水虫の季節です
気候が温かくなり、水虫の季節だ。「水虫の薬がほしいんだけど」というお客がドラッグストアに来る。
水虫の薬はドラッグストアでも手軽に購入できる。ただ、購入する前に知っておくといいことがある。その症状、本当に水虫だろうか?
医者も水虫薬で失敗
宮地良樹さんという、皮膚科の本をたくさん出しているお医者さんが、水虫薬の失敗を書いている。
宮地さんが医者になりたてのころ、足がかゆいという患者がいた。水虫だろうと思って水虫の薬を処方したが、症状が治らず、それどころかその水虫薬が原因で症状がひどくなった、という。宮地さんはこう書いている。
患者さんが「趾間がかゆい」というので,まあ水虫だろうと思って,はじめて水虫治療外用薬を処方したことがある.もちろん真菌検査などはしていない.その後しばらくして,患者が「足背までじくじくして,ますますかゆくなった」と言うため,皮膚科受診を依頼したところ,一言「外用薬による接触皮膚炎」とあっさり片づけられて,ステロイド外用薬が処方された.本当かなあ,といぶかっていると数日で治癒してしまい,もとの「水虫」も消えてしまった.その後,皮膚科医になってみて顧みると,もともと「水虫」ではない病変に抗真菌外用薬を処方したためにかぶれを起こしたのだとすぐに合点がいった.真菌感染症でない病変や浸軟した趾間などにいきなり抗真菌薬を外用すると,しばしば接触皮膚炎を起こすのは皮膚科医の常識だったからである.
水虫は見た目ではわからない
宮地さんの言うことの臨床的な正しさを、ぼくは専門外だから判断できないけれど、”水虫だと思っても、じつは水虫ではないことがある”ということは、あるのはないか。
水虫に似た症状の皮膚病はたくさんあり、実は皮膚科の医師でも、見た目だけでは水虫だと判断するのは難しいといわれる(※1)。たくさんの症例を見れば、腕のいい医師ならちゃんと水虫だって診断できるんじゃないのか。恒深祐一郎さんという、これまた有名な皮膚科の医師は、この見方を否定している。水虫の症状を訴える患者を診れば診るほど、臨床的な判断はアテにならないというのだ(※2)。
水虫だと確定するには、皮膚を一部を顕微鏡で見て、白癬菌(はくせんきん)と呼ばれる原因菌を確認しなくてはいけない(※3)。
その症状は本当に水虫だろうか?
医師でも診断が難しいなら、ぼくら一般人にわかるわけがない。
おもしろいデータがある。
「足に水虫ができた」と言って病院を受診してきた386例で、その患者さんたちの足の組織から菌を調べたところ、なんと42%の人に真菌の要素が見当たらず、実は水虫ではなかった。
水虫じゃなくてなんなのか。彼らの中でもっとも多かったのは、「接触皮膚炎」というだったという(※4)。接触皮膚炎とは、なんらかの物質が皮膚に刺激を与えることで起きる炎症だ。接触皮膚炎の患者からは、市販の水虫薬に含まれるクロタミトンというかゆみを抑える成分への反応がパッチテストで陽性だった。市販の水虫薬が症状を悪化させる可能性を示唆している。
夏に症状、秋に治るなら水虫の可能性高い
水虫かどうかは結局わからないのか。
経験則的にいうと、水虫の特徴は、夏になると症状が表れ、秋になるとしずまる。症状に季節性がある場合は、水虫の可能性が高いそうだ(※1)。
大事なことは、自分の症状が水虫であると決めつけないことだ。水虫の薬を塗っても症状が治らない、もしくは症状がひどくなったときは、水虫ではないことを疑ってはどうだろうか。
水虫だと思って市販の薬を塗って症状が悪化する。かもしれない。購入前に、薬剤師に相談することをお勧めする。
※1白癬(水虫・たむしなど) Q11 - 皮膚科Q&A(公益社団法人日本皮膚科学会)
※「てこずる外来皮膚疾患100の対処法」てこずる外来皮膚疾患100の対処法―達人に聞く究極の処方と治療のコツ : 宮地 良樹 : 本 : Amazon.co.jp
※3白癬(水虫・たむしなど) Q7 - 皮膚科Q&A(公益社団法人日本皮膚科学会)
※4「皮膚外用剤Q&A」で紹介。文献は、浅井俊弥 : OTC抗真菌剤に関する実態調査. 皮膚病診療 31 : 475-481, 2009