『家庭の薬学』

自分に合った市販薬を選びませんか?

ガマの油で作る「救心」が登山家に愛用されている?という話

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救心が山登りにいいだって?

あるとき、屈強そうな男性客から、

「これって、登山に飲むといいんですか?」

と質問されたとがある。男性が指さしたのは「救心」。あの、「きゅ~しん、きゅうしん♪」のCMで有名な、白箱の高級薬だ。その効能効果は、CMのナレーションのとおり、どうき・いきぎれ。

登山にいい?そうなの?初耳のぼくはうろたえた。急いでメーカーのサイトを確認すると、「よくある質問」のコーナーに、

「登山によいとききましたが?」

とあるではないか。わお、ドンピシャ。いや、でも、これ本当に”よくある”質問なんですか?まあいいや。

www.kyushin.co.jp

 

 

大学の実験でも実証されているらしいが・・・

この解説によると、

救心は登山愛好家の皆様から、登山時のどうき、息切れをはじめ、寝不足や疲労回復時の気つけに有効とのお声を頂いています

 という。名古屋大学で高所・低酸素環境下で実験したところ、救心が高山病の兆候を改善するデータが得られた。さらにいくつかの山岳チームでも活用され、その有用性が確かめられているそうだ。

ネットで検索すると、たしかに、登山に救心を使って効果を実感している人のブログ記事がでてきた。2つ紹介する。

・「高度障害が救心で劇的回復」http://www.yamakei.co.jp/outlier7035/?p=4

・「救心で20分後には元通り」http://mayocyan.exblog.jp/17371410/

ただし、前者を書いているのは、山と渓谷社の編集長で、この雑誌にたくさんの救心の広告があることを考えると、多少は差し引いて考える必要があるように思う。また、後者の感想も、救心のおかげで回復したかどうかはブログからはわからない。

救心が登山に効くというわりには、思ったよりも体験情報が少ないように感じた。

 

救心には血流が改善する効果がある・・・らしい

救心は、様々な天然の材料(生薬)を配合した薬だ。その効果は、血液の循環の改善にあるというのがメーカーの説明。血流が改善することで、どうき・いきぎれが治るというわけだ。

論文検索サイト「Cinii」で調べると、「救心総合研究所」が、救心を用いた研究をいくつか行っていることがわかる。残念ながら、どれもネズミで実験したものであり、臨床的な判断材料になるものはなかった(先述の名古屋大学の実験はでてこなかった)。

どんな実験か、理科系出身の人は、ネズミを用いた科学実験になじみがないだろうから詳しく紹介する。

 

恐怖!金玉袋に重りをつけて、水槽で強制遊泳

たとえば、「センソ含有製剤「救心」および関連生薬の強制遊泳延長作用」という長い名前の実験がある。

まず、ネズミの金玉袋に5gの重りを吊り下げて、水槽にいれて強制的に泳がせる。ネズミが力尽きて、頭が水面から完全に沈み5秒以上経った時点で、水槽からいったん引き上げる。そこで「救心」を飲ませて、15分休ませてから、再び水槽にドボン入れて泳がせる。そして、また力尽きたところで実験終了。救心を飲ませたネズミは、遊泳時間が(統計学的に有意に)延長したことがわかったという。

ci.nii.ac.jp

 

ガマの油「センソ」が気つけにいいらしい

この論文によると、救心に含まれる「センソ」という成分は、昔から、脳の血流改善や疲労回復に効く、いわゆる「気つけ」によいとされているらしい。センソは、ヒキガエルの分泌物を集めたもの。つまり「ガマの油」だ。救心はガマの油でできている。ぼくはこれも知らなかった。

www.kyushin.co.jp

救心の効果がもっと気になる人は、お店の薬剤師・登録販売者に聞いてみてほしい。詳しい店員なら、もっと色々教えてくれるだろう。しかし、救心は科学的データに乏しい分、薬剤師としては説明しにくい薬であることは確かだ。もやっとした解説でも、失望しないでいただけるとありがたい。

 

薬は動物の命を使って開発する

余談になるけど、さっきのネズミの実験、免疫のない人は「かわいそう」って思うかもしれない(ぼくはかわいそうだと思います)。でも、薬の実験ってみんなこんなもんだ。そういう実験のもとに、ぼくらの薬ができている。動物実験が悪いことだとはいいません。でも、ちょっと、覚えておいてください。薬が、動物の命を使い成り立っているということ。ねずみには、人間に言葉で伝えることができないのだから。