『家庭の薬学』

自分に合った市販薬を選びませんか?

「じゃないほう」の正露丸、「キョクトウ」正露丸とは【2024/4/22~4/26のニュース】

一つお知らせです。薬業界で最も歴史のある薬事日報さんの4月17日付紙面に、私のインタビューが載っています。小林製薬の事件について、半分の紙幅をいただき意見させていただくという、大変光栄な機会をいただきました。ありがとうございます。https://www.yakuji.co.jp/entry109838.html

健康問題は、身近な相談者を作ることが大切だと私は考えています。拙著『その病気、市販薬で治せます』でも述べたとおりです。今は匿名の医療従事者に相談できるネットサービスがある時代です。相談できる機会は昔よりもずっと多いでしょう。そうはいっても、自分自身にある程度知識があるとないとでは、コミュニケーションのやりやすさ、信頼関係の築きやすさに違いが出るはずです。

多少の知識があれば、日々のニュースの読み方、捉え方も変わります。今日は今週の健康ニュースから、その一例を紹介します。

「じゃない」ほうの正露丸、キョクトウの正露丸

今週、下痢止めの「正露丸」でこんなニュースがありました。記事から引きます。

https://www.yomiuri.co.jp/medical/20240426-OYT1T50129/

胃腸薬「正露丸」の試験結果を改ざんして出荷したなどとして、富山県は26日、富山市の製薬会社「キョクトウ」に対し、医薬品医療機器法に基づく業務停止命令を出した。これまで県に健康被害の情報は寄せられていない。30日から、医薬品製造を23日間、販売を22日間停止させる。県によると、同社は国の規格で必要な成分が足りていないのに、虚偽の試験結果を作成して商品を出荷。2022年夏に実施された県の抜き打ち調査で不備が見つかり、同社は516万個の自主回収を行った。同社によると、試験結果の改ざんは少なくとも30年以上前から行われていたという。

キョクトウという会社が正露丸の製造で違反をしていたというものです。同社は、

「作業人員数に比して生産数が過多であり、生産計画の逼迫 が常態化しているために、業務に余裕がないということでした。作業員は、生産計画及び納期に追われ、 目先の作業をこなすことに精一杯の状況でした。」(キョクトウ資料より)

としています。

正露丸といえば大幸薬品が製造している”ラッパのマークの正露丸”が有名ですが、今回報道されているのはキョクトウという会社。正露丸とは特定のメーカーの商品ではなく、複数のメーカーが個々に作っている下痢止め薬なのです。

社員30名弱でも、実は身近なキョクトウの正露丸

もっとも、「キョクトウ?聞いたことないけど、生産が追いつかないほど人気があったの?」と不思議に感じた人がほとんどでしょう。しかし、私としては「あのキョクトウが・・・」と驚きました。ドラッグストアで、ラッパのマークの正露丸の横に、似たデザインで値段の安い正露丸が置いてあることがあります。それが「キョクトウ」の正露丸だからです。

正露丸のラインナップはドラッグストアによって異なりますが、「ラッパのマークの正露丸」「キョクトウ正露丸」「イヅミ正露丸」のいずれか1〜2ブランドを扱っている店が多いでしょう。PMDAのデータベースでは、サンドラッグ、ハピコム(ツルハなどが加盟)、マツモトキヨシ、NID(トモズなどが加盟)、キリン堂、明治薬品、富士薬品、コスモス、ゲンキーなどがキョクトウの正露丸の販売会社として登録されています(@ElekiTanさん情報提供ありがとうございます)。

キョクトウ株式会社の従業員はパートも含めてわずか27名(現時点のHPより)。会社規模こそ小さくても、キョクトウの正露丸は意外と身近な存在なのです。

メーカーごとに成分が違う

正露丸はメーカーや製品ごとに少しずつ成分が異なります。ラッパのマークの正露丸の成分は次の通りです(1日量)。

・日局 木クレオソート400mg

・日局 アセンヤク末 200mg 

・日局 オウバク末 300mg 

・日局 カンゾウ末 150mg 

・チンピ末 300mg 

キョクトウの正露丸は次の通りです。

・木クレオソート 300mg

・ゲンノショウコ末 300mg

・オウバク末 200mg

・カンゾウ末 150mg

・チンピ末 140mg

・ロートエキス 30mg

ちなみに、イヅミの正露丸は、こう。

・木クレオソート 275mg

・ロートエキス 19.8mg

・ケイヒ末 49.5mg

・オウバク末 99mg

・チンピ末 105mg

・カンゾウ末 165mg

ラッパのマークの正露丸と、キョクトウとイヅミの正露丸の違いは、いくつかありますが、注目したいのは「木クレオソート」の量と、「ロートエキス」の存在です。

「木クレオソート」と「ロートエキス」に着目

正露丸の主成分は木クレオソートであり、これこそが正露丸らしさといっても過言ではありません。木クレオソートには腸内の水分を調整する働きがあります。木クレオソートが最も多く配合されているのはラッパのマークです。

それに対して、キョクトウとイヅミの木クレオソートの量は少し少なめです。代わりに、「ロートエキス」が配合されています。ロートエキスとは腸の動きを抑えることで腹痛を和らげてくれる成分です。下痢止めの「ストッパ」などの一般的な下痢止め成分によく使われています。しかし、ロートエキスは腸の動きを押さえて便の排出を遅らせることから、細菌やウイルスを滞留させる可能性があるとされています。また、ロートエキスは授乳婦には使えず、前立腺肥大の患者さんにも注意が必要になります。つまり使う際に注意のハードルが上がるのがこのロートエキスです。

安全性を重視する視点からみると、「安全性の高い正露丸に、なんであえてロートエキス入れてんの?」となります。もっとも配合されているロートエキスの量は決して多くないですし、全ての人にロートエキスが注意を要するわけではありません。薬ごとの違いを理解した上で購入を判断すれば問題はないでしょう。

なお、キョクトウの正露丸には上記で紹介した製品以外に、「本方正露丸」「正露丸糖衣錠」もあり、これらはロートエキスを含んでいません。これらはパッケージを見ればわかります。

このブログを書きながら、ふと、そういえばうちの薬箱にも正露丸があったことを思い出しました。

そういえば・・・

我が家の下痢止めの常備薬は正露丸・・・

前回はどこの正露丸を買ったか・・・

製造販売元のラベルを確認してみると・・・・・

・・・・・

・・・・・・・・・

なんとキョクトウの正露丸。

以上、意外と身近なキョクトウの正露丸の話でした。