額ですが、日本医師会は反対ですし、いざやるなら大掛かりな制度変更が必要なので、容易ではないでしょう。

とはいえ、それは政府の都合。

どのような選択を優先するにしろ、”決め”に至った理由には説明責任があると思います。

 

※報道では触れられていないが、この試算はおそらく五十嵐氏の過去の研究によるものと思われる。

https://www.mhlw.go.jp/content/10807000/000732424.pdf