最近、いろんなところで「エビデンス」という言葉を聞きますね。医療業界に限らず、「えっエビデンスないの?」という日経新聞の広告が出たり、「エビデンス?ねーよそんなもん」と書いた朝日新聞の記者のコラムが炎上したり、当たり前のようにこの言葉が使われています。
医療業界でも長らくエビデンスという言葉使われていました。「エビデンスに基づく医療(EBM:evidence based medicine)」という言葉は、医療系の大学の授業では必ず出てくると思います。しかし、この「エビデンスに基づく医療」はもともと海外の言葉ではありますが、日本国内ではいくつかの誤解を含めて、人によって思い描く像が異なるようです。そのため、医療従事者間でさえ、しばしばエビデンスに基づく医療の在り方が議論になります。
もっとも有名な「エビデンスに基づく医療」の定義は、David L Sackettさんという人が1996年に発表した「Evidence based medicine: what it is and what it isn't」とされています。
Evidence based medicine: what it is and what it isn't | The BMJ
私は不勉強なので、この人が「エビデンスに基づく医療」の生みの親で、この方の定義こそが唯一だと一時期思っていました。ところが、ある時この分野に詳しい人に「EBM(エビデンスに基づく医療)は人それぞれですから」と言われて、EBMの捉え方には幅があることにハッとさせられました。
最近、医師で臨床心理学者の斎藤 清二さんが書いた「医療におけるナラティブとエビデンス」という書籍を読んだのですが、この本はまさにエビデンスに基づく医療の過去、現在、そして未来への広がりを感じることのできる一冊で、エビデンスに基づく医療の多様性と可能性を感じました。私が特に印象に残った一節をご紹介します。
エビデンス(あるいはエビデンスの候補)の質を担保するための客観的な評価法として、エビデンスの批判的吟味(critical appraisal)という作業が定式化されており、これはEBMの中核的な部分を占める。しかし、批判的吟味のための評価基準は、元々は疫学的な情報に適用するためのものである。もし、疫学的情報以外の情報をエビデンスとして認めてしまえば、臨床疫学の医療への応用というEBMの特徴のかなりの部分が失われてしまう。ここにはあきらかにジレンマがある。後にも述べるように、EBMは、もはや「臨床疫学の個別診療への応用」という定義を越える、より広い世界へと歩み出してしまっているように筆者には思われる。
医療におけるナラティブとエビデンス 改訂版──対立から調和へ
- 作者: 斎藤清二
- 出版社/メーカー: 遠見書房
- 発売日: 2016/06/15
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「エビデンスに基づく医療」の歴史についてはこちらも参考になりそうです。