『家庭の薬学』

自分に合った市販薬を選びませんか?

子供の病院薬と市販薬のちがい【2024/4/15~4/19のニュース】

新年度がスタートして2週間が経ちました。

先日、こんな記事がありました。 「保育園に入った子どもは何カ月後まで風邪を繰り返すか…途方に暮れる親に小児科医が伝える「3つの研究結果」」

https://news.yahoo.co.jp/articles/606c9855ccb77ea99a730a19ceeb10b3a0b3a6b2?page=1

記事は以下のように伝えています。

佐久総合病院佐久医療センター・小児科医長の坂本昌彦さんは「フィンランドの研究では、月平均の病欠日数がピークになったのは保育所入所から2カ月の時点で、その後減少し、9カ月を過ぎる頃には落ち着いていた。これは小児科医の実感としても納得できるものだ」という

4月から保育園が始まり、ここから2ヶ月は風邪をひくお子さんが増えるかもしれません。

もっとも、小児科のクリニックに近い薬局では、こうした事情とは関係なく、小さな子供を連れた多くの親御さんが毎日来局されます。

その頻度たるや、凄まじいものがあります。毎月のように来局されるのはまだマシな方で、毎週のように受診して薬を処方してもらう人も珍しくありません。処方される薬は、大体いつも決まっています。痰や鼻水を出しやすくするカルボシステイン、アンブロキソール、その他アスベリンなどの咳止めです。

親御さんも慣れたものです。いつもの薬ね、というふうに受けとっていきます。

あまりに頻繁に受診するので、親御さんから、

「このシロップの薬って、どれくらい持ちますか?とっておいて、また風邪をひいたら飲ませたいです」

という質問を受けることも、よくあります。

子供の医療費は0円です。親御さんは薬局にお金を払いません。でも、本当は、というか当然ながら、薬局の人件費や薬代は発生しており、それらは社会保険料という公金で穴埋めされます。

親御さんも、好き好んで受診しているわけではありません。小さな兄弟・姉妹そろって風邪をひくケースもよくあり、小さな子供たちを連れて病院・薬局へ行く苦労たるや、大変なものでしょう。

 

では、子供の風邪も、大人の風邪のようにドラッグストアなどの市販薬で対処できないものでしょうか。

子どもは体調が急変しますし、成長が早く体重が増える速度も早いので、体格に合った適切な治療を受けるには、小児科を受診するのがベストです。ただ、「いつもの風邪症状で、薬をもらうために受診している」というケースも、かなりあるのではないかと思います。

子供の風邪は受診すべきか、セルフケアで良いかという診断に関わる込み入った議論は、いったん医師の方々にお譲りするとして、ここでは薬の成分に着目して懸念点を紹介したいと思います。

それは、医療用医薬品と市販薬のちがいです。市販薬全体で眺めても、小児用薬のジャンルは、医療用医薬品と市販薬で非常に大きな差のある領域です。成分が異なりますし、仮に同じ成分だとしても、市販薬に含まれる有効成分量は医療用と比較するとかなり少ないのです。

成分が異なる点の代表例は、鼻水を止める成分です。市販の子供風邪薬には、「第一世代抗ヒスタミン成分」が使われてます。この成分は子供の熱性痙攣が長引くリスクがあるため、何らかの理由がなければ風邪で処方されることはありません。ところが多くの市販薬では、この第一世代の抗ヒスタミン成分が配合されています。

有効成分の量も医療用と市販薬で異なります。たとえば、病院では1歳の子供に対して、仮にその体重が10kgだとすると、アセトアミノフェンという解熱成分を1回100mgくらい処方されます。では、市販薬ではどうでしょう。代表的な商品にムヒのアンパンマンの風邪薬があります。この風邪薬の1歳の子供の用量は、アセトアミノフェンでわずか1回30〜35mg程度です。市販薬でも座薬であればもう少し量が多いのですが、それでも50〜100mgで、しかも1日1回しか使えません(「こどもパブロン座薬」)。

こうした使い勝手が改善されると、小児の市販薬はもっと高く評されるようになるかもしれません。冒頭の記事では、小児科医がこう語っています。

「実は風邪のほとんど(9割以上)はウイルスが原因です。これらのウイルスを直接退治する薬は残念ながらありません。したがって風邪症状で受診された場合、処方される薬は去痰薬(痰を出しやすくする薬)や鎮咳薬(咳を抑える薬)などの感冒薬や解熱剤になります。これらはあくまで起こった症状の程度を緩和するものです。つまり早めに飲むほど早く効く(治る)わけではなく、今ある症状を(少しだけ)楽にしてくれる薬です。本人がぐったりしていたり水分があまり摂れなかったりする場合には早めの受診をお勧めしますが、そうでなければ焦って病院に駆け込まなくても大丈夫です。熱が高いと頭に障害が残るのではと不安になる方もいらっしゃいますが、そのようなことはありませんのでご安心ください。」

 

近年、大人用の市販薬は、名実ともに少しずつ病院薬に近づいています。今年に入り、ムコダイン、カロナールという2大ブランドが市販薬として発売しました。しかしいずれも、15歳以上が対象です。もしこの2ブランドの、こども向けの薬が出たら、どうなるでしょうか。

小児科領域を専門とする医師からすると、小児に対して市販薬を使ったセルフケアは危なっかしいと感じることもあるでしょう。その部分を少しずつ解消しながら、今とは少し違った小児用の風邪薬の登場を模索することは、結構意味のあることではないかと思います。

小児科医も、今のドラッグストアに並ぶ市販薬のままで良いなんて、思っているわけではないでしょう。