『家庭の薬学』

自分に合った市販薬を選びませんか?

週刊現代『名医20人が飲んでる市販薬』は残念ながらこんな風にも書けてしまう

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市販薬で認知症になる――。衝撃的な内容で世間を震撼させた先週の週刊現代(6月16日号)のかぜ薬特集。同誌は今週、続報として”名医が使う本当に安心できる市販薬”を実名リストで紹介した。しかし、その内容に今度は薬剤師から疑問の声が上がっている・・・というパロディ記事をお届けします。どんな薬も記事の表現次第で良くも悪くも書けてしまうことお伝えします。

愛読者も目を疑った「かぜ薬特集」

「驚きました。愛読する週刊現代に『市販の「かぜ薬」で認知症になる』という特集記事があったので興味津々で読んでみたら、直接的な根拠は示されないまま印象論で書かれた記事だったんです」

こう語るのは大手ドラッグストアの薬剤師、薬師寺三郎氏(仮名)である。週刊現代を20年以上毎週購入しているという彼は、首をかしげながらこう続ける。

「さらに衝撃だったのが今週号の『名医20人が自分で買って飲んでいる「市販薬」』という続編記事。前号でかぜ薬の危険性を指摘したのに次いで、今回は名医20人にアンケートを行い「彼らなら、本当に安心な薬を選ぶ基準を持っている」として”安心”な薬を実名で紹介しています。でも、失礼ながら病院勤務の医師が市販薬に詳しいとは思えません。クオリティペーパーとして信頼してきた週刊現代が、まさかこんな記事を書くなんてショックです・・・」

薬師寺氏のような長年の購読者をあきれさせた週刊現代のかぜ薬特集。今週発売号では”名医”お勧めの市販薬を実名で多数紹介している。しかし、その内容に疑問を投げかける声が薬剤師から挙がっているのだ。

タイレノールに肝障害のリスク

突然の熱、だるさ、鼻水、咳――。風邪の引き始めにひとまず市販薬を飲む人は多いだろう。ドラッグストアには多種多様な風邪薬が並んでいる。どの薬なら安心して飲めるのか。週刊現代の名医たちが選んだのは「タイレノールA」(成分名:アセトアミノフェン)だった。安全性が比較的高く、病院ではカロナールという処方名で妊娠中の女性に使われることもある。

しかし、この薬が海の向こうで多数の死者を出している事実を知る日本の消費者は意外と少ないだろう。都内でドラッグストアS社を経営する薬剤師の三共次郎氏(仮名)がこう指摘する。

「タイレノール(アセトアミノフェン)は肝臓への副作用があることで有名な薬です。米国では市販薬のアセトアミノフェンの過剰摂取で肝障害、死亡者が多数出ている。FDA(米国食品医薬品局)でも安全性が繰り返し議論されてきたほどです」

事態を重く見たFDAは2011年にアセトアミノフェンの配合剤の含有量を制限することを決定。これを受けて日本の医薬品の添付文書にも肝障害への警告文が加えられた。「日本の市販薬は米国よりも低用量で使われているものの、体調が悪いからといって継続的にかつ大量に飲み続けてしまう可能性もゼロではない」(三共氏)という。

アセトアミノフェンは体内の酵素によって代謝されたものが、肝臓の細胞を破壊する。日本国内でも劇症肝炎が引き起こされて死亡に至った例が報告されている。とくに慢性の飲酒者や高齢者で肝障害が発生しやすいと考えられており、万人に使える薬とは言い難い。絶対安心だという思い込みは禁物である。

「私ならタイレノールは飲みません。タイレノールが元々外資系(ジョンソン&ジョンソン)の薬だから?ははは、それは関係ありませんよ。個人的にはロキソニンがお勧めですね」(三共氏)

総合感冒薬のほうが優れている

タイレノールが抱える問題はそれだけではない。

「タイレノールは解熱鎮痛のお薬なので、実は風邪による鼻水や咳には効きません。風邪の諸症状に効く総合感冒薬と呼ばれるタイプのほうが症状は和らぎます」

こう指摘するのは前出の薬師寺氏だ。週刊現代の取材では、ほとんどの名医たちはかぜ薬に総合感冒薬を選ばなかった。一方で、実際に我々が風邪で病院にかかると熱冷ましの薬、鼻水の薬、抗生物質など複数の薬が処方されることが多い。この理由を薬師寺氏が解説する。

「おそらく”名医”の先生方は、天才ゆえに鼻や咳を伴う風邪をひいた経験がないのでしょう。そのような方々のかぜ薬の選び方には疑問があります。風邪で体が辛いのなら複数の薬効成分が入っているほうが効果的。海外の風邪薬は薬効成分が1~3種類しか入っていませんが、日本では4~5成分は普通で、多いものだと10成分も入っています。海外と比較して日本のかぜ薬は多成分配合ゆえに優れているといえます」

病院でよく処方される総合感冒薬の代表「PL顆粒」は、頭痛や鼻水などに効く4成分が入っている。昨年から医療用よりも成分量がやや少なめの製品が市販薬として売られるようになった。ほとんどのドラッグストアで購入できる、処方薬に近いかぜ薬である。

痛み止めで男性ホルモン減少

名医たちが飲んでいるからといってその薬が安全だとは言い切れないようだ。週刊現代の取材によれば名医たちは頭痛薬にバファリンとブルフェン(イブ)を選んでいる。いずれも病院ではおなじみの薬で、少量であれば受診するよりも市販薬を購入した方が安くすむメリットがある。しかし、本当に安全な薬なのだろうか。

実は、三共氏によればブルフェンには男性にとって衝撃的な副作用の可能性があるという。

「ブルフェンはイブプロフェンという成分なのですが、これが男性を不妊にするかもしれないという研究があるのです」

2018年にデンマーク・コペンハーゲン大学のDavid Kristensen氏らが報告したところでは、イブプロフェンを6週間にわたって飲み続けた男性はテストステロンの濃度が20%も下がったというのだ。さらに精巣の組織への直接的な影響を調べた実験でもステロイドホルモンの生成にかかわる遺伝子の発現が低下したことが確認できた。

「市販薬のイブプロフェンを6週間以上も飲み続ける人はそういないでしょう。しかし、いないとも言い切れない。数日間だけ飲むなら安全であると思われますが、不妊リスクが上がる可能性は否定できません」(三共氏)

 断片的な情報に振り回されないように

日本の医療費は年々増え、社会保障費は過去最高を更新している。そこで政府は近年、軽度の病気であれば受診の前に市販薬で対応する「セルフメディケーション」を推進中だ。昨年からは「セルフメディケーション税制」という新制度もスタート。我々が市販薬に頼るケースは今後増すだろう。

だが、市販薬に意外な危険性が潜んでおり、製品ごとの特長を見分けることが難しいことは、ここまで見てきた通りだ。薬の専門家ではない我々は、どうやったら市販薬とうまく付き合うことができるのだろうか。メディアリテラシーに詳しい津村小太郎氏(仮名)はこうアドバイスする。

「薬と向き合う前に、健康情報との向き合い方を考え直した方がよいでしょう。アセトアミノフェンの肝障害にしても、イブプロフェンの不妊への影響にしても、インパクトこそありますが、いずれも断片的な情報にすぎません。特定の部分にフォーカスして、その一点のみで全体を評価するのは危険です。日本のかぜ薬は成分が多いという理由で海外と比較して優れているというのも根拠のない話です。一般的なトレーニングを積んだ薬剤師が聞いたら、強い違和感を感じるでしょう」

個々の情報よりも記事の全体像を見る

メディアの記事には、有識者・専門家が必ず登場する。しかし、学問として複雑化した医学の分野では、一専門家の意見が医療業界の常識と乖離することは珍しくない。また、取材中のコミュニケーションがうまくいかずに、発言者の意図とは異なるニュアンスでコメントが使われてしまうこともある。その結果、特定の情報だけが誇張されて読者に伝わる恐れがあるのだと津村氏は話す。

「木を見て森を見ない、森を見て木を見ないような記事には注意です。道路を走る車を指さして、あれはなんですかと質問した場合に「あれは金属です」と答えるような雑誌は信用できないということ。「金属」という答えは情報としてはウソではありませんけど、普通は「自動車です」と答えた方がより正確な情報に相手に伝えられるはずです。個々の情報だけでなく、全体像を正確に捉えているかを見るのが大切です」(津村氏)

我々に健康記事の真偽を読み解くのは難しい。健康情報に疑問に感じたら町の薬剤師に質問するのも手かもしれない。健康情報があふれる時代を生き抜く術は自分で見つけるしかないのである。

そして当記事もまた、90%が誇張もしくは冗談を交えているので全く信用してはいけないのである。 

 

 

本記事で紹介したアセトアミノフェンとイブプロフェンの副作用の記述は事実ですが、その表現は誇張とパロディで埋め尽くされています。この内容を信じてしまう人は、不正確な医療記事に惑わされやすい人かもしれません。ご注意ください。