「尿素」が好きな人のために
乾燥肌の季節。カサカサ肌、かゆみ肌に、尿素クリームを買う人が増えているのだけど、インターネット上では、尿素のデメリットに注目が集まっており、かなりの悪評がたっている。あちこちでボコボコに叩かれている。たとえばコレ。
どうも評価は思わしくない。けれども、巷には尿素を愛用している人がたくさんいるのも事実だ。ネットの声なんて関係ない、世界中を敵に回しても尿素の味方だ・・・そんな熱烈な尿素愛用者のために、今回は尿素にまつわるマニアックな情報を紹介したい。
尿素には不思議な年齢制限がある
保湿薬という優しい響きからは想像できないが、実は市販の尿素クリームには年齢制限がある。たとえば、尿素の代表格「ケラチナミン」のパッケージには、小児(15歳未満)は使用できないと明記されている。尿素愛用者には周知だろうが、それ以外の人は、え?たかが保湿薬なのに?どんだけ?とツッこみたくなるかもしれない。
前提を押さえておくと、尿素クリームには尿素濃度10%の商品と尿素濃度20%の商品がある。10%の商品は、法律上は「指定医薬部外品」というカテゴリーで、これは医薬品ではない。そして20%のほうが「医薬品」になる。ちなみに20%尿素は医薬品だから、普通のコンビニでは販売していない(※1)。
さて年齢制限がある尿素は、このうち20%尿素の医薬品のほうだ。
ところが、20%尿素でも年齢制限が書かれていない商品がある。以下、代表的な製品の記載を挙げる。
●ケラチナミン(尿素20%配合)→15歳未満はダメと記載
●フェルゼアHA(尿素20%配合+他)→15歳未満はダメと記載
●メンソレータムやわらか素肌(尿素20%配合+他)→年齢制限の記載なし
●メンタームU20クリーム(尿素20%配合+他)→年齢制限の記載なし
どれも尿素20%の商品なのに、使える年齢が異なる。これいかに?
年齢制限の根拠は・・・
気になったので、製薬メーカーに問い合わせてみた。まずは、年齢制限をかけた某メーカーに、そもそもどうして年齢制限をかけているのかと訊ねたところ、
「国に提出する臨床試験で、小児は大人よりも肌の刺激感(副作用)が多く出たため、そのような記載をしております」
とのこと。たしかに、尿素は人によっては刺激感があると言われている。けれど、それにしても15歳未満が使えないというのは、ちょっと大げさなのではないか。実際、先に記したように、同じ成分なのに年齢制限があるものとないものがある。
そこで今度は、年齢制限をしていない某メーカーのお客様相談室に聞いてみた。
「たしかにそうのような記載をしている他社様の製品もございますが、当社としては、含まれる成分を考慮して、そのような制限は不要と判断しております」
僕としては「実は当社の製品は***を使っているので、お子様にも使えるんですよっ!」というトークを期待していただけに、意外な回答だった。他社さんは自主規制なんじゃないですかね、という口ぶりだった。
一応、薬の審査をしている国の機関PMDA(医薬品医療機器総合機構)にも問い合わせてみた。同じ成分なのに年齢制限があるというのはありえるんでしょうかと訊ねたところ、企画調整部の担当者の回答は、
「一般論としては、ありえる」
だった(※2)。
これらの情報を総合すると、尿素20%の年齢制限は、製薬メーカーの自主規制である印象を受けた。この自主規制が良いか悪いかは、また別の議論になるとして、僕個人の意見としては、「15歳未満使用不可」とされているケラチナミンとフェルゼアを、15歳未満に使用してもさほど問題はないと思う(※3)。
ただ、尿素はもともと刺激性のある物質だから、小さな子供や肌の弱い方には、尿素20%の市販薬は勧めない。
以上、だぶん誰も(くだらなすぎて)書いていない、尿素の年齢制限の話。
※1 一部のコンビニでは、薬局を併設することで医薬品も販売している。たとえばローソンは2014年7月現在、そのようなコンビニを93店舗を展開している。「健康」への取り組み|ローソン
※2 国は製薬メーカーが提出した申請に基づいて審査をする。だから、製薬メーカーが年齢制限を記載してなくても、そこに安全性を示す何か(データなど)があれば、審査は通るというわけだ。しかし、一般論としてメーカーにとっては企業秘密なので、申請データを僕らが見ることはできない。PMDAも守秘義務があり公開していない(ここらへん、医療用医薬品とは事情が異なるみたいだ)。製品によって年齢制限が異なる状態が起きた他の可能性としては、国の方から尿素に関する通知を出していることが挙げられる。しかし通知は膨大な数になるので今回は調べるのを止めた。
※3 あえていうならば、添付文書に記載から外れる使用になるため、副作用被害救済制度の対象外になるというリスクはある。しかし、尿素クリームで救済制度の対象となる事象(つまり重篤な症状)が起きる確率は、限りなくゼロに近いだろう。医療用医薬品の添付文書にもいえることだが、やはり表記はなるべく統一してほしいし、国とメーカーで話し合ってほしい問題でもある。